「レッドカーペットは抵抗を表明する場所でもある」是枝裕和監督インタビュー カンヌ国際映画祭【ロングインタビュー】

「レッドカーペットは抵抗を表明する場所でもある」是枝裕和監督インタビュー カンヌ国際映画祭【ロングインタビュー】

「レッドカーペットは抵抗を表明する場所でもある」是枝裕和監督インタビュー カンヌ国際映画祭【ロングインタビュー】

今年5月に開催されたカンヌ国際映画祭。

是枝裕和監督もキャストとともに笑顔でレッドカーペットを歩きました。

今回出品された「ベイビー・ブローカー」。“赤ちゃんポスト”に預けられた赤ん坊を横流しする男たちと それを追う刑事。そして一度は子を捨てたものの、思い直して戻ってきた母親らをめぐる物語です。

映画祭中、JNNの単独インタビューに応じた是枝監督。放送では紹介しきれなかったインタビューをお伝えします。

■この作品を撮ろうと思ったきっかけは?

「2013年に「そして父になる」という映画を作って、そのときに日本の養子縁組制度や里親制度のリサーチをしました。その流れで「こうのとりのゆりかご」という赤ちゃんポストの存在を知って、日本では評価がすごく割れていて、逆にそのことで興味を持ちました。それがスタートになっていて、すぐに映画にと考えたわけではないのですが」

「韓国でも同様のポストがあるというのを知って、その時期に韓国の役者さんたちと新しい映画が一緒にできたらいいですねと話をしていたので、だったら赤ちゃんポストの話を、韓国を舞台にして書いてみようかなと思ったのが2016年。そこがスタートになりました」

「赤ちゃんポストというものの評価が割れているところが面白いと言ってしまいましたが、ちょっと無責任に。それが赤ちゃんの命を救う箱なのか、母親を甘やかす箱なのか、日本の取り組みも含めて、両方の目線があると思います。その二つの評価の中に、あるブローカーと母親と赤ん坊を置いてみる。刑事も置いてみる。一つの命を巡って、善意と悪意が交錯していく感じ。その中に観客も巻き込んで、最後は赤ちゃんどうするんだということを観た人も一緒に考えてもらえればいいなと思っていました」

■政治的なメッセージを掲げる映画祭

華やかさを取り戻した今年のカンヌ国際映画祭。一方でウクライナに、侵攻するロシアの当局者や関係者の参加を認めない方針がとられたほか、ウクライナ人監督がロシアへの非難を呼びかける姿もありました。

是枝監督に映画祭で政治的なメッセージを掲げることについて聞いてみると・・・

「最初に僕が参加した映画祭は1995年のベネチア映画祭でしたが、映画祭の授賞式の壇上にフランスの核実験反対という人たちがバーっときて垂れ幕を広げて、みんなで拍手をするみたいな状況があって。そのときは正直戸惑いました。「ここは映画を愛する人たちが集まって、その愛を語る場所なんじゃないのか」というふうに当時の僕は考えていました」

「けれど、いろんな映画祭に参加していくと、もちろん、特色があるので一概には言えませんが、特にこのカンヌに関して言えば、決して今年だけそういうことをしているわけではなくて、去年は香港の作り手たちの作品を特別に上映したりと、常にその政治状況ときちんと向き合って、映画が持つある種の力みたいなものを信じながら、どう作り手と連帯をしていくかということは明快に示してきている」

「赤い絨毯が引かれたあのスペースというのは、決して映画スターが華やかに歩くだけの場所ではなくて、いろんな抵抗を表明する場所でもある。建前としては映画を通して。そのことを守っていく支持していくことを継続してやってきた映画祭ですから」

■今の時代の映画の役割とは?

最後に“今の時代の映画の役割”について聞いてみました。

「ベイビーブローカーは価値のない命というのがあるのか、生まれなければよかった命というがあるのかということを登場人物たちが考えていくという映画だと思います。同時に、ある視点部門で上映されてる「PLAN75」も75歳を過ぎた命というのは価値がないのだという価値観の時代の話です」

※「PLAN 75」…早川千絵監督作品。75歳以上が自ら生死を選択できる制度のある近未来の日本を描く

「・・・でも、今ほぼそういう時代、そういう価値観が特に日本の社会を覆い始めているという気はしています。役に立つか立たないかで、いろんなものを判断して、役に立つものだけを残してくという発想が。僕も大学で教えていますが、大学にも及んでいるし、社会全体を覆ってきている。そういう違和感とか危機感とか、早川さんは憤りという言葉を使いましたが、僕の中にもそれがあって」

「別にそういう時代状況に抵抗するために作っているわけではないかもしれないけれど、やはりそういう憤りや違和感というものが表明される映画というのは強いと思います。価値があると思いますし、自分が作るものがある種の抵抗っていう言葉は強いかもしれないけれど、そういう役割を果たせるといいなと思います」

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