“オーバーツーリズム”で入場料5ユーロ 試験的に実施 ベネチア“危機遺産”検討(2023年9月11日)
イタリア北部、かつて東西交易の要衝として栄えたベネチア。世界遺産として国内外から観光客を集めるがゆえに、いま、危機に瀕しています。
深刻化している“オーバーツーリズム”。観光客の増加とは逆に人口は減少していて、戦後17万人以上だった中心部の人口は5万人を切っています。そこに年間2500万人ともいわれる観光客が押し寄せているのです。
地元住民:「観光を規制すべきだ。カオスだからね。ベネチアの観光はカオスだ。一部の観光客のせいで」
地元住民:「肉体的ではなく、精神的な観点から問題。アイデンティティーを根こそぎ抜かれた気がする。我慢してる」
ブティック店員:「人の行き来があるのは、活気があり良いと思います。大事なのは、その場所に敬意を持つことだと思います」
こうしたオーバーツーリズムの実態に、ユネスコがイエローカードを突き付けようとしています。
サウジアラビアで始まった世界遺産委員会。ベネチアを、普遍的価値が失われるおそれがある“危機遺産”に指定するかどうか審議が行われる予定です。
ユネスコは、7月に“危機遺産”への登録を勧告していて、その理由とされたのが、オーバーツーリズムでした。そして、もう一つの理由が、気候変動への対策が不十分ということでした。
ベネチアは、これまで、度々、記録的な高潮で街が水没する事態に見舞われてきました。高潮被害を防ぐため“モーゼ”と呼ばれる巨大水門が一部稼働を始めました。ただ、2012年の完成予定が延びに延びて、いまだ完成には至っていません。
さらに、今年2月には、逆に干ばつとなり、運河のゴンドラが運航できなくなるなど、気候変動の影響を強く受けています。
“危機遺産”に登録されている世界遺産は、現在、55カ所あります。例えば、内戦が続くシリアの遺跡や古代都市。観光客が持ち込んだ伝染病などによって、ゴリラが減少したコンゴ民主共和国の国立公園。カンボジアのアンコール遺跡のように、修復によって、危機遺産から削除された世界遺産もあります。
その一方で、例えば、美しい景観が広がるドイツのドレスデン・エルベ渓谷。渋滞緩和のために近代的な橋がかけられた結果、世界遺産から抹消されるケースもあります。
オーバーツーリズムに悩むベネチア。観光客の数を抑えるため、市当局が打ち出そうとしているのが、入場料の導入です。来年以降、観光のピーク時に日帰り客から1日5ユーロ、800円ほど徴収するというもの。まずは試験的に行うそうです。
フランス人観光客:「すべてが高いので、厳しいですね 」
フランス人観光客:「これだけの遺産ですから、観光客は払うと思います」
ブティック店員:「(Q: 5ユーロの入場料に賛成か)150ユーロでも良いと思います」
そもそも“危機遺産”とは、「武力紛争、自然災害、観光開発などで、普遍的価値を損なうような重大な危機にさらされている世界遺産」のこと。状況が改善されないと、世界遺産の登録から抹消される可能性があります。
ベネチアが“危機遺産”に勧告された理由として、オーバーツーリズムへの対応が不十分、高潮・干ばつなどの影響でゴンドラが停止するなど、気候変動に対応できていないことなどを挙げています。
一方で、このような例があります。
オーストラリアの世界遺産・グレートバリアリーフは、気候変動などによって、サンゴが激減しているとして、2022年に“危機遺産”に勧告されました。世界遺産から除外されると、経済的に大きな影響が出る恐れから、オーストラリア政府は“危機遺産”への指定回避に取り組んできました。ダム建設の中止や、禁漁区域を設けて絶滅危惧種の保護に取り組むなどして、“危機遺産”への指定を回避しました。
日本には、いま“危機遺産”に指定されている地域はありませんが、すでに対策を取っている世界遺産があります。
岐阜・白川郷です。対策として、課金とルールの厳格化を行っています。合掌造り集落のライトアップの際、今シーズンから完全事前予約制、入場チケット制に変更しました。イベント当日に村内に宿泊している、駐車場を予約しているなどの条件をクリアした人のみ、参加が可能になります。
維持していく負担も大きい世界遺産ですが、航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さんによりますと、世界遺産になるメリットは「観光地としての魅力が上がり、インバウンドが期待される。地元の人に誇りが生まれ、地域を盛り上げようとする」としています。
その一方で、“危機遺産”にならないために「これからアジア圏の人たちが裕福になることで世界的な旅行人口は増えていくので、オーバーツーリズムは避けられない課題。こうした対策で得たお金を環境保全などに回していくことが、今後のトレンドになる」としています。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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