【報ステ独自】「大事そうになでるような様子」カメラ返還に同行した記者に聞く(2023年4月26日)
2007年にミャンマーで民主化デモを取材中、国軍の兵士に銃撃されて亡くなったジャーナリストの長井健司さん。16年が経ち、長井さんが最後まで握りしめていたとされるカメラが26日、遺族に返されました。
◆カメラ返還に同行した社会部・染田屋竜太記者に聞きます。染田屋記者は、2017年~2020年まで朝日新聞のヤンゴン支局長として現地を取材していました。
(Q.16年間返還されなかった長井さんのカメラが戻りました。妹の典子さんの様子は、どう感じましたか)
15年経って、カメラが遺族のもとに返る現場に立ち会わせてもらうことができました。ミャンマーメディア編集長のエーチャンナインさんが両手で、長井健司さんの妹・小川典子さんに、まるで子どもを預けるように、大切に渡していたのが非常に印象的でした。そのあと、小川さんとエーチャンナインさんとともに、長井さんの映像を確認しました。長井さんの自撮りの場面になると、見ていたら引き寄せられるというか、一瞬、部屋の空気が止まったような気がしました。撮っていた直後に、命を奪われるということを想像すると、私も心がすごく痛みました。
そもそも、ビデオカメラが返還されるきっかけというのは、2017年、ヤンゴン支局長として特派員をしていたとき、長井さんの事件から10年の節目の記事を取材するなかで、エーチャンナインさんと小川さん夫妻とリモートで話し合いを行いました。典子さんのほうから「兄が握りしめていたカメラを、ぜひ、取り戻したい」と強くおっしゃったことが、エーチャンナインさんの心に残っていたようです。
今年になって、エーチャンナインさんからメールが来て「話したいことがある。かなりセンシティブな内容だ」と来ました。エーチャンナインさんとリモートで話すと、「実はカメラが見つかって、遺族に返したい。私は数年前にご遺族と話したことを今でも覚えていて、どうしてもカメラを返したい」とおっしゃっていました。
それで返す場所として、安全上の理由からバンコクでできないかということで、小川さん夫妻と相談しながら、26日、返還することができました。ビデオカメラの信ぴょう性ですが、テープには時間が記録されていて、それが長井さんの亡くなる時間とほぼ一致するということで、これは間違いモノだと思っています。
(Q.カメラが遺族に返還された意義をどのように考えますか)
長井さんの事件や小川さんを数年取材するなかで、15年も経って、戻ってこないのではないかと思っていたときもありました。ただ、目の前で、返されたところを見ますと、うれしさ、ほっとした気持ちがこみ上げました。小川さん夫妻が、長年、訴えてきたことが、ようやく実ったと。ミャンマーで亡くなった長井さんのことを、みんなに知らせる機会なのではないかと思います。
(Q.長井さんが2007年にミャンマーに取材に行きました。かなり危険もあったと思いますが、同じ取材者としてどのように感じますか)
戦地で取材するというのは、安全上の理由などで、賛否あると思います。ただ、当時、日本人ジャーナリストや日本の記者が入れなかったミャンマーに入って、デモの様子を取材し、それを世界に伝えようとした。長井さんの果たした役割というのは非常に大きかったと思います。
(Q.ミャンマーは当時よりも情勢が悪化していると聞きます。いま、これが明らかにされるというのは、どう思いますか)
私とのインタビューで、ミャンマー人ジャーナリストのエーチャンナインさんは「ミャンマーは、長井さんが殺されたときよりも今のほうが悪い」と話していました。メディアが抑圧されたり、当時の軍事政権ではなかった死刑執行というのが、今回の軍事政権では行われています。私がヤンゴンに赴任していたのは、クーデターの前までで、当時、目を輝かせて民主化とかミャンマーの未来について語っていた取材相手や友人は、今、連絡を取ると、暗い声で、「未来が見えない」「この国がどうなってしまうのか心配でたまらない」と言っています。今のミャンマーの現状を伝えるためにも、今回、カメラが返却されたことを報じるのは、とても意義のあることだと思います。ウクライナなどに比べると、どうしても報道の量としては、ミャンマーのことは多くありませんが、これまで3000人近い市民が殺害されています。先日も空爆で多くの人が命を失いました。今、ミャンマーで起きていることが、非常に深刻だということを、今回、改めてみんなで意識していくことが必要だと思います。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
コメントを書く