「アメリカは激しい砲撃戦を想定」軍事的視点から見る“ドンバスの戦い”専門家解説(2022年4月20日)

「アメリカは激しい砲撃戦を想定」軍事的視点から見る“ドンバスの戦い”専門家解説(2022年4月20日)

「アメリカは激しい砲撃戦を想定」軍事的視点から見る“ドンバスの戦い”専門家解説(2022年4月20日)

ウクライナ東部への集中攻撃を開始したロシア軍。東部2州をめぐる攻防は、今後どうなるのか。軍事的視点で見ていきます。

◆ロシアの軍事・安全保障政策が専門の東大先端研専任講師・小泉悠さんに聞きます。

ウクライナの副首相は、マリウポリ市民を避難させる“人道回廊”の設置をロシア側と合意したと発表しました。マリウポリ市長によりますと、市民6000人がバス90台に分乗し、ザポリージャに避難する予定だということです。

(Q.人道回廊が設置されたマリウポリの現状をどうみますか)

小泉悠さん:「非常に厳しい状況です。街のほぼ全域をロシア軍が抑えているので、この6000人はロシア軍の支配エリアにいる人たちだと思います。これまでも人道回廊と言いながら、全く民間人が保護されないということが繰り返されてきました。ウクライナ軍が立てこもっている製鉄所の中にも、子どもを含めた民間人がたくさんいます。この子たちが本当に救われるのかどうかも含めて非常に懸念しています」

(Q.製鉄所の中にいる民間人の映像が世界中に広まったことは、ロシアに影響していますか)

小泉悠さん:「こういう映像が出てくると、ここに無差別砲爆撃を加えて一挙にたたいてしまうのはやりにくくなると思います。ただ、気になるのは『人道回廊を開いて皆逃げたのであれば、さらに激しい攻撃を加えても良い』というロジックになってしまうと、悲惨なことになります。どうかそこだけは誠実にやってほしいと思っています」

ロシア軍の攻撃は、ウクライナ東部の広い範囲に広がっています。ロシア軍はドネツク州の未制圧地域に多く攻撃を加えているとみられます。ロシア国防省は19日、「ミサイル・砲兵部隊がウクライナ東部・南部を中心に、1260カ所にミサイル攻撃をした」と発表しています。その前日が331カ所で、約4倍に急増しています。

(Q.新たな局面に入ったといわれる東部2州の攻防ですが、どんな戦いになるとみていますか)

小泉悠さん:「ロシア軍は、非常にオーソドックスな戦争をやろうとしている感じがします。普通であれば、激しい空爆や砲爆撃を行って、その後に地上部隊が攻めていくはずです。しかし、最初の戦闘では、ロシア軍はいきなり地上部隊を入れて大損害を出し、戦果もあまり上がりませんでした。さらに戦線も分散していました。

ロシア軍は今回、首都キーウ周辺から引いて、戦力を東部に集中させたうえで、激しい砲撃や爆撃、ミサイル攻撃を行い、ウクライナ側の防衛力を削いだうえで、主力が入っていくという、戦争の定石を踏むと思います。今は、事前の地ならしとして、砲爆撃を行っているんだと思います。

激しい攻撃を受けた後、戦車を中心とした機甲部隊が入ってきた時に、ウクライナ軍がどれだけ持ちこたえられるかが焦点になってくると思います」

(Q.ロシア軍はドボルニコフ総司令官のもとで統率が取れるようになったという見方もありますが、どう分析しますか)

小泉悠さん:「これまではいくつかの軍管区がバラバラに戦っていたようですが、これも普通の戦争ではあり得ません。そこにちゃんと現場指揮官を据えた形です。

ドボルニコフ氏は、ロシアがシリア作戦を始めた時、最初の司令官だった人物で、ひどいことをやったのは確かです。ただ、ドボルニコフ氏が任を解かれた後も、ロシアはずっと、シリアに残虐行為をし続けました。ですから、ドボルニコフ氏だからひどいことをするというより、ロシアの戦略カルチャーの中に、民間人の犠牲をいとわない、意図的に民間人の犠牲を出すことで戦意を砕くといったことがあるんだと思います。

これから始まる戦闘は、大規模な軍隊同士が真正面からぶつかり合うような激しいものになると思います。雌雄を決する激しい戦闘がある一方で、クラマトルシクなどの大きな都市で、人道状況に問題が出てくると思います」

東部2州の戦いは、ウクライナ軍が善戦したキーウなどと、地形の面で、違いがあるといいます。キーウ州北部は森林が多く、ウクライナ軍からすると、木々に身を隠して奇襲を行うことができました。しかし、東部ドネツク州は、平地が多い場所となっています。

(Q.地理的条件の違いは、戦い方・戦況にどう影響しますか)

小泉悠さん:「キーウ北部からベラルーにかけては湿地帯と森が混じりあっているため、部隊を広く展開することができません。それに対し、ドンバス地方は広く、部隊が面で広がることができます。そのため、面と面のぶつかり合いになって、そこで戦線を作って戦うという、非常に古典的な戦闘になる可能性が高いです。そうなると、兵力や火力がものをいうようになります」

(Q.ロシア軍の兵力をどう分析していますか)

小泉悠さん:「アメリカ国防総省の発表によりますと、ロシア軍の主力部隊である『大隊戦術群』は現在、78グループほど入っているとみられます。ロシア軍は最初、120グループくらいで攻め込んだと言われているので、だいぶ数が減っています。ただ、これが全てかどうかは分かりません。アメリカ国防総省の見積もりでも、ロシア軍の約4分の1は戦闘不能になっているという話があります。かなり兵力を損耗していることは間違いないと思います」

アメリカも地上戦を見据えた武器支援を急いでいます。アメリカ国防省は、地上戦に適した155ミリ榴弾砲18門、砲弾4万発などの追加支援を行っています。155ミリ榴弾砲は車両での移動が可能で、射程が長く、約30キロ先の攻撃も可能だということです。ただ、すぐに使えるものではないので、アメリカ軍はウクライナ軍に対し、数日以内に訓練を始めるとしています。

(Q.ウクライナ側の準備は間に合いますか)

小泉悠さん:「ロシア軍がダメージを受けているということは、ウクライナ軍もそれと同じか、それ以上のダメージを受けているということになります。どのくらい兵力が残っているのかが問題になります。装備も相当、損耗しているので、西側からの重兵器の援助が欠かせません。このなかには、わりとすぐに使えるであろうものもありますし、1から訓練し直さなければならないものもあります。

それから、弾の口径が旧ソ連基準になっているので、アメリカの大砲だけをもらっても弾がありません。アメリカは18門の大砲に4万発の弾を供与したと言われています。だいたい2000発くらい撃つと、大砲の砲身がダメになると言われているので、18門に対して4万発というのは、大砲が壊れるギリギリまで撃つことを前提で、激しい砲撃戦を想定している気がします」

(Q.東部の行方はどうなると思いますか)

小泉悠さん:「やってみるまで分からないと思います。ロシアもウクライナも相当、損耗しているということは、今回の東部の戦いで負けると、ロシア軍は当面、大規模な攻勢が取れなくなると思います。逆にウクライナ軍が負けると、ロシア軍を押しとどめるものがなくなるかもしれません。この戦争の大きな天王山が迫っているという感じがします。それだけに、何としても勝つために、ロシアが大量破壊兵器を使用するなどの懸念があります」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>

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