「大手メディアはもっと現場に行くべき」映画「戦場記者」渡部陽一×デーブ・スペクター×須賀川拓トークイベント

「大手メディアはもっと現場に行くべき」映画「戦場記者」渡部陽一×デーブ・スペクター×須賀川拓トークイベント

「大手メディアはもっと現場に行くべき」映画「戦場記者」渡部陽一×デーブ・スペクター×須賀川拓トークイベント

映画「戦場記者」の公開記念イベントに、渡部陽一さん(戦場カメラマン)、デーブ・スペクターさん(放送プロデューサー)、JNN中東支局長の須賀川拓監督が登壇しました。

■須賀川監督作品「戦場記者」に、渡部さん、デーブさんは…?!

TBSテレビ特派員にして、YouTubeでも戦地での取材の模様をアップし、大きな話題を呼んでいる須賀川監督は、ロンドンからオンラインでのトークイベント出席。自身がカメラに収めた映像が映画として全国公開されることについて「正直、まだフワフワしています。僕ら取材者は、取材している人(取材対象者)が主役なので、私自身が主役のような形でフィーチャーされることに、いまだに違和感があります。結果として、自分が軸となることで、紛争地を紹介できるので良かったかなと思いますが、まだ実感がわかずにいます」と喜びと戸惑いを口にしました。

渡部さんは、映画を観ての感想として「須賀川さんが必ず、紛争地の現場にいること、それが国際報道の一番の真骨頂だと思います。紛争地域や情勢が不安定な場所において、直接の戦闘にかち合ったり、前線にたどり着くってことが、取材の中で最も大きなウェイトがかかってくる大切な力であり、取材そのものの柱となります。必ず現場にいてカメラを回している――それまでの段取りや現地の人々とのつながり、特に取材チームを支える現地のコーディネーションの方々、通訳など、須賀川さんを支えるチームのみなさんの力が、映像の中に激しく表れているのを感じました」と、紛争地の最前線にたどり着き、そこでカメラを回せることのすごさ、チームの力の大きさについて言及しました。

須賀川監督は渡部さんの言葉を受け「ありがたいです。チームの力というのは、本当にその通りで、僕一人では何もできません。言語も軍の動きもわからないし、安全管理上も一人では足りない。チームあってこその現場取材なので、そこを感じていただけて嬉しいです」とうなずきます。

デーブさんは「(須賀川監督はロンドンではなく)実は赤坂にいるんじゃ?」「TBSのセブンイレブンで見かけた」「ロンドンにいるなら、ウエンツ瑛士に会ったことがあるか聞きたい」などとボケを散りばめて笑いを誘いつつも、映画そのものについては「テレビで放送されるのは3~5分だけど、今回の映画では、本来テレビでは見られない取材の前後が見られる。大手メディアだからできることがある。支局を置き、運営費を掛けて、現地採用の優れた人を集め、コーディネーターやフィクサーなど命がけの人も必要でそれは簡単ではない。テレビ局だからできるということが忘れられている。メディアはある程度、規模がないとできないということがわかりやすく描かれていて、今、見る価値、知る価値があると思う。紛争地の現地の方がiPhoneで撮って上げたり、ワンマン取材の方もいるけど、チェックやアレンジは簡単ではない。いまも、ある程度のレベルの取材力が必要で、それを実感しました」とテレビ局の記者である須賀川監督だからこそなしえた作品であり、大手メディアの存在意義を示している作品であると強調しました。

須賀川監督はデーブさんの言葉に深くうなずき「会社のコネクションやネットワーク、資金もそう。逆に、(資金力のある)テレビ局や大手メディアはこれまでもっと現場に行くべきだったし、これからは行くべき。安全はお金で買える部分もある。余裕を持ってお金が出せるのが大手メディアであり、あるリソースは使っていかないと、伝えられることも伝えられなくなる。個人でも発信はできるけど、何が本当でどれがフェイクかわからない。アフガニスタンでも時期が違う映像が流れたり、イエメンのことがシリアでのこととして流れていたりする。見ている視聴者はよほどの知見がないと真偽を判断できない。(大手メディアに属する)僕たちの役割はまだちゃんと残されてる。だからこそ、謙虚に続けていかないと」と真摯に語りました。

■紛争地での危機管理とは?「コンプライアンス」と「現場に行こう」のジレンマ

一方、デーブさんは、記者がメディアと契約して現場に赴くアメリカと異なり、日本の記者は会社に属する“サラリーマン”であることも多く「コンプライアンスもあって、どうしても、危なくなると引き上げてしまうイメージがある。雇う側の気持ちもあるし、(現場の)残してほしいというジレンマもあると思う」と指摘。

これに須賀川監督は「会社の判断はわからないけど、今回の映画の一連の紛争地取材が良い例になればと思います。語弊を恐れずに言えば、ある程度、安全はお金で買うことできるんです。防弾車両を用意したり、長距離移動の際に車列を組んだりすればいい。そうするとドライバーも複数必要だし、防弾車両も1日で数千ドルかかるけど、でもそのお金を使うことによって、ちゃんと現場で起きてる実態を伝えることできるとわかれば、今後もっと『現場に行こう!』という風潮になると思う」と応じます。

“危機管理”の重要性については、取材経験の長い渡部さんも「紛争地の前線で、いかに自分で危機管理を足下に引き寄せるか? 現地で生まれ育ったガイドさん、通訳やドライバー、数字や理論だけでなく、その国で生まれ育った方だからこそ感じ取れる危険や情勢の変化、そうした現地の人とのチームが組み立てられることができれば、安全な選択肢を引き寄せることができます。絶大な信頼関係のある、地域を知り尽くした方とのつながりを持っておくことも大切な危機管理の入口です」と強調しました。

■取材の先に…須賀川監督が目指しているものとは?

またデーブさんは、取材をし、視聴者にニュースを届けることはできても、その場で直接、現地の人々に助けの手を差し伸べることができない取材者の葛藤についても言及。「須賀川さんは『視聴者以外にNGOやNPO、政府関係者も見るから』と言ってました。具体的にご自分のレポートがどういう影響をもたらすことを期待していますか?」と須賀川監督に質問。

須賀川監督は「視聴者に届けるのは大前提だけど、そこで終わっては絶対にダメだと思っています。支援につながったり、(ニュースを通じて)議論が巻き起こって、結果的にそれがそこに住んでいる人にとって良い方向につながればいいというのが僕の明確な最終ゴール。将来的に紛争がひとつでも少なくなり、難民になる人がひとりでも減ればいいなと思っています。視聴者の“先”を常に見ています」と自身の思いを口にしました。

さらにデーブさんは、須賀川監督の取材姿勢として「感心したこと」として、タリバンやガザ地区の責任者など、様々な立場の人々にも取材を申し込んでいる点について言及。「須賀川さんの気持ちや感情はもちろん入るんだけど、いろいろな関係者の意見を冷静に聞いているところはさすが!」と称賛を送ります。

須賀川監督はこの点について「言葉の選び方はすごく意識しています。アメリカのニュースではウクライナの戦争の話でも、“敵味方”という言い方をするけど、それはダメ。日本だからこそ報じられる立場があると思うので。“公平公正”なんて詭弁であって、本当はないと思っているけれど、そうであるなら、できるだけ多角的に報じたい」と自らのスタンスを明かしました。

「ガザ地区の話であれば、ハマスとイスラエル軍、どちらの話も聞いたけど、どちらもあまり答えてはくれないので、そういうときは汚いやり方だけど、イスラエル軍には『ハマスはもう答えてくれているよ。このままだとハマスの意見しか流れなくなるけど良いんですか?』と言うし、逆も然り。そこはシビアに攻めていかないと、アポは取れないです」と取材現場の厳しさの一端をうかがわせました。

また、トークの中ではウクライナ戦争の現状についても話題に。渡部さんはウクライナで起きている戦争について「いままでの戦争とは違った、完全な侵略戦争。100年前の第1次世界大戦、第2次世界大戦の侵略戦争の残虐さがウクライナ全域で現実に確認されています。戦争犯罪、大量虐殺(ジェノサイド)が、今私たちが生きている2022年12月に起きているという現実――いままでの戦争と違う残虐性が際立っていると感じる」と指摘。

その言葉を受け、須賀川監督は「一方で難しく感じる部分もあって、日本にもクルドやシリアの難民がたくさん来ていますが、彼らに対する眼差しと、ウクライナからの難民への眼差しが全然違います。それはイギリスでもそうで、ウクライナ難民への優遇措置はよいことだと思います。現在進行形で難民になっている人を助けることは悪いことじゃない。だからこそ、これをきっかけに、シリア、イエメン、イラクなど、いろんなところからの難民への見方も変わってくるといいなと思ってます」と訴えました。

最後にメッセージとして、須賀川監督は「いまの若い世代は、なかなかテレビを見ることがないと言われますが、この映画やYouTubeなど、いろいろな媒体を通じて見て、興味持ってもらえたら。そういう人が増えて、なんらかの支援につながったり、議論につながったらいいし、感じ方はそれぞれですが、日本の若者、視聴者をかき回したいという思いがあります」と話しました。

映画「戦場記者」
2022年12月16日(金) 角川シネマ有楽町ほか全国順次公開

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