【報ステ解説】「目先の支援ばかり」何を間違った?“異次元の少子化対策”必要なもの(2023年1月19日)

【報ステ解説】「目先の支援ばかり」何を間違った?“異次元の少子化対策”必要なもの(2023年1月19日)

【報ステ解説】「目先の支援ばかり」何を間違った?“異次元の少子化対策”必要なもの(2023年1月19日)

少子化が進む日本。日本で生まれる子どもの数は、去年は77万2525人と推計され、初めて70万人台となるのが確実な状況です。これは政府の予想よりも8年早いペースです。

“異次元の少子化対策”の実現に向けて、政府は19日に初会合を開きました。

◆「パラサイト・シングル」「婚活」「格差社会」などの言葉を生み出してきた、家族社会学の第一人者で、少子化問題にも詳しい中央大学・山田昌弘教授に聞きます。

(Q.30年来、対策が叫ばれてきたにもかかわらず、少子化に歯止めがかかっていません。対策に間違いがあったのでしょうか?)

まず一つ目は、目先だけに目が行っていたことがあると思います。1990年代は、女性1人あたりが産む子どもの数は減っていましたが、子どもの数自体はそんなに減りませんでした。2000年代もそれほど減りませんでしたが、30年経って、子どもが少なくなった年代が出産年齢に入ってきました。そのため、出生数が急変し、慌てだしたということです。当時は、30年先を見越した長期的な対策まで考えが及んでおらず、危機感が薄かったということだと思います。

2つ目は、少子化対策としてやられてきたことの大きな柱は、保育所整備と育休取得促進でした。ただ、それが果たして、全ての若い人に有効だったかというと、そうではありません。「女性が働く環境を整えれば、子どもは増える」とヨーロッパ型の対策をしましたが、それはあくまで「女性が正社員で育休を取れる立場にある」ことが前提です。現実には非正規社員やフリーランス、自営業、専業主婦などの人がいます。そういう人に対する対策が、ほとんど全く取られて来ませんでした。

(Q.政府は“異次元の対策”として、3つの柱「経済的支援(児童手当を強化)」「サービス充実(保育園など拡充)」「育休強化(働き方など推進)」を打ち出しています。このなかで重要なポイントはどこですか?)

先ほども話した通り、働く女性と言っても、正社員からフリーランス、非正規雇用まで色んな立場の人がいます。色んな立場の人にもれなく届くような対策が求められていると思います。例えば、収入が少ない非正規社員同士で結婚して、子どもを育てている人には、とにかく児童手当などの手当拡充が必要です。逆に正社員で共働きの人は、お金よりも育休後の復帰の保障や、働き方改革で労働時間を短くするといった対策が必要です。色んな立場の若い人たちに対して、きめの細かい対策が必要だと思います。

(Q.今挙げられている対策は、これまでの少子化対策の延長に過ぎないのではないかと考えてしまいます。抜本的な、まさに“異次元”な対策を考えた時、どんな対策を想定しますか?)

今、子どもを育てている世代が、お金をもらうことは悪いことではありませんが、それだけで子どもを産むか。むしろ、将来子どもを長期的に育てていくにあたって、経済的な不安があるかないかという方がずっと重要だと思います。つまり、今、お金が足りないというよりも、将来、子どもにかかるお金が心配だから産まない。産まないのだったら、結婚しない。さらには、恋愛をしない。このように、どんどん少子化になってしまいます。逆に言えば、将来の学費の心配をなくしてあげた方が、少子化対策としてより効果が大きいと思います。

(Q.将来の学費の不安を払拭するためには、かなりの財政支出や、政府にも相当な覚悟が必要になると思いますがいかがですか?)

1980年代に比べて、今は国立大学も私立大学も学費が相当値上がりしています。それを親が全部負担しなければならないと思ってしまう。奨学金などを借りれば、今度はそれが子どもの負担になって、子どもに申し訳ない思いをしてしまう。そのため、子どもの数を絞ることがあると思います。専門学校や大学など、高校卒業後の学費の心配を少なくするというのが、大きな対策になると思います。

近年有名になっているのは、ハンガリーの少子化対策です。GDPの5%弱を使って、例えば子どもの数に応じて住宅ローンを減免するとか、4人以上子どもを産んだ女性は一生、所得税免除されるなど、思い切った対策を取って、出生率が上がりました。(合計特殊出生率:2010年は1.25→2021年は1.58)

GDP約500兆円の日本に当てはめると、25兆円になります。それだけ捻出する覚悟があるかどうか。それで大学や専門大学の無償化、奨学金返済の減免など、思い切った支出をしなければ、そう簡単に子どもが増えてくれるとは思いません。

(Q.共働きで子育てをすることが当たり前になっているなかで、キャリアも踏まえると女性の方が負担が大きいと思います。社会全体の意識を変える必要がありますか?)

男性1人の収入で暮らさなくてはいけない、女性は家事をしなければいけないというような、性別役割分業の思い込みというものが、結婚をためらわせる大きな要因になっています。まだ日本の女性の家事時間は、世界1位くらい長いです。

(Q.巨額の財政支出や、官民挙げてライフスタイルを変えていく取り組み。いずれも相当な覚悟が必要だと思います。仮にそれができなかったら、私たちはどうなっていきますか?)

少子化を受け入れるしかありません。ただそうなると、確実に働く人の数がどんどん減って、日本人の生活が徐々に貧しくなります。「今も貧しくなっている」と思っている人も多いと思いますが、それが続いていくことを受け入れるしかない状況まで、日本社会が追い込まれていると考えた方がいいです。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>

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