【報ステ解説】「ロシアは打つ手が少ない」米も“主力戦車”供与発表 方針転換の背景(2023年1月26日)

【報ステ解説】「ロシアは打つ手が少ない」米も“主力戦車”供与発表 方針転換の背景(2023年1月26日)

【報ステ解説】「ロシアは打つ手が少ない」米も“主力戦車”供与発表 方針転換の背景(2023年1月26日)

ウクライナに対し、イギリスの戦車『チャレンジャー2』とドイツの『レオパルト2』の供与が矢継ぎ早に決まったなか、今度はアメリカが主力戦車『M1エイブラムス』の供与に舵を切りました。

欧米からの戦車供与決定で、ウクライナ情勢はどうなるのでしょうか。

どの戦車が世界最強か。専門家の中でも意見が分かれるテーマですが、常にトップランクに入るのがエイブラムスです。

アメリカ、バイデン大統領:「春になれば、ウクライナ軍は領土を守りつつ、反撃する準備を進めるだろう。それには平原での機動力を上げつつ、長期にわたってロシアの攻撃を抑止・防衛できる持久力が欠かせない。そこでアメリカは、戦車エイブラムス31台をウクライナに供与します。これは戦車大隊1個分に相当します」

これで“欧米3大戦車”と評される3つ全てが、ウクライナに集結することになりました。

それぞれが突出した機能をもつだけに、対峙するロシア側にとって、大きな脅威であることは間違いありません。

なかでもエイブラムスは、対ロシア軍戦車という面で、過去に実績も積んでいます。

1991年、湾岸戦争終盤。アメリカを中核とする多国籍軍とイラク軍が繰り広げた戦車戦で、初めて実戦投入されたエイブラムスは、イラク軍の主力だったソ連製戦車『T-72』を次々と撃破していきました。

わずか4日で、イラク軍は3000両以上の戦車を失い、敗走。エイブラムスの存在が、圧倒的勝利につながったと言われています。

一番の特徴は、ガスタービンエンジンを使っていること。小型のジェットエンジンを積んでいるようなもので、生み出される瞬発力は、他国の主力戦車を圧倒するほどです。

ただ、それこそが“弱点”にもつながっています。燃費がとても悪く、1リットルで進める距離は約240メートル。ディーゼルエンジンを使うレオパルト2の半分というレベルです。

“燃料泥棒”という不名誉な異名も持ち、ウクライナに供与されても「無用の長物」とも囁かれていました。

事実、アメリカも19日に、こう言っていました。

アメリカ国防総省、シン副報道官:「エイブラムスには運用上の問題があります。ジェット燃料が必要です。メンテナンスの手間と高いコストを考慮すると、今の段階でウクライナに供与する意味はありません」

それを今回、180度転換させました。

アメリカ、バイデン大統領:「エイブラムスは世界最高の戦車ですが、操作や維持が複雑なため、部品や備品もウクライナに供与します」

“必要なものは全てそろえる”。それほどの覚悟で、アメリカは供与を決めたようです。

ただ、費やす時間は予想以上かもしれません。

アメリカメディアによりますと、輸出用のエイブラムスはアメリカ軍が使っているものとは仕様が異なり、ウクライナ向けのものはこれから作るため、納入には1年以上かかる可能性があるといいます。

ウクライナ、ゼレンスキー大統領:「重要なのはスピードと量。我が軍への訓練や戦車供給のことだ。『戦車の拳』『自由の拳』を形成しよう。暴政が二度と立てないように」

対するロシア。国営メディアは「レオパルトには牙がない」といった見出しで報じていました。

ロシア国営放送:「ドイツ戦車に対して、ロシア軍『T-90』の性能は、射程が長く、発射速度も上回る。多くの敵を破壊する」

メディアは強気ですが、報道官の発言からは、緊張感が1段階上がったようにも感じます。

ロシア大統領府・ペスコフ報道官:「強く反対する。各国の行動はすべて、紛争への“直接的な関与”と受け取られている」

【西側 軍事支援“強化”の狙い】

ドイツが供与を表明した『レオパルト2』は、ヨーロッパで最も数が多い戦車で、NATO加盟国とヨーロッパ16カ国で保有する台数は2000両以上に及びます。

ポーランドとフィンランドも供与を表明していて、一部メディアによりますと、12カ国が供与に合意していて、合わせて100両のレオパルト2を供与する見通しだということです。

◆ヨーロッパの安全保障や国際政治が専門の二松学舎大学・合六強准教授に聞きます。

(Q.これまで欧米各国は、ロシアを刺激し過ぎないように、戦車の供与には慎重でした。なぜ“欧米三大戦車”とも言われる強力な武器の供与を決めたのでしょうか?)

大きく分けて理由は2つあります。

一つ目は、今、戦車を供与しても、ロシアがエスカレーションに踏み切る可能性は低いのではないかとみていることです。

長らくロシアを刺激するのではという懸念がありましたが、去年秋ごろ、ウクライナ軍が大幅に領土を奪還した際、ロシアの攻撃は激化しましたが、核使用といった大きなエスカレーションには踏み切りませんでした。

もう一つは、戦車供与をめぐって、この数週間、NATO内でのズレ・不協和音が目立ってきていました。

NATOのなかでは、必要な限りウクライナを支援することに関しては足並みがそろっていますが、どういう兵器をどれくらい提供するのかに関しては、長期化のなかで少しずつズレが目立ってきていました。

ドイツとヨーロッパで供与をめぐって対立が目立つなか、ドイツが「アメリカが供与するなら供与する」と言ったので、対立を引き延ばさないという政治的な理由もあって、アメリカが踏み切ったのだと思います。

(Q.発表の順番としてはアメリカが最後でしたが、水面下ではアメリカが主導して、足並みをそろわせたということですか?)

アメリカとドイツの間では、緊密に調整を行って、時間帯は別でしたが、同時に行ったということだと思います。

(Q.アメリカのエイブラムスは、実戦配備に時間がかかるとみられています。それでもこの戦車を送る意味は何ですか?)

一番の目的は「長期化を見据えている」ことだと思います。

アメリカ高官のなかでは「この戦争は年内に終わらない」という見通しもあり、長期的な視野に立って、必要なところで、軍事的に意味があるものを供与する。そのために、今のうちから供与を決めて、訓練を進めるという点です。

もう1つは、戦争が収束した時、ロシアがいつ態勢を立て直して戦闘を再開するか分かりません。そうした時に攻撃させないようにするため、ウクライナ側の抑止力として、長期的に支えていく。長い目で関与するというサインだと取れます。

(Q.ドイツ製のレオパルト2の供与は、どういった意味がありますか?)

今注目されているのが、春にかけての時期にロシア・ウクライナのどちらが先に主導権を取って、どの方面で攻勢をかけるかです。

この短期的な視野に立ってみると、ウクライナが攻勢をかける時に、レオパルト2は非常に重要になってきます。

だいたい3月末から4月くらいに届けば良いというタイムスケジュールと言われています。

(Q.ウクライナはもう少し台数が欲しいという声もあるようですが?)

今回、ドイツのショルツ首相は「第一段階」と言っています。今後、この数が増えていく可能性もありますし、戦車連合と呼ばれる国から供与される数も増えていく可能性もあります。

(Q.ロシア大統領府は「欧米の戦車はウクライナに到着し次第燃やされる」としています。ロシアが直ちに何らかの行動を取ることは考えられますか?)

ロシアとしては打つ手が少ないと思います。例えば、大量破壊兵器を使う以外すべての兵器はすでにやっています。これまでの延長線上で、例えば、民間施設に対する攻撃を激化する可能性はあると思いますが、核用に踏み切るなどというのは、依然としてハードルが高いと言えるのではないでしょうか。

(Q.ゼレンスキー大統領は「重要なのはスピードと量だ。長距離ミサイルの供給をしなければならない。航空機供与の実現も必要だ」としています。要求のエスカレートが、欧米の足並みの乱れにつながることはありますか?)

今回の戦争は、2014年のクリミア侵攻から8年続いています。こうしたなかで、支える国の間での連携が保てるかは非常に重要になってきます。

長距離ミサイルや戦闘機の供与は、これから非常に大きな議論になっていくと思います。今回の戦車供与のように、しっかりと結束して、ウクライナを支援していけるかが肝になると思います。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>

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