【報ステ解説】イスラエル世論にも変化?ガザ“燃料枯渇”国連が支援活動停止の恐れ(2023年10月25日)
イスラエル軍による空爆が激化するなか、パレスチナ・ガザ地区を支援するUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)は、支援物資に燃料が入らないため、25日夜に全ての燃料が尽き、活動ができなくなると明らかにしました。
病院ではすでに、真っ暗ななか、携帯の明かりを頼りに搬送が行われる場面も出てきています。国連が設置した150カ所の避難所には約60万人がいて、通常の4倍を受け入れている状態だといいます。北部から避難してきた女性は、多くの持病があり、吸入器が手放せません。
北部からの避難民:「この機械はバッテリーが必要ですが、電気がありません。バッテリーを充電できる場所がとても遠いんです。いつまでこんな暮らしが続くのでしょうか。他の国の人たちと同じように、落ち着いて暮らしたいです」
そんななか、イスラエル側が口にするのは“次のステージ”地上侵攻についてです。
イスラエル軍参謀総長:「軍は準備ができています。“次のステージ”の内容と時期は、政府と共に決断を下します」
何日も前から「間もなく」と言われ続けてきましたが、空爆は強まっているものの、今のところ本格的に動く気配はありません。アメリカメディアは、イスラエルがガザ地区への地上侵攻を数日間、遅らせようとしているとも伝えています。
ただ、イスラエルが完全に地上侵攻をやめるかというと、そうではありません。ハマスからの奇襲を許したことで、1400人の命が奪われたのは、まぎれもない事実。ネタニヤフ首相の責任追及は免れません。支持率は22%にまで低下(23日発表)しています。
残る懸案は、人質への対応です。200人を超える人質は、世界各国だけでなく、多くの自国民もいて、解放を求めるデモも起きています。恋人が人質になっている男性が求めるのは、大切な人をこの手に取り戻すことだけです。
恋人が人質になっている男性:「政府に圧力をかけ訴えかけています。人質を無事に安全に連れ戻す、最大限の努力をしてほしいです。解放こそ政府の優先事項であるべきで、ハマスの殲滅(せんめつ)でも、ガザの支配でもないはずです」
一方、国連安保理で開かれた閣僚級の緊急会合。
アメリカ ブリンケン国務長官:「イスラエルは市民の被害を避ける、あらゆる策を取る必要があり、そのために“戦闘の一時的な停止”を検討すべきです」
前回、拒否権を発動したアメリカが「一時停戦」に関する新たな決議案を提出、その議論の場だったのですが…。
国連 グテーレス事務総長:「ハマスは理由なく攻撃したのではない。そのことを認識することも重要です。パレスチナ市民は56年間、息が詰まるような占領下にありました。ガザへの爆撃、民間人の犠牲、大規模破壊が今も続いており、極めて憂慮すべき事態となっています」
事務総長のこの発言に、イスラエルが猛反発。
イスラエル コーヘン外相:「国連憲章に記された人類の基本的価値観を、加盟国が遵守(じゅんしゅ)しないのであれば、国連と、そして事務総長、あなたも暗黒の時代を迎えます。この場は道徳上の存在意義を失います」
イスラエルの国連大使が、事務総長の辞任を求めました。
アメリカが求めるのは、あくまで「民間人保護のための戦闘停止」です。
アメリカNSC カービー戦略広報調整官:「アメリカが当初から求めているのは、民間人を守る、あらゆる措置です。これは“停戦”とは違います。今、包括的な停戦をすれば、ハマスの利益にしかなりません」
◆人質解放に向け…イスラエルに変化は
中東情勢や難民研究が専門の、慶応義塾大学・錦田愛子教授に話を聞きます。
(Q.UNRWAが「ガザ地区の困窮は限界に達している」と言っています。実際にガザに行ったことがある錦田さんは、今の状況をどう考えますか)
錦田教授:「UNRWAは、国連機関のなかでパレスチナ難民の支援に特化している機関です。70年以上にわたり、ガザに対する支援を行っていて、情報ソースとして信頼できます。UNRWAは今回、燃料が底を尽いてきて、病院が機能停止せざるを得ないと発表しています。すでに機能停止しているところも、たくさんあるということなので、本当に危機的状況ではないかと思います」
(Q.医療機器の助けがないと、生き長らえない人もいますよね)
錦田教授:「慢性疾患で透析が必要な方や、保育器に入っている新生児にとって、電力が途絶えることは直接、命に関わる問題になります」
ガザの厳しい状況のなかで、改めてクローズアップされているのが「人質」の存在です。アメリカのブリンケン国務長官は国連安保理で、人道支援を目的とした「戦闘の一時的な停止」を検討すべきと発言。これについて、国連安保理は、イスラエルとハマスの衝突をめぐって、アメリカが提出した決議案について、採決を行う見通しだということです。ロシアも決議案を提出していて、それぞれ採決が行われます。
イスラエルも同様で、アメリカのメディアは、イスラエル政府高官の言葉として「ハマスが大きな提案をするなら、その見返りをするつもりだ」と人質の解放に向けた交渉の時間確保を示唆し「地上侵攻を数日、遅らせようとしている」と伝えています。
(Q.人質に対するイスラエルの姿勢に変化は見られますか)
錦田教授:「当初は、すぐにでも“地上侵攻”という雰囲気があったと思います。予備役の召集も非常に早く、最初の週末の時点ですでに『地上侵攻の準備はできている』と軍も発表していました。ですが、アメリカのバイデン大統領の来訪を受けた後から、少し潮目が変わってきたと感じています。今回の人質のなかには、外国籍の方も多く、人道的な観点や対外関係という意味でも、人質解放を優先してほしいという国際的な声を、イスラエル政府はだんだん無視できなくなっていると思います」
(Q.イスラエル国内の声はどうですか)
錦田教授:「これだけ多くの死者も出ているので、『テロリストの交渉はしない』というのが元々の姿勢だったと思います。ただ、多くの方が捕らわれていて『人質解放を優先してほしい』という世論が高まっているようにみえます」
(Q.人質解放が優先となった場合、ガザに対する地上侵攻を行わないことはあり得ますか)
錦田教授:「恐らく、その選択肢はないと思います。というのが、人質解放に関して、空爆のみで情報をつかむことも、解放を実現するのも大変、困難です。実際に地上部隊が入って、解放作戦を行うことが必要になります。もう一つの目的は、ガザにあるハマス軍の拠点破壊です。それも空爆だけでは困難で、トンネルがどこにあるのか、武器はどこに保管されているのか、実際に入って確実に潰していくことが、軍事作戦上、必要になってくると思います」
(Q.ガザ北部で13日、地上の軍事作戦を展開したという情報もありますね)
錦田教授:「一部の軍事作戦は早い段階から始まっていました。13日や22日にも、限定的な規模で、軍事部隊を展開したと言われています。こちらは恐らく、実際に現地に入って、人質や軍事拠点に関する手掛かりを探して、できれば破壊をしていくということだと思います」
(Q.ハマス側は今後、どう動くと考えていますか)
錦田教授:「200人以上の人質を抱えていくのは、ハマスにとって非常に負担が大きいと思います。なおかつ、外国籍の方を殺してしまう、長期の拘束で体調変化が出てくると、国際社会から批判を受けることになってきます。ハマスとしては、人質を殺すよりも、交渉のカードとして、イスラエル政府と何らかの取引をしたいと考えていると思われます」
(Q.国際世論などを見極めながら、人道的な観点から人質を解放することはあり得ますか)
錦田教授:「特に民間人に関しては、あり得ると思います。襲撃作戦で最初に捕らわれた民間人に加えて、早い段階で反撃に出るために展開した、イスラエル軍の部隊がいます。制服を来ていた兵士は、最後まで取引のカードとして有効だとみなされ、早期解放の対象にはならない可能性も高いです」
(Q.現段階で、ハマスが目指しているのは何ですか)
錦田教授:「人質交渉の際、よく目的として掲げられるのが、政治囚の解放です。早い段階でハマスと一緒に行動しているイスラムジハードなども、要求内容として出しています。後は、2007年以降に続いている封鎖の解除・緩和や、もう少し政治的に高いレベルの要求が出てくると思います。ただ、ハマス側の要求がまだ具体的に公開されていないので、注目していく必要があります」 (C) CABLE NEWS NETWORK 2023
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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