【報ステ解説】「大多数が現状維持を望む」台湾前総統“史上初”訪中…総統選は有利?(2023年3月28日)
台湾の野党・国民党で総統を務めた馬英九氏が、中国各地を訪問しています。
国民党は、対中融和策を標榜してきました。親米で独立志向の強い与党・民進党とは真逆の政治スタンスになります。台湾統一を国是としている中国共産党としては、歓迎すべき訪問です。
馬氏の訪中の目的ですが、お墓参りと青少年との交流ということになっています。北京に行く予定にはなっていません。
馬氏は29日、南京にある孫文の墓を訪れました。残した記帳には、台湾を意味する『中華民国』という文字は書かれていませんでした。
国民党・馬英九前総統:「きょう建国の父・孫文が掲げた理念が台湾と大陸で実現されました」
馬氏は、過去には習近平国家主席と会談するなど、その中国寄りの言動が注目されてきた人物です。かといって、中国に統一・併合されることを国民党やその支持者が必ずしも望んでいるとは限りません。
訪中は間違ったメッセージになってしまわないのでしょうか。
南京市民:「大陸と台湾にとって良いことでしょう。統一が早期に実現できる」
南京市民:「彼の今回の訪問は、中国と台湾は、一体であることをより証明できました」
台北市民:「(Q.馬英九前総統の訪中をどう思うか)彼個人のことです。(Q.両岸関係の改善に役に立つと思うか)役に立たないでしょう」
台北市民:「お墓参りに行くだけなら、別にいいと思います。中国共産党政権と接触することがあれば、気を付けなければならない」
台北市民:「反対です。彼は台湾の前総統です。中国のやり方は、侵略的だと思います。彼は、台湾の前総統の立場で訪中しますが、彼は台湾大部分の民意を代表してない」
今回の訪中は、中国側が仕掛けたという話もあります。蔡英文総統は29日から中米歴訪に向かいますが、アメリカにも給油で立ち寄り、そのついでに下院議長と会談を行います。
中国外務省・汪文斌副報道局長:「アメリカと台湾の間のいかなる名義や理由での往来も、アメリカ側が“1つの中国”の原則に違反することも、アメリカと台湾当局の接触も中国は断固反対する」
元々は、マッカーシ下院議長側が台湾訪問を打診しましたが、アメリカで会うことになったそうです。
ペロシ前下院議長が、台湾を訪問した際に起きた想像以上のハレーションを考慮した結果といわれています。
アメリカNSC・カービー戦略広報調整官:「(Q.政権内で中国の過剰反応を懸念する声があるようだが)台湾総統の訪米は今までもあったし、これからもあるでしょう。個人的で非公式な訪問です。中国が反応する理由はありません。通常運行です」
◆台湾情勢に詳しい東京大学東洋文化研究所の松田康博教授に聞きます。
(Q.馬氏の突然の訪中。背景にどういうことがあるのでしょうか)
蔡英文総統の訪米に対して中国がぶつけた形になります。元々、マッカーシー下院議長が4月に訪台するとの話があり、そのショックを薄めるため、中国は、格上のアメリカ・ハリス副大統領の訪中を考えていました。しかし、偵察気球の問題が発生して、ブリンケン国務長官の訪中が取りやめとなり、ハリス副大統領の訪中を切り出すこともできず、別のカードを切る必要が出てきたわけです。そこで、中国は馬英九氏を“一本釣り”したという形になります。高齢の馬氏も、中国との関係改善を自らの“レガシー”にしたいと考えていて、訪中を検討していました。米台が調整をして、マッカーシー下院議長は訪台の代わりに蔡総統と欧米で会うとなり、それに中国がぶつける形に馬氏の日程を作ったと考えています。
(Q.国民党は賛成したのでしょうか)
実は、国民党は、本音では行ってもらいたくなかった。“一本釣り”という言い方をしたのは、国民党は知らされていなかったのです。サプライズです。来年1月に総統選挙がありますので、それに向けて国民党が、イメージの悪い中国に、過度に傾斜している印象を有権者に与えたくありません。ウクライナ戦争によって、国民党は、中国から敵視されている民進党が選挙で勝てば戦争になる。他方、中国に融和的な国民党が勝てば、平和が維持できるという印象を有権者に与えたいのです。ところが、馬氏が中国に行ってしまうと、“中国にひれ伏した”というイメージになってしまう。彼は、台湾にある中華民国の総統だったので、中国では中華民国は49年に滅亡したことになっていますから、尊厳が保てない。そうなると、戦争か平和かという議題ではなく、“尊厳を維持した平和”と“中国に屈服した平和”のどちらを選ぶかという議論に引っ張られてしまう。そういうことになると国民党は不利になるということです。
(Q.国民党、民進党にしても、中国に対する意識はどうなのでしょうか)
全体で申し上げますと、“統一”されるのは嫌だ。ところが“独立”すると戦争になるかもしれないので、怖い。従って現状維持を望む声が多数です。中国に習近平という野心的な指導者が出現して、無理矢理、統一させられるかもしれないという懸念が非常に高まりました。ここ数年、中国の香港弾圧や、強圧的なコロナ政策によって、台湾住民の中国意識が大変、大きく変わりました。これまでビジネス中心でしたが、それよりも台湾の主権のほうが大切だと考える人が増えて、中国に抵抗する民進党の支持が高まりました。中国をリスクだと考える人も増えました。中国を挑発することで、万が一、武力行使を誘発してしまったら、台湾が戦場になってしまうかもしれない。しかもアメリカが助けてくれるかどうかはわかりません。だから、米中の間で、不安を感じるという人が増えている状況にあります。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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