「もうすでに岐路に立っている」人類とAI共存の未来は…渡辺謙さん生出演(2023年11月23日)

「もうすでに岐路に立っている」人類とAI共存の未来は…渡辺謙さん生出演(2023年11月23日)

「もうすでに岐路に立っている」人類とAI共存の未来は…渡辺謙さん生出演(2023年11月23日)

今月まとまった、全米映画俳優組合と全米映画テレビ制作者協会の“暫定合意”。なかでも、俳優組合が特に訴えていたのは「AIからの保護の強化」でした。

今のAI技術では、俳優を若返らせることや、亡くなった俳優を再現することもできます。また、吹き替え版を演者・本人の声で再現することが容易になっていて、実際にそういった技術を使った映画がアメリカで公開されています。

そのため、AIの脅威が高まっているとして、100日間を超えるストライキが行われました。その結果、暫定合意書には、AIに関しては「俳優の見た目や声のデジタル複製を作成・使用する場合は同意が必要」「デジタル複製のみの出演でも、俳優は報酬を得る権利がある」と明記されました。

進化したAIは映画界を変えるのか。俳優が置かれた現在地とは。俳優・渡辺謙さんに聞きます。

(Q.渡辺さんも組合員だが、どんな思いでストと向き合いましたか)

渡辺さん:「新作の公開が迫っていたので、そのPRをどうするんだという状態で、日本でずっと待機していたので、活動には大きく参加していません。その間に公開された映画全てが、俳優はPR活動に参加できませんでした。色々な弊害もありました。やっぱり組織が大きいんですよ。エージェントにもアシスタントが携わりますし、PR活動をするにもパブリシストがいて、そこにもアシスタントがたくさんいます。その人たちが皆、解雇されたり。そういう影響も出ていました。すそ野は本当に広くて、そこで従事している人も多いです。ここ5年ほどで、配信の作品がかなり増えました。しかも、コロナで配信の数が異常に増えました。そうなると、今まで配信事業者と契約していたことと違う事態がたくさん起こってきて。そのことと、AIをこれからどう使っていくか。大きな2つの問題がストライキの大きな焦点になっていました」

(Q.団結して訴えた結果、一定の歯止めが効いたと思いますか)

渡辺さん:「とても難しいと思います。『クリエイター』という映画でも、僕はAIをやったので、頭の半分は機械でした。でも、撮影現場は顔にドットだけつけて、普通に撮るんです。後でVFXで全部加工できる。それくらいの技術革新が来ています。撮影時に人件費や撮影日数を抑え、後で加工する方がコストは断然安い。プロダクションはどちらを選ぶか。これから先、そうした技術の応用はかなり進むと思います。ただ、それに同意が必要というのは、とても重要なことです。ちゃんと俳優が分かったうえで参加しているかは、とても大きいと思います」

(Q.俳優の仕事がAIによって脅かされているという実感はありますか)

渡辺さん:「10年間は、そんな時代は絶対来ないと。魂を揺さぶるものって、僕らは演技として、心として伝えていくから、機械に取って代わられないと固く信じていました。ただ、ちょっと自信がなくなりました。それくらいのイノベーションがあるんだと、今は思っています」

(Q.AIはデータを学習できますが、人間を深掘りしていくのは、人間にしかできないと思いますが、いかがですか)

渡辺さん:「観客そのものが、例えばアニメーションやフルCGでもいいやという時代が来るかもしれません。特に今の若い世代の人たちは、ある意味、その方が感情移入できるという人たちが増えています。そうすると、僕たちが『それだけは伝えられるよね』って思っていることが、世代間で『あれ、アニメーション・CGの方が勝っちゃうんだ』という時代が来るかもしれないというのが、ちょっと不安ですね」

渡辺さんが出演している最新作『ザ・クリエイター/創造者』は、AIをテーマにした未来の世界を描いています。舞台は遠くない未来。ある日突然、AIが暴走し、核爆発を起こします。人類とAIは共存できるのか。渡辺さんは、AIのリーダー的存在を演じています。

(Q.渡辺さん自身がAIになっていますね)

渡辺さん:「心というか、感情を持ったAIです。役を作っていても、AIってどういう感情を持つのかは、一つフィルターがかかるところはありました。でも、基本的には、学習能力が高いので、人間と同じ感情を持っていると、最終的には思いました」

(Q.AIが人間性を手に入れた時、人間とAIは共存できると思いますか)

渡辺さん:「今もうすでに岐路に立っている気が、僕はします。イノベーションが進めば便利になりますよね。人が求めれば、どんどん便利な方にいきます。例えば、店員がおらず、全部キャッシュレスでできる、24時間営業の本屋さんのニュースがありました。本屋の店員さんが社会にいらなくなるって、僕は嫌だなと。あれも社会の一つの大きな文化だと思うので。俳優組合のストといった大きなことではなくて、私たちそのものが、この技術がいるのかいらないのかを考えて選択していかないと。『クリエイター』のように、いざそうなった時に『AIは全部排除しなさい』という政策を取らなければいけない時代が来る前に、ちゃんと僕らは選択をしていきたいと思います」

(Q.映画業界以外で仕事をする人間も等しく、自分たちの仕事って何なのだろうと本気で考えないといけませんね)

渡辺さん:「最近、ニュースもAIで読まれてたりするのって、ちょっとどうかと思いますよね」

また、映画を超えた”世界のいま”についても語りました。

(Q.渡辺さんは戦場を舞台にした作品にも多く出演されています。技術の発達によって、今起きている戦争が映像で見えることについて、どう感じていますか)

渡辺さん:「大きく変化したのが、僕は湾岸戦争からのような気がしています。あの時に、空を飛ぶミサイルや閃光を身近に感じて、その先に爆弾が落ちて爆発する。イスラエルとハマス、ウクライナとロシアのように、お互いの正当性を主張しあい、世論をどっちの味方につけるか。そこで失われていく命がおろそかにされて、情報戦だけ。僕らは何もできないので、どっちを信用するか、どうするかと思うのですが、どちらの側も多くの人が命を落としているという現実が、見えづらくなってきている気がします」

(Q.今の戦争の見え方と、自分が演じている役を対比して考えることはありますか)

渡辺さん:「去年2月に『ザ・クリエイター/創造者』の撮影をタイで行っていました。その時いきなり、ロシアがウクライナに侵攻したというニュースが流れてきました。撮影現場に問題はないので、撮影は始まっていますが『あっちからミサイルが飛んできます』というアナウンスを聞きながら、それに怯える演技をしている訳ですよ。ちょっとシラケましたね。シラケたというと語弊があるんですけど、本当に今、キーウにはミサイルが飛んでいるんだよな。俺たちは今、何を感じ、何を演じれば良いのか。一瞬、気持ちが冷めました。それくらい、現実の重さと映像とを、僕らはどう埋め合わせたら良いのか分からなくなってしまいました」

(Q.そんななかでも、俳優だからこそできる仕事もあると思います。演じながら伝えるメッセージはありますか)

渡辺さん:「『硫黄島からの手紙』という作品をやった時は、実際にそこで命が失われていくんだということを、僕らはどうきちんと伝えられるかを、クリント・イーストウッド監督と一緒に作れたような気がします。本来、戦争はこういうことなんですという“事実”ではなく“真実”みたいなものを、僕らは映画を通して伝えていくしかないと思っています」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>

ANNnewsCHカテゴリの最新記事