米報道官「無害だった可能性も」“気球騒動”米中対立の行方…日本政府は「撃墜」検討(2023年2月15日)
日本でも確認されていた気球について、防衛省が14日夜「中国の偵察気球と強く推定される」と発表したのに対し、中国が反論しました。
中国外務省・汪文斌副報道局長:「中国は一貫して国際法を順守し、各国の主権と領土保全を尊重してきました。日本は証拠もないのに、中国を非難することに断固反対します」
日本が指摘したのは、3つの気球です。
1つ目と日付・場所が一致するのは、2019年の11月に確認された鹿児島県の物体。薩摩川内市にある『せんだい宇宙館』の職員が飛行物体を撮影していました。
せんだい宇宙館・別府修治さん:「(Q.最初見た時は何だと思った?)UFOかなって。ゆっくりっていう感じで、ぱっと見ている感じでは、動きが分からないぐらいの速さだった」
飛行物体を見つけた人から電話があり、空を探しました。
せんだい宇宙館・別府修治さん:「(Q.星と比べて見え方は?)それはもう全然。これは星じゃないと、すぐに分かりました。実際、空を見ると、本当に光って、何なのか全く分からない感じに光っていました」
2つ目は、2020年6月に宮城県で撮影された気球。映像を見ると、白い球体の下には、何かがつり下げられていて、プロペラのようなものも確認できます。
3つ目と日付・場所が一致するのは、おととし9月に青森県八戸市で撮影された物体。宮城県の気球と酷似しています。
写真を撮影した岩村雅裕さん:「2021年の9月3日、八戸市の種差海岸、朝の5時ごろです。この日は日の出を撮影していました。太陽が上がって、後ろを振り向いたら、青空の中に白い気球が見えた」
画像を拡大すると、ぶら下がっているものが見えました。
写真を撮影した岩村雅裕さん:「拡大してみたら、はしごのような構造物があるのが分かった。気球に文字はないです。ゆっくり動いていましたね。ずっとゆっくり飛んでいました。20分くらいは見えた。雲が出てきて、雨が降ってきて見えなくなった。陸側から海の方へ動いていたようです」
防衛省は中国政府に対し、事実関係の確認を求め、今後このような事態が生じないよう、強く求めたうえで、領空侵犯は断じて受け入れられないことを申し入れました。
中国外務省・汪文斌副報道局長:「日本は客観的かつ公正な立場を保ち、不可抗力での出来事を正しく認識し、アメリカの人為的な操作に追従するのは止めるべきだ」
15日の国会では、3年前の宮城県の気球に対する、当時の河野防衛大臣の発言が取り上げられました。
河野防衛大臣(2020年当時):「(Q.また日本に戻ってくる可能性は?)気球に聞いてください。(Q.日本の安全保障に影響を与える?)どの気球?(Q.通り過ぎた気球)安全保障に影響はございません」
立憲民主党・大西衆院議員:「3年前、いい加減な対応ではなく、ちゃんと分析していればと反省は?」
河野デジタル大臣:「記者会見で『お答えを差し控えます』と言うこともあったと思うが、それも何ですから『気球に聞いてください』と答えたわけで。分析の内容について、対外的に話をすることはできないということです」
15日に開かれた、自民党の安全保障に関する合同会議でも、中国の偵察気球が取り上げられました。
自民党安全保障調査会・小野寺会長:「今まで中国のものということを把握できていなかったのか。把握していたのに、中国のものとして今まで抗議しなかったことであれば、もっと私どもとしては大きな問題だと思っています。我が国の防衛にとって、もしかして大きな穴があるのではないか。心配をもたらす事例だと思います」
領空の高さは、宇宙空間までの約100キロまでとされています。
基本的に、旅客機は1万メートル付近を飛んでいます。
撮影された気球の高度は、鹿児島県が2000メートル以上、宮城県が1500から1万メートル、青森県は不明です。
領空侵犯に対しては、自衛隊法84条の対象となりますが、気球やドローンといった無人機については、想定されていません。
合同会議では「撃墜すべき」という意見が大半を占めました。
政府は15日、武器使用の要件を拡大する方向で検討に入りました。
日本にも飛来していた物体が偵察気球だった場合、偵察衛星と比べ、何が優れているのでしょうか。
防衛省防衛研究所・高橋杉雄氏:「人工衛星の場合には、通過する軌道が分かっている。あるいは通過する時間が分かっている。同じ場所に長くとどまることはできない。1カ所にいられるのは、ほんの数分ですから、継続的なデータを取ることは、いずれにしてもできない」
1カ所に留まることで、重要な情報が得られるといいます。
防衛省防衛研究所・高橋杉雄氏:「おそらく一番重要なことが、電波を傍受することだと思う。電波の中には、宇宙空間までいかないものがあるので、気球や航空機のように大気圏の中で捕捉する必要がある。例えば、基地と基地との間がどういう通信を行っているのか、船と船同士がどういう通信を行っているかは、画像・カメラでは、映像では全く分からないので、電波のデータは蓄積しなければいけない。そういう意味でも、気球は優れた点がある手段だと思う」
【“気球”騒動 米中対立の行方は】
気球やドローンを撃墜した場合、両国間の新たな緊張や軋れきは避けられない部分があります。
それが露呈したのが、今回のアメリカと中国のケースです。
北米大陸では今月、気球や飛行物体を4回撃墜されています。
最初に確認されたものについて、中国は「“気象観測用”だ。誤って入ってしまった」としていましたが、アメリカは「“偵察用の気球”だ。容認できない」として4日に撃墜しました。
これに対し、中国は「過剰反応だ」と反発。それでも、アメリカが撃墜を続けると、中国は「アメリカの気球も去年、中国に不法に侵入していた」と反発を強めていきました。
すると、アメリカのカービー報道官は14日、10~12日に撃墜したものについて「商業用の無害な目的による気球だった可能性がある」と言及しました。
中国・外務省は15日、アメリカが科した経済制裁に対して「反撃措置を取り、国家主権と正当な権益を断固守る」と反発姿勢を維持しています。
【4度撃墜も…アメリカの対応に変化?】
◆ワシントン支局・梶川幸司支局長に聞いていきます。
(Q.カービー報道官の「無害な気球だった可能性もある」という発言は、どう読み解けばいいですか?)
事態の沈静化を図った発言だとみられます。
沈静化には2つの意味があり、1つ目は『国内向け』です。
最初に気球が現れた時、バイデン大統領に対して「なぜすぐに撃墜しないのか」と、いわゆる“弱腰批判”が巻き起こりました。
ただ、今となっては「3つの物体は何なのか」「なぜホワイトハウスはちゃんと説明できないのか」というフラストレーションに移っています。
カービー報道官は記者会見の中で、物体は中国と関係がない可能性を仄めかしつつ、「残骸を発見・分析するまで、どこから来たものなのか分からない」とも言っています。
3つの残骸が落ちたのは、簡単に発見できる場所ではありません。
カービー報道官は「回収には時間がかかる」と予告することで、この問題への国民や議会の感心をクールダウンさせる狙いがあったと思います。
そして、もう1つの狙いが『中国との対話の再開』です。
バイデン政権は、中国とは競争はするけれども、偶発的な衝突は避け、対話のルートを維持するのが基本的な姿勢です。
気球に関して弱腰批判を受けて、撃墜するほかに選択肢がありませんでしたが、対話のルートを開くためにも、連日のように気球・物体の話題が繰り返されることを避けたいという思いがあったとみられます。
【米中それぞれの主張は】
中国の主張:「最初の気球は気象観測用、3つの飛行物体は知らない」
米国の主張:「最初の気球は偵察用、3つの飛行物体は商業用・研究用の可能性がある」
中国総局・冨坂範明総局長:「アメリカの態度は軟化し、“ある種”中国の主張を追認したような形と中国は捉えている。中国も対立の加速は望んでいないので、『アメリカの気球の侵入』というカードを小出しに活用することで、『これ以上、公表されたくないなら、気球は不問にして』と落としどころを探り始めているのではないか」
【関係修復の“落としどころ”は?】
◆ワシントン支局・梶川幸司支局長
(Q.米中の関係修復はどうなりますか?)
気球問題を受けて、一定のクールダウンの期間が必要だと思います。
今週ドイツで予定されているミュンヘン安全保障会議では、ブリンケン国務長官と中国外交トップ・王毅氏の会談があるのではないかという見方があります。
また、3月にはインドでG20外相会合が予定されていて、そうした国際会議を利用して、米中の高官が接触の機会を伺うものとみられます。
しかし、アメリカの議会では、超党派の議員が台湾への訪問を計画するなど、今後、米中の間で緊張する場面も予想されます。
米中の対話の落としどころは、見出すのがなかなか難しいのではないかと思われます。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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