処理水にデブリ・・・福島原発廃炉の現在地 脱炭素で“原発回帰”の流れも 震災から11年(2022年3月11日)

処理水にデブリ・・・福島原発廃炉の現在地 脱炭素で“原発回帰”の流れも 震災から11年(2022年3月11日)

処理水にデブリ・・・福島原発廃炉の現在地 脱炭素で“原発回帰”の流れも 震災から11年(2022年3月11日)

東日本大震災から11年が経ちました。福島の被災者を中心に、今もなお3万8000人以上が避難生活を余儀なくされています。

大越健介キャスターが4年ぶりに福島第一原発を訪れ“廃炉の現在地”を取材しました。

今、目の前にある課題は『処理水』。東京電力はあと1年でタンクが満杯になるとしています。廃炉の妨げになるとして、政府は去年、海洋放出の方針を決めました。

汚染水は多核種除去設備『ALPS』によって浄化しますが、最後まで取り除けないのが『トリチウム』です。基準値以下なら安全性に問題はないとされますが、漁業関係者から風評被害を懸念する声は尽きません。

大越健介キャスター:「地元の方々の理解が一番大事だと思います。風評被害を気にする漁業関係者もいます。東京電力としてできる精一杯の努力はどういうことだと思いますか」

福島第一廃炉推進カンパニー、木元崇宏副所長:「ご不安の声はたくさん頂いている。ALPSがどんな装置で、どんな水になるのか、しっかり透明性を持って説明を尽くさせて頂く」

安全性は理解しても、信頼できるかは別です。4年前には、タンクの中の水の7割がトリチウム以外も基準値を超えていることが発覚し、地元の信頼を大きく損ないました。東電では、この水を新たに『処理途上水』と名付けています。

福島第一廃炉推進カンパニー、木元崇宏副所長:「以前、浄化した時に“取り切れていない水”があった。取り切れた処理水と分ける意味で、ネーミングを変えています」

計画では、処理途上水をもう一度ALPSで浄化して濃度を測定します。さらに、くみ上げた海水で基準値の40倍まで薄め、1キロ先の海の中へと放出する計画です。ただ、来年春までに地元の理解をどれだけ、どの範囲まで得るのか明らかになっていません。

そして、廃炉の最難関とされるのが、溶け落ちた核燃料『デブリ』です。メルトダウンした3つの原子炉では、核燃料が溶けて圧力容器を破り、建屋の底に固まっているとみられます。

水素爆発した1号機の中は、崩れ落ちた構造物が障害となり、これまで何度も調査に失敗してきました。

大越健介キャスター:「デブリを取り出すところまでは、まだしばらく時間を要しますか」

福島第一廃炉推進カンパニー、木元崇宏副所長:「1号機は、もう少し調査を続ける必要がある」

調査が最も進んでいる2号機では今年、初のデブリ取り出しが予定されています。ただし、全長22メートルのロボットアームで取り出すのは、わずか1グラムです。

国と東電のロードマップでは、最長で2051年に廃炉を完了するとしています。デブリは1~3号機合わせて880トンあると推定されていて、残り29年ですべて取り出すには、一日80キロ以上取り続ける計算です。

大越健介キャスター:「800トン以上と推測されるデブリを、残り29年と考えた場合、現実的なのかという疑問が正直残ります」

福島第一廃炉推進カンパニー、木元崇宏副所長:「当初、国と決めた中長期ロードマップで(事故から)30~40年かかるという見込みで作っています。まず、できることをしっかり一歩一歩進めていくことが大事」

「事故から30~40年」と言い続けて11年が経ちました。

原子力規制委員会・更田豊志委員長:「最終的な廃炉の完了というのは、どのような形を完了とみるか議論があったうえで、時間ですから、現実的に様々な方面に約束できるような年数を確定させるのは、私は技術的に不可能だと思っている。(Q.現在『残り29年』と発せられていることに、政府の一員としての所感は)それは意気込みなんだと思っています」

福島第一原発の周辺にはソーラーパネルが目立つようになりました。浪江町にある県内最大級のメガソーラーは、復興整備事業に位置付けられ、町民が事業者に土地を貸しています。福島県では今、再生可能エネルギーの導入率が40%を超えています。しかし、世界では再び、エネルギーの中心が原子力になりつつあります。

フランスのマクロン大統領は4年前、国内の原発12基を閉鎖すると宣言しました。しかし先月、再生可能エネルギー拡大とともに、原発を2050年までに最大14基増設する計画を表明。EUの欧州委員会も原発を“クリーンなエネルギー”と認定しました。

ヨーロッパでは去年、天候不順によって再生可能エネルギーの発電量が落ち、脱炭素を背景とした“原発回帰”の流れが鮮明になりつつありました。しかし今、突きつけられているのは地震でも津波でもなく“武力攻撃”という新たなリスクです。

ウクライナ侵攻を続けるロシア軍は、大惨事から36年が経った今も廃炉作業が続くチェルノブイリ原発を占拠。戦火はヨーロッパ最大級と言われる稼働中のザポリージャ原発にも及んでいます。

東日本大震災から11年の間に、日本における原発をめぐる環境は大きく変わってきました。去年10月に改定された第6次エネルギー基本計画では、福島の事故を反省し、可能な限り原発依存度を低減するとした一方、2030年のエネルギー目標において、原子力は20~22%を維持しました。

この基本計画に有識者委員として関わった教授はこう話します。
国際大学・橘川武郎教授:「『原発依存度は可能な限り下げる』と言っている。他方で『必要な規模は確保していく』と書いてあるわけです。これは矛盾しています。今動いているのが10基で、許可は出たが動いていないのが7基、まだ許可が下りていないのが10基。これ全部を動かすということです」

すべて再稼働するのはあまりに非現実的。今、注目されているのが“次世代型”の原発です。そのなかでも、世界で70種類以上、開発中なのが『小型炉』。そのトップランナーが、アメリカの『NuScale社』です。

『NuScale社』共同創業者、ホセ・レイエス博士:「例えば電力供給を失った場合でも、人の手を使わず自動で停止する。水に頼らず、冷却を続けることができる。そこが従来の原子炉とは大きく違います」

日本企業が出資し、日本政府もアメリカに対して協力を約束しましたが、萩生田大臣は「現時点において、国内で新規建設は想定していない」としています。

日本原子力学会の宮野廣氏は、小型炉の安全性は認めるものの、核のゴミは結局変わらないと指摘します。

日本原子力学会・宮野廣氏:「高レベルではなく、中・低レベルの廃棄物が増える可能性がある。あまりそこまで検討は進んでいない。当面は今の原子炉を、福島の経験を生かし、安全なものにして作り上げる。次にリプレース(建て替え)も作り上げる。それでエネルギーを確保するのが、重要な課題だと思います」

岸田総理:「(規制委の)新規制基準に適合すると認められた場合に限り、地元の理解を得ながら活用していく。これが原子力発電における基本的な考え方です」

日本のエネルギー政策はどこを目指すのでしょうか。

◆福島・大熊町にいる大越健介キャスターの報告です。

原子力に対する向き合い方を考えると、まるで難しい連立方程式を解くようなものだと感じる時があります。原発は一度、重大事故を起こすと、傷口はあまりに深く、広いものがあります。そして、回復するまでの時間は途方もない時間がかかります。

一方で、地球温暖化をできるだけ抑える脱炭素社会を目指すために、「ある程度、原発に頼るのはやむを得ない」という声が一定の説得力を持つのも分かります。

そのバランスを取ること自体が、非常に複雑な方程式を解くように感じます。原発事故から11年が経過しました。私たちは長い時間を費やしたようにも思いますが、難しい答えを紡ぎ出すには、まだ短いのかもしれません。

実際にあの事故を経験した私たちの世代はせめて、答えに結び付くヒントを次の世代につないでいく責任があると思います。

(Q.ウクライナ侵攻を続けるロシア軍によって原発が制圧されるという、これまで想定していなかったリスクが突きつけられていますね)

私もニュースを伝えながら、ウクライナで核関連施設が攻撃されたことに対して強い怒りを覚えました。一方で、私たち日本人だからこそ、そう強く感じるのではないかとも思いました。私たちの国は、広島・長崎で原爆の投下という悲惨な体験をしました。11年前には福島第一原発の重大事故を経験しました。核の恐ろしさを身をもって知っている私たちだからこそ、強いメッセージを発することができるのではないかと感じます。

ウクライナで現実のリスクを目の前にしている今だからこそ、私たちは強い警告を世界に向けて発していかなければならないのだと思います。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>

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