【報ステ解説】安全確保が高いハードル…なぜ岸田総理がキーウ訪問できないのか(2023年2月22日)
アメリカのバイデン大統領による電撃訪問を受けて、日本はG7で唯一、ゼレンスキー大統領と現地で会談をしていない国となりました。
バイデン大統領が、ゼレンスキー大統領と相まみえたのは、20日。その一報が伝えられた、ちょうどそのころ、日本では、岸田総理がウクライナへの新たな金銭的支援を表明しました。
岸田総理:「今年、日本はG7の議長国として、また国連安保理・非常任理事国として、ロシアによる侵略行為と戦うウクライナへの支援、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するための世界の取り組みを主導していく立場にあります」
岸田総理は、55億ドル、日本円で7300億円を超える新たな財政支援を表明。さらに、ロシアが侵略を本格化させて1年となる24日、G7の首脳たちと、ゼレンスキー大統領を交えたテレビ会議を開くと発表しました。
総理自身、現地入りを本気で成し遂げたいとは思っているようで、官邸でも、複数の案が検討されてはいるそうです。実は、24日のテレビ会議も、もともとは総理の現地入りと、ゼレンスキー大統領との直接会談を模索したものの、叶わなかったために差し替えた“プランB”。22日現在の政府の温度感はというと。
松野官房長官:「諸般の事情も踏まえながら検討を行っているところですが、現時点では何も決まっていません」
行きたくても、行けない。その理由は、いったいどこにあるのでしょうか。
一つは、警備の問題です。フランス、イタリア、ドイツの3カ国のトップがともに訪問した去年6月。周りを固める護衛の肩には、イタリア国旗のマークがあります。このときは、イタリアの憲兵隊や、フランスの特殊部隊が同行していたそうです。日本の場合、誰が担うのでしょうか。
浜田防衛大臣:「自衛隊をわが国の要人警護のみを目的に海外に派遣する明示的な規定はございません」
最低限のSPは連れていくにせよ、護衛は基本、ウクライナ軍に頼ることになります。バイデン大統領は、側近とシークレットサービス、医療班など、異例の少人数で決行しています。
課題は、警備のほかにもあります。今週、就任後 初めてウクライナを訪れたイタリアのメローニ首相。このケースは、珍しくイタリア国内で事前に報じられていましたが、多くの首脳は、極秘で訪問する形をとっています。
政府が神経を尖らせるのは、情報管理の問題です。
日本政府関係者:「さすがに総理が標的にされることはないでしょうけど、前後で線路を爆破とか、ロシアが嫌がらせをしてくることはあり得ますからね」
国会のルールもハードルの一つです。国会は今、2023年度予算案の審議、真っ最中。実は、会期中に、総理や大臣が海外へ行くには、国会の了承が必要となります。訪問スケジュールを通知する以上、秘密にすることは、開会中は困難です。予算審議も立て込んでいて、なかなか日本を離れにくいのも実情です。
いよいよ、焦りにも似た声が、漏れ聞こえ始めています。
外務省幹部:「かなりプレッシャーがかかっている。5月の広島サミットまでに行かないということはないだろうが、春には戦況が厳しくなるといわれていて、行きにくくなる面もある」
◆千々岩森生官邸キャップに聞きます。
(Q.岸田総理のウクライナへ行く意欲というのは、間違いないですよね)
間違いありません。岸田総理の目の色が変わったきっかけがあります。去年11月、G7・NATO緊急首脳会議がインドネシアでありました。ここで、岸田総理は各国首脳から「岸田はウクライナへ行ってないのか」と聞かれたといいます。多くの欧米諸国のトップが、すでにウクライナ入りしているのかと、肌で感じたといいます。5月の広島サミット、議長国でもあり、主要なテーマは、当然、ウクライナ問題ですから、それまでに行かなきゃいけないとの思いが強くなりました。
いろいろ模索しているなかで、最初のタイミングは、去年の国会が終わった12月でした。ただ、このときは、ロシアのミサイル攻撃が激しく続き、安全上、止めたようです。今回、バイデン大統領、そしてイタリアのメローニ首相も行ったことで、岸田総理が、焦りを感じたのは間違いないと思います。外遊を準備する外務省、特にヨーロッパを担当する欧州局には、官邸サイドから、かなりプレッシャーかかっているといいます。
(Q.ウクライナ訪問へ最大のネックとなっているのは何なのでしょうか)
やはり安全確保が高いハードルとなっています。憲法の兼ね合いもあり、自衛隊を連れていくわけにもいかず、どう安全を確保するか。アメリカ政府・軍にも内々で相談した形跡がありますが、“秘密保持”、つまり情報が漏れる恐れがあると難色を示されたようです。ウクライナ当局に対して、警護を依頼するなどの話も政府内からは今のところ出てきていません。総理大臣が戦地に赴くという、戦後の日本が想定していなかった事態が目の前にあるともいえると思います。
(Q.先日、キーウでポドリャク大統領府顧問にインタビューしたとき、「日本にはG7の議長国として、ウクライナを支援することの大切さを発信し続けてほしい」と話していました。リスクは最大限低くするにしても、ゼロにはできない以上、総理が訪問を望むなら、後は総理の決断一つではないでしょうか)
究極的には、その通りだと思います。外務省からすれば「こうすれば行けるけど、同時にこんなリスクもあります」と提示するまでが官僚の仕事です。最後は政治が決める、つまり総理が決断する事柄であると思います。私は、行くか行かないかといえば、5月の広島サミットまでには訪問する可能性の方が高いと見ています。ただ、同時に、政府内では、ゼレンスキー大統領を広島サミットに呼ぶというアイデアもささやかれています。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
コメントを書く