ウクライナ危機 ロシア全面侵攻 今後の展開は?国際社会の対応は?専門家・記者解説(2022年2月24日)

ウクライナ危機 ロシア全面侵攻 今後の展開は?国際社会の対応は?専門家・記者解説(2022年2月24日)

ウクライナ危機 ロシア全面侵攻 今後の展開は?国際社会の対応は?専門家・記者解説(2022年2月24日)

ロシア軍が24日、ウクライナへの侵攻を開始しました。

プーチン大統領の狙いは何なのでしょうか。ロシアの軍事・安全保障政策が専門の東大先端研専任講師・小泉悠さんと、防衛省防衛研究所・兵頭慎治さん、テレビ朝日・布施哲ワシントン支局長に聞きます。

ロシアは、親ロシア派が実効支配しているウクライナ東部へ、平和維持のために軍を送るとしていました。しかし、ウクライナ政府などによりますと、ベラルーシから首都キエフにミサイルが撃ち込まれた、ロシアが一方的に併合したクリミア半島からも侵攻が始まっているということです。

(Q.ロシア側の動きをどう分析しますか)

東大先端研専任講師・小泉悠さん:「現状では激しい空爆が行われています。まず飛行場や防空システムなどをたたいて、ウクライナの防空戦力を無力化したうえで、本格的な地上侵攻に備えているんだと思います。

すでに何カ所かでは、地上部隊の侵攻が始まっています。一つは、キエフの北側のベラルーシに展開しているロシア軍が南下してキエフ側に迫ろうとしているのではないかと言われています。まず首都が危ない状況です。

もう一つはハリコフです。ハリコフの目前に大規模のロシア軍が集まっているということは以前から明らかになっていました。すでにハリコフの外縁部に侵攻し始めているらしいと言われています。

クリミア半島からも北上していて、交通の要衝ヘルソンの外縁部を抑えたらしいと言われています。親ロシア派が実効支配しているドネツク州・ルガンスク州の方でも攻勢が行われているということで、北・東・南から侵攻が行われている状況です」

(Q.まず制空権をとってから地上部隊というやり方は効果がありますか)

東大先端研専任講師・小泉悠さん:「湾岸戦争やイラク戦争もまさにそうでした。20~30年前にアメリカ軍がやったような、非常に古典的な大規模な戦争を、ロシアがウクライナで再現しようとしている感じがします」

(Q.プーチン大統領はなぜ、ここまでして軍事侵攻をやろうとしているのでしょうか)

防衛省防衛研究所・兵頭慎治さん:「2月15日に、ロシア議会がウクライナ東部2州の独立の承認を求める決議をしたあたりから、アメリカとの外交交渉をやってももうだめだと。これ以上やってもアメリカから引き出すものが何もないということで、最悪のシナリオの決断をしていたのではないかと思います。まだ米ロ間で外交交渉の余地があるというやり取りもありましたが、プーチン大統領はかなり早い段階で、外交交渉を絶つ判断をしたのではないかと。

他にも色んな説明はできます。例えば、ウクライナを中立化して、NATO(北大西洋条約機構)に入れないように、力づくでやったとか、欧米寄りのゼレンスキー政権を力づくで変えていく狙いもあるかもしれません。ただ、過剰な感じがあります。むき出しの軍事力を投入して、ここまでやる意図は読み切れないところがあります」

(Q.ここまで全面的なやり方は、最後的にどこに行きつくと考えていますか)

東大先端研専任講師・小泉悠さん:「少なくとも、ウクライナの真ん中を流れるドニエプル川の東側まで、当然、首都キエフも制圧する気があるのではないかという感じがします。そこまでいったうえで、何がしたいのかだと思います。

古典的な領土拡張ではないとすれば、首都キエフにいるゼレンスキー政権を無理やり退陣させて、ロシアにとって都合の良い政権を作る。プーチン大統領の今回の開戦に関する発言も『ウクライナが虐殺をやっている』『ネオナチなんだ』『核兵器を作っている』など、ありとあらゆる理由を挙げて、今のウクライナ政権のあり方そのものが許容できないと言っています。

この軍事作戦の規模の大きさと合わせて考えると、ロシアはそこまで考えているのではないかという気がします」

(Q.ウクライナ軍は囲まれて打つ手なしとなっているのでしょうか)

東大先端研専任講師・小泉悠さん:「ロシア軍の進軍スピードが非常に速いです。もともと装備や訓練など、あらゆる面でロシア軍の方が優勢であることは間違いないですし、空爆で早々に航空戦力の機能を喪失し、押し込まれていることは間違いないと思います。

もっと激しい戦闘があると思っていましたが、ロシア軍の進軍が私たちの予想よりも速かったです。前線のウクライナ軍の状況がどうなっているのか、あまりよく分からないのが余計に不気味です」

(Q.ロシア側は軍事施設を標的にしていると説明していますが、民間人に死傷者が出ていても不思議ではないですか)

東大先端研専任講師・小泉悠さん:「もちろんロシア軍もわざわざ民間人を殺そうとはしないかもしれません。ただ、軍の基地の周りにも住宅地や官舎があったりします。ミサイルも百発百中ではないので、誤射や巻き添えが起きます。民間人の被害者も出始めていますし、これから先、大規模な地上戦になると、市街戦になってくるので、ますます民間人の死傷者が増えていくと思います。アメリカでは最大5万人という予想も出ています」

ウクライナに対するロシアの侵攻に、各国が反応しています。

アメリカ、バイデン大統領:「プーチン大統領は、甚大な人命の損失と苦痛をもたらす、計画的な戦争を選んだ。この攻撃がもたらす死と破壊の責任は、ロシアだけにある」

NATO:「無謀で理不尽な攻撃を行ったことを強く非難する。NATO同盟国は、この恐ろしい時期にウクライナの人々の側に立つ」

EU:「欧州連合のロシアの資産を凍結し、ロシアの銀行の欧州金融市場へのアクセスを停止する」

中国:「ウクライナ問題は、複雑な歴史的経緯があり、ロシアの安全保障上の合理的な懸念を理解する」

(Q.ロシアの動きに各国があ然としている状況にも見えますが、どう見ますか)

防衛省防衛研究所・兵頭慎治さん:「事態がどの程度、悪化していくのかによって、どの制裁カードを切っていくのか。欧米は経済制裁しかカードがないため、それを小出しにしながら状況悪化を食い止めたいはずです。事態の推移を注視していると思います」

(Q.NATO軍の軍事介入の可能性はありますか)

東大先端研専任講師・小泉悠さん:「現実的に考えて、非常に難しいと思います。ロシアを軍事力で止めにいくということは、最終的に核戦争になる可能性があります。私は毎年、ロシア軍の秋の大演習を見ていますが、途中で必ず戦術核を使いますし、最後は全面核戦争の演習をやってしめます。そのことはNATO側も重々理解していると思います。プーチン大統領は、フランスのマクロン大統領と会った後の記者会見で『ロシアと戦争したら核戦争だ』と言ってみせました。19日には実際に戦略各部隊の大演習をやっています。

NATOは恐らく、止めるというよりは、経済制裁でどれだけの罰をロシアに与えられるかに集中せざるを得ないフェーズに入ってしまったと思います」

(Q.アメリカが軍事介入すれば、核戦争に発展しかねないので考えにくいということですが、軍事介入の可能性は低いでしょうか。)

布施哲ワシントン支局長:「私もそれはないと思います。仮に、ロシア軍と戦闘となるような事態になれば、第三次世界大戦に発展しかねません。だから、アメリカ政府の方針としては、ロシア軍との直接の接触は控えるという方針です。

今後は、間接的支援を続けていくことになります。具体的には、これまでもやってきましたが武器の提供、経済支援、そして、場合によっては、ウクライナ軍に対して第三国でゲリラ戦の訓練を行うことも検討しています」

(Q.アメリカの国際的な存在感が下がってしまうという懸念はないのでしょうか)

布施哲ワシントン支局長:「それはほとんどなさそうです。ウクライナはNATOの加盟国ではないので、アメリカからすると、防衛義務を負っていません。加えて、ワシントンでは、アメリカは、対中国に集中するべきでという声が高まっていて、ヨーロッパのことはヨーロッパで何とかしてほしいという声が一部で出てきています。

アメリカは今後、強力な経済制裁で対抗していきます。具体的には、SWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除や、半導体の輸出禁止でロシアの航空機産業に打撃を与えるといったことが検討されています」

『SWIFT』というのは、銀行間の国際的な送金・決済を担う機関です。海外に送金する際には、この『SWIFT』を通す必要があります。今、世界の貿易の大半はドルで行われていて、仮にロシアが『SWIFT』から外されれば、ドルを使った輸出入ができず、大きな打撃を受けることになります。

(Q.今後はどのような制裁があり得ると思いますか)

防衛省防衛研究所・兵頭慎治さん:「『SWIFT』からの除外は、最大の制裁ではないかと言われています。これをやると、ロシアは、日本も含め、欧米諸国に輸出入ができなくなります。ヨーロッパの場合は、ロシアの天然ガスにエネルギーを依存しているので、こういうやり取りもできなくなります。

欧米諸国も被害を被るので、欧米の間の調整もそう簡単ではないのではないかと思います。欧米諸国が結束してロシアとの取引を停止する覚悟ができるかどうかだと思います」

(Q.首都キエフを占拠する可能性もあるのでしょうか。ロシアはどういう行動に出てくると考えられますか)

東大先端研専任講師・小泉悠さん:「軍事的にみるとロシア側が圧倒的に有利ですから、進撃できるところまでは進撃するのではないかと思います。そのなかで、首都キエフの占領がキーとなってくると思います。キエフは主権の中枢です。そこを占拠したうえで、実際に何をするかが気になるところです。

例えば、キエフを占拠して、出て行ってほしければ、ロシアにとって有利な合意を飲めと。2014年から2015年の紛争の時は、このパターンでした。今回、プーチン大統領の言い分を聞いていると、取引をするフェーズではない気がします。今のウクライナの政治体制やあり方自体を変えてしまおうという物言いをしている気がします。

ロシアの軍事的優位を考えると、残念ながらキエフが長く持つことはないと思います。ロシアがウクライナに対して、何を要求してくるのか、どういうことをしようとしてくるのかが、今後の注目点です」

(Q.欧米側の対応も含めて、今後の展開をどうみていますか)

防衛省防衛研究所・兵頭慎治さん:「軍事侵攻に加えて、核の問題があります。今回、通常戦力で軍事侵攻をしていますが、ロシアは同盟国のベラルーシに核を配備する素振りを見せています。27日には、核保有が可能になる憲法修正の是非を問う国民投票がベラルーシで行われます。ベラルーシに核を置くことは軍事的にはあまり意味はないかもしれませんが、NATOに与える政治的なインパクトは大きいです。ロシアが自国領以外に核を配備するというカードを切ってきた場合、NATOがどう反応していくのかが注目ポイントだと思います」

(Q.責任ある大国であるロシアが核をちらつかせるというのは、許されない行為じゃないでしょうか)

防衛省防衛研究所・兵頭慎治さん:「プーチン大統領も核という最後の切り札を出す可能性があるので、引き続き予断は許さないと思います」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>

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