国内初アルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」高まる期待と課題(2023年9月30日)

国内初アルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」高まる期待と課題(2023年9月30日)

国内初アルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」高まる期待と課題(2023年9月30日)

患者にとって、希望の光となるのでしょうか。国内初となるアルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」が正式承認されました。病気の進行を遅らせる画期的な治療薬とされる一方で、費用負担の不透明さなど、サタデーステーションの取材で、いくつもの課題も見えてきました。

■若年性認知症と診断の男性「手放しでは喜べない」

下坂厚さん、50歳。4年前、46歳の時に若年性認知症と診断されました。今は病気と向き合いながら、自身の体験をもとに全国を回り講演活動を行っています。合間には、趣味の写真撮影をすることも。

若年性認知症と診断された下坂厚さん
「(講演の)打合せの段階で『奥さんと来られますか?』とか、『付き添いの方と来られますか?』と話もされますが、なるべく1人で行くようにしていますね」

原稿の確認は大丈夫なのでしょうか?

下坂厚さん
「あらかじめ用意していないです。本番直前でも、こうこうこうしてという打ち合わせをしても、結局忘れるというかね。あはは」

(下坂さんの講演)
「一緒に働いている人の名前が分からなくなったり、職場までの道を間違えるようになったときにこれはちょっとおかしいなと思いまして。若年性認知症ですよ、と診断を受けたときは、やっぱり目の前が真っ暗になりましたよね。人生終わったかなと」

下坂さんのように65歳未満で発症する「若年性認知症」の患者は、全国で4万人程度いると推計されています。

そこで期待されるのが、今回承認された新薬「レカネマブ」。「レカネマブ」は、アルツハイマー型認知症の原因物質「アミロイドベータ」を取り除き、病気の進行を2、3年遅らせるという世界初の画期的な治療薬です。

しかし、この薬にはいくつかの課題もあります。

下坂厚さん
「初期の段階でという条件はあるものの、そういった治療薬ができていくというのは当事者あるいは家族にとってはうれしい話ではあるかなと思うんですけども。手放しで喜べないよねっていう」

■“5人に1人”認知症の時代へ 期待の一方課題も

一方で、「レカネマブ」に期待を寄せる人たちもいます。取材したのは、物忘れが気になりだした人や“軽度認知障害”と診断された人たちが通うカフェ。

(カフェでのトレーニング)
「左手グーパー、右手がグーチョキパー、同時進行でやっていきますよ」

左右の手で違う動作を同時に行う脳のトレーニングを行います。

認知症専門医 新井平伊医師
「軽度認知障害の時には16~41%ぐらいの方は回復するという報告があって、これが何もしないと5年くらいの間に半分以上認知症になってしまう。この段階でいかに予防活動するかというのは、戻るか進むかの分かれ目なんですね」

厚生労働省の試算では、2025年には、65歳以上の5人に1人(約700万人)が認知症を患うと予測しています。こうした背景もあり「レカネマブ」への期待は高まっています。

エーザイが治験を行った際の画像を見ると、2週に1回、点滴での投与を18か月行った結果、「アミロイドベータ」が減少しているのがわかります。

認知症専門医 新井平伊医師
「今までの薬と比べてやっぱり画期的な、根本的な作用を持つ薬ですので、我々臨床医にとっては、とても大きな武器、治療薬を手に入れた。とても大きな出来事だと思います」

「レカネマブ」について施設の利用者は…

施設の利用者
「先生が購入しなさいっていったら買いますよ。買えるうちに、こういうのは」
「いや私、使いたくない。いらないよ今のところ。先は分からないけどね」

施設の利用者に年齢を聞いてみると…

(Q:今おいくつですか?)
施設の利用者「いま?92」
(利用者の娘「今度91です。11月で」)
施設の利用者「そうかあ~?」

期待される新薬「レカネマブ」。しかし、誰にでも処方できるものではないといいます。処方には、一定の条件が…

認知症専門医 新井平伊医師
「MCI(軽度認知障害)と軽度の人が全員治療を受けられるかというとそうではなくて、専門医がそれを診断して、それから検査も、アミロイドが溜まっているということが明らかになった上で治療ということになると思います」

検査には、アミロイドPET(ペット)検査装置が必要ですが、備えている病院は限られます。

■米国では年間約390万円 費用も課題に

認知症は、決して日本だけの問題ではありません。アメリカでは、ハリウッドスターのブルース・ウィリスさんが、認知症を患っていることを公表したことで関心が高まりました。「レカネマブ」も日本に先駆け、すでに7月には、正式承認されています。

治験に参加した女性
「これまで時々、言葉や何かを思い出そうとしても思い出せない事がありました。でも治療後はちょっと時間を置けば、パッと頭に浮かびます。とてもいい気分です」

一方で、40年に渡って認知症治療に携わるロナルド・ピーターセン医師は、サタデーステーションの取材に対し、大きな課題があると指摘します。

ロナルド・ピーターセン医師
「この国で患者を治療する上で大きな問題になるのは、費用でしょう。製薬会社が設定した価格では、年間2万6500ドル(約390万円)になります。社会的少数者が治療を受ける金銭的余裕がないことも懸念として残っています」

◇◇◇
高島彩キャスター
「認知症の新薬への期待が高まるだけに、気になるのがその価格です。実際の負担額がどれくらいになるのか見ていきましょう」

板倉朋希アナウンサー
「7月に承認されているアメリカでは、ひとりあたり年間の価格が約390万円と、かなりの高額となっています。日本ではこれから『価格』や『保険適用』にするのかどうかが決まっていきます。仮に価格が390万円と高額になった場合、自己負担に上限を設ける『高額療養費制度』が適用されます。70歳以上で平均的な所得層の患者さんですと、実際の負担額は年間で14万円ほどになります」

高島彩キャスター
「390万円と14万円という差額は、保険財源で埋めていくということになるんでしょうか」

板倉朋希アナウンサー
「そうです。そこで問題になるのが、この薬を利用する人の数。新薬の対象となる『軽度認知障害』の患者は約380万人。『軽度のアルツハイマー型認知症』は約160万人いるとされています。投与する患者の分だけ差額を保険財政でまかなうことになるので、財政が圧迫されかねないということです」

高島彩キャスター
「そうなると将来的な負担も考えなければなりませんね」

板倉朋希アナウンサー
「まさにいま、厚労省の諮問機関でそこが議論になっています。新薬は認知症の進行を遅らせることができるので、将来的にみると介護負担や介護費用の軽減につながるという考えもあります。最終的な“公的負担”を新薬なのか介護なのか、どこにかけるのか。そのバランスが焦点になりそうです」

高島彩キャスター
「柳澤さん、新薬は期待も大きいですが、一方で課題もありますね」

ジャーナリスト柳澤秀夫氏
「価格については、製薬会社も巨額の投資をして作った薬なので、元を取りたいという部分もあります。薬を広く使うことができれば、その分、価格も下がっていきます。そのためにも認知症の早期診断、早期治療ができる施設など医療環境を整えたり、人材の育成も必要になってきます」

高島彩キャスター
「気になる新薬の価格は年内には決まるということなんですが、高すぎて使えないということにならないことを願います」 (C) CABLE NEWS NETWORK 2023
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>

ANNnewsCHカテゴリの最新記事