【クラスター弾供与】ウクライナ兵歓迎も欧州各国は批判的 米国なぜ“禁じ手”決断?(2023年7月9日)
ウクライナ侵攻から500日、アメリカが殺傷力の高いクラスター弾を供与すると発表したことを受け、各国から批判的な声も上がっています。
バイデン大統領が禁じ手とも言われる決断を下した背景にはどのような事情があったのでしょうか?
■アゾフ大隊の“英雄”捕虜から帰還
ロシアのウクライナ侵攻から500日を迎えた8日、ゼレンスキー大統領は、国民にさらなる団結を呼びかけました。
(ウクライナゼレンスキー大統領)「ウクライナの自由と独立のために戦った500日目。尊厳と国民の生きる権利のための戦いだ」
この場で紹介されたのは、マリウポリの製鉄所で最後まで戦い、捕虜になっていたアゾフ大隊の5人の司令官の帰還です。
(ゼレンスキー大統領)「5人の英雄を故郷に連れ帰った。ウクライナの英雄だ」
■批判的な声次々となぜクラスター弾供与?
そんな中、アメリカ政府はウクライナへのクラスター弾の供与を決定。
(アメリカバイデン大統領)「非常に難しい決断だった。しかし、肝心なのはロシア軍の攻撃を食い止める武器を持っているか持っていないかだ。ウクライナ軍にはクラスター弾が必要だと思う」
クラスター弾は、ひとつの爆弾の中に、数百もの小型爆弾が入った殺傷力が強い兵器。反転攻勢を進めるウクライナ側が要請していたものです。この決定に最前線のウクライナ兵士は…
(ウクライナ第57旅団榴弾砲司令官)「本当によかった。クラスター弾があれば、使用する砲弾も節約できる」
しかし、イギリスのスナク首相は、クラスター弾の供与に否定的な考えを表明。
(イギリススナク首相)「イギリスはクラスター弾の製造や使用を禁止する条約を締結している」
スペインの国防相も…
(スペインロブレス国防相)「ウクライナの正当な防衛にはイエスだが、クラスター弾にはノーだ」
さらに、ドイツやカナダなどNATO加盟国から否定的な声が上がっています。クラスター弾は、不発弾が多く、放置された小型爆弾による民間人の被害も懸念されています。日本を含む100カ国以上が加盟するオスロ条約で、使用や製造が禁止されていますが、アメリカ、ロシア、ウクライナは加盟していません。
(アメリカサリバン大統領補佐官)「クラスター弾の課題は、民間人に危険をもたらす可能性のある不発弾が残ることです。民間人に危害が及ぶリスクとてんびんにかけなければなりませんでした」
サリバン大統領補佐官は、ロシア軍のクラスター弾の不発率が30~40%なのに対し、アメリカが提供するクラスター弾の不発率は2.5%以下と低いことを強調。不発弾処理にも力を入れるとしています。
Q.大統領、なぜ今、クラスター弾を?
(バイデン大統領)「ウクライナは弾薬不足だ」
アメリカのシンクタンク「戦略国際問題研究所」によると、ウクライナでは、155mm榴弾砲を1日におよそ3000発消費。これはアメリカの年間生産量をわずか1カ月で使い切ってしまう計算になります。
(バイデン大統領)「この戦争は弾薬の影響が大きい。ウクライナ軍は使い果たそうとしている。我々も不足している」
さらに、反転攻勢の停滞が、今回の決定に大きく影響していると、防衛研究所の高橋杉雄さんは指摘します。
(防衛研究所防衛政策研究室高橋杉雄室長)「反転攻勢がロシア側の非常に強固に作られた陣地を攻めていく形なんですけど、その陣地を上からクラスター弾で攻撃をする形でないとなかなか突破できない状況になってきたと、クラスター弾1発で200mぐらいの範囲を制圧できるんですけど、弾薬を有効利用するためにはクラスター弾の方がいいという判断ではないかと思いますね」
アメリカの法律では、クラスター弾の不発率が1%を超えるものを他国に提供することを制限していますが、今回は大統領権限で供与が可能になったと言います。
(高橋杉雄室長)「とにかく異例な措置ではありますね。アメリカ側とすれば、何も望んでわざわざ法律をバイパスして(クラスター弾を)送る必要なんかないわけですから、戦況がそれだけ切迫しているという判断があるのでないかと思います」
一方、ロシアは去年の侵攻直後から、クラスター弾を使用しているとみられます。
(ウクライナ兵士)「国際条約で禁止されている武器で一般市民に攻撃するなんて、これは軍事施設ではないのに…」
ロシアのメドベージェフ前大統領は、今回の供与について…
(ロシアメドベージェフ前大統領)「今、アメリカは仕方なくクラスター弾を約束し、ネオナチをNATOに招こうとしている。その結果は“第3次世界大戦”だ」と反発しています。
7月9日『サンデーステーション』より (C) CABLE NEWS NETWORK 2023
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