樺太に散った乙女たち ソ連軍の侵攻受け~記憶を次世代につなぐために~(2022年8月25日)

樺太に散った乙女たち ソ連軍の侵攻受け~記憶を次世代につなぐために~(2022年8月25日)

樺太に散った乙女たち ソ連軍の侵攻受け~記憶を次世代につなぐために~(2022年8月25日)

兵隊の仮装をし、笑顔で写真に収まる女性たち。
樺太にある真岡(まおか)郵便局に勤めていた電話交換手たちです。
その中の一人、当時17歳だった木本孝(きもと・たか)さん(94)。
かつて日本の領土だった樺太があるのは、北海道のさらに北。
主要都市だった真岡での暮らしは豊かなものだったといいます。

木本孝さん:「本当に楽しい良い町でした。だって、お魚も山ほど獲れますでしょう?
湾の中に船がびっちり横付けして、船からニシンがこぼれるほど積んで入ってくるんです」

しかし、1945年8月20日、事件は起きました。
日本が無条件降伏を受け入れたにもかかわらず、日ソ中立条約を一方的に破棄したソ連軍が、
真岡の町に攻め寄せたのです。

木本孝さん:「これはここにいては危ないから山へ逃げようって親が言いまして。
林業、山やってる人方の官舎がありまして。私も親たちもみんなそこへ入れさせてもらって、
そして、いたところに兵隊が来ましてね。一人ずつ出ろっていう風に指で言ったもんですから
前の人がこうやって出たら、バーンと拳銃で、撃って殺したんです」

その後、ソ連軍の上官が一方的な殺害をやめさせたことで九死に一生を得た木本さん。
解放された後、真っ先に郵便局に向かうと…

木本孝さん:「局に向かって初めてお友達が殉職なさったことを知ったんです」

通信を守るという責務のため、郵便局には宿直の電話交換手たちが残り、
周辺の郵便局に状況を報告していました。そして…

皆さん、これが最後です。さようなら、さようなら。

この通信を最後に、9人の電話交換手が持っていた毒を飲み、自決しました。
ソ連軍の兵士が近づいたら自決するよう、教育を受けていたのです。

木本孝さん:「今度遺体をリアカーに乗せて真岡の私の町の病院の裏にみんな運んで一応仮に埋めたんです。本当につらかったですよね」

ロシアの統治下となって77年。
現在の真岡はどうなっているのでしょうか。

これが、かつての真岡。今は、ホルムスクと呼ばれています。
当時の面影はなく、どこか殺風景な街が広がっています。
多くの人が働いていた製紙工場も、風化が進み、廃墟のような見た目に。
そびえ立つ塔だけが、かつての面影を残しています。
真岡郵便局の、現在の姿は。
当時の建物は全く残っておらず、銀行などが入るビルが建っています。

現在の真岡の様子を、木本さんにも見てもらいました。

木本孝さん:「風景は全然違います、でも、懐かしいです。海と山がね、
映っているのを見て、変わらないなと思ってます。
やっぱりこうやって見るとね、いやー、行ってみたいかな、みたくないかな…
やはりふるさとなんでしょうね」

当時ソ連が何をしていたのか知ってもらうため、木本さんはこれまで新聞などのメディアで
事件について証言してきましたが、今回の取材で最後にするつもりだといいます。

木本孝さん:「年も年ですし、もう限界だと私は自分で思ってます。後の方がそれを広げてくださればと思います」

事件を後世にどう伝えていくか。
この問題に必死に取り組んでいる人がいます。

中間真永(なかま・まえ)さん。
中間さんのお母さん、金川一枝(かながわ・かずえ)さんもまた、真岡郵便局で電話交換手をしていました。

中間真永さん:「小学校1年生くらいから断片的に母が私に(事件のことを)伝えてくれていたんです。
20過ぎたくらいからそれらがきちっと繋がるようになっていて、
そんな悲惨なことが起きたんだなっていうことが理解できるようになりました」

亡くなった母から受け取った記憶のバトンをつなぐ。
そのために中間さんが取り組んでいることがあります。

中間真永さん:「それでお姉さん的な人は、ちょっと下で落ち着いた感じのお団子にしてたというか。再現しています」

中間さんは自らが主宰する劇団で、毎年夏に事件をテーマにした舞台を上演しています。
今年も講演を行うべく、練習に励んでいる最中です。

みんな、今までありがとう。姉ちゃん、もう行くよ…

自決した女性の一人を演じる15歳の宍戸花珀(ししど・なのは)さん。
小さいころからひいおばあさんに真岡郵便局の話を聞いていたといいます。

宍戸花珀さん:「私達と同年代ぐらいの方がこうやって自決されてて、
今私が自決するとか本当に考えられなくて本当に怖いことだなと思います」

かつて樺太がソ連に侵攻されたように、ウクライナは今まさにロシアの侵攻を受けています。
自決した9人の同僚だった木本さんは強い怒りをにじませます。

木本孝さん:「本当に悔しいですよね。向こうの人のやり方がね。
ただ何もしていないのにドカン、ドカンと攻めてきて、私たちの思いと同じ思いをさせて。
もう本当に戦争はしてはいけません。もう平和に皆さんね暮らしていければいいと思います」

(「サンデーLIVE!!」2022年8月14日放送分より)
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>

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