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アメリカのボストン交響楽団を率いる世界的な指揮者が、5年ぶりに来日し、小澤征爾さんと一緒に観客の前に姿を見せました。この困難な時代、2人にはクラシック音楽を通して伝えたいことがありました。
その瞬間は、音楽ファンにとって感動的だったと言います。長野県松本市で開かれた音楽祭。世界的指揮者のアンドリス・ネルソンスさんが国内外の一流奏者が集まるサイトウ・キネン・オーケストラをはじめて指揮し、そのカーテンコールにオーケストラの生みの親である小澤征爾さんが登場したのです。
ボストン交響楽団音楽監督、アンドリス・ネルソンスさん:「セイジは日本人にとってだけではなく、世界中のすべての音楽家にとっての伝説なのです。セイジは本気で応援してくれる人です。素晴らしい指揮者であると同時に、クラシック音楽の未来について考えてくれています」
小澤さんこそ、ネルソンスさんに大きなきっかけをもたらした人物でした。がんが見つかった小澤さんは、2010年に活動を一時休止。当時、30代の若手指揮者だったネルソンスさんが代役としてウィーン・フィルを指揮し、注目されました。
ボストン交響楽団音楽監督、アンドリス・ネルソンスさん:「(20世紀の偉大な指揮者の)カラヤンやバーンスタインからセイジは支援を得たと思うのです。だから同じように若い指揮者を支援してくれるのだと思います」
2014年、ネルソンスさんは小澤さんが育て、愛したボストン交響楽団の音楽監督に就任。そのボストン交響楽団は2022年11月、新型コロナの流行を挟み、5年ぶりに来日ツアーを行いました。ネルソンスさんは日本での公演は特別だと話します。
ボストン交響楽団音楽監督、アンドリス・ネルソンスさん:「こんなことが起きるのは日本だけです。聴衆が指揮者らを大きな拍手で出迎えたあと、次の瞬間、一瞬で静まり返るのです。ここではすべてが音楽に捧げられています。大切なことは、私たちは音楽をともにつくり、愛する日本のお客様と音楽を共有するためにここにいるということです。この場所に戻ることができて本当に感激しています」
東京・サントリーホールでの公演では19世紀末から、20世紀初頭にかけて活躍した作曲家マーラーの「交響曲第6番」を演奏。5年ぶりとなる公演に観客席から大きな拍手が起こりました。
観客:「一音目が鳴った瞬間にこんなにすごい音が鳴るんだという感覚を得たのが本当に久しぶりだった」「同じ空気を伝って、あらゆるものを感じられるので生きていてよかったとか」
ネルソンスさんは1978年、当時ソ連の一部だったラトビアで生まれました。音楽家の両親とともに5歳のときに観たオペラ「タンホイザー」が後の人生に大きな影響を与えたと語ります。
ボストン交響楽団音楽監督、アンドリス・ネルソンスさん:「照明が暗くなり、指揮者がやってきて…。その時、あの素敵な指揮者と同じことをしてみたいと無意識のうちに思ったのです」
トランペット奏者として音楽の“壮大な旅”を歩み始めたネルソンスさんは、指揮者に転向。若くして頭角を現し、小澤さんとの出会いなどもあり、今や世界中を飛び回る多忙な日々を送ります。
新型コロナという厳しい時代を経て、生演奏のコンサートに代わるものはないと強調するネルソンスさん。公演前に日本の中高生を招いて、ロシアの音楽家ショスタコービッチが作曲した「交響曲第5番」のリハーサルを披露しました。
ボストン交響楽団音楽監督、アンドリス・ネルソンスさん:「若い世代は音楽を感じたい、必要だと思っていてオーケストラが奏でる音に興味を持っていると思います」「音楽は音の世界です。音楽が作り出す音の雰囲気や柔らかさ、かよわさ、怒りなどを感じてほしいのです」「(ショスタコービッチが作曲したのは)恐ろしい権力に対するある種の抵抗だったのでしょう。いつか状況は良くなるだろうという気持ちがあったのだろうと思います」
中高生との交流の後のインタビューでネルソンスさんは、ショスタコービッチが「交響曲第5番」を作曲したのは、ソ連の指導者スターリンによる圧政が行われていた時代だったと教えてくれました。
ボストン交響楽団音楽監督、アンドリス・ネルソンスさん:「大切なのは心の中にあるものや雰囲気を音楽を通してどう表現したいかです。特に今のようなロシアとウクライナの間で人が殺される世界ではなおさらです。ショスタコービッチが作曲した時代に近づいていて、以前よりもっと恐ろしいことになっています」
短いインタビューのはずがネルソンスさんは予定時間を大幅に超え音楽への思いを語ってくれました。
東京・サントリーホールでの公演後、ネルソンスさんは大きな拍手を送る聴衆に向かってメッセージを送りました。クラシックのコンサートでは、指揮者が聴衆に語りかけるのは異例のことです。
ボストン交響楽団音楽監督、アンドリス・ネルソンスさん:「お客様同士、また観客とオーケストラとのつながりは素晴らしいもので、それはこの戦争やパンデミックなどのひどい状況に出口があることの証明です。誠実さや善意を持てば世界には可能性があると思うのです。私たちは世界が良くなるよう感化できます。音楽はその一つの手段だと思っています」
取材:テレビ朝日外報部 所田裕樹
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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