元局長「人生を破壊された」イギリス史上最大の冤罪事件 ドラマ放送で社会が動いた【報道ステーション】(2024年1月17日)
富士通が、イギリス史上最大の冤罪(えんざい)事件に揺れています。
コンピューターメーカーとして知られる富士通。ただ、メインの事業は、世界有数のITサービスで、日本国内でも官公庁に情報システムを提供する企業です。
事件の舞台となったのは、イギリス各地にある郵便局です。1999年以降、会計システム上の残高と郵便局に実際にある現金の残高が合わないという事態が相次いでいました。そのシステムを提供したのが、富士通の現地子会社です。
一体、何が起きていたのでしょうか。
かつて、郵便局長を務めていた男性に話を聞くことができました。
イギリスでは、多くの郵便局が個人経営で、男性は、父親から事業を引き継いでいました。
元郵便局長のバルビンダー・ギルさん(45):「郵便事業会社の地区担当に呼ばれ『不足がある』と指摘されました。非常に傲慢な態度で『お金持ちの父親がいるのだから、払えるはずだ』と言われました。裏部屋で、とても威圧的な聞き取りが行われ、『金を奪ったのだろう?』と詰め寄られました」
もちろん身に覚えはありませんが、政府が所有する郵便事業会社は10万8000ポンドを請求してきました。
元郵便局長のバルビンダー・ギルさん(45):「人生を破壊されました。返せないとわかっていながら、家族らにお金を借りるしかなく、心と人格をズタズタにされました。憂うつになり、自殺願望にさいなまれました」
ギルさんは、自己破産に追い込まれました。
問題は各地で起きていて、横領や不正経理などの罪に問われる人も続出。有罪となった人は、15年あまりで700人に上ります。
ギルさんから事業を引き継いだ母親(65)も、その一人です。
元郵便局長のバルビンダー・ギルさん(45):「母は『すべて正しいです』と相手の主張を受け入れて、刑事訴追されました」
しかし、その後、郵便局長らは冤罪だったことが判明します。郵便事業会社を相手に起こした訴訟で、会計システムに欠陥があったことが認められました。
一部の人は、有罪判決を取り消されました。ただ、その数は100人足らず。補償も遅れています。
しかし、それが今年に入ると、事態が急速に動き始めました。
イギリス・スナク首相(10日):「これは我が国史上最大級の冤罪です。地域に尽くしてきた罪のない人たちの生活や名誉が台無しにされました。被害者の無実を証明して、速やかに補償するため、新たな法案を提出します」
今月初め、イギリスの民放で、郵便局での冤罪事件をもとにしたドラマが放送されました。冤罪によって、人生を狂わされた郵便局長らが、当局と闘う様子を描いたストーリーです。ドラマが放送されると、イギリス政界からは、富士通も補償を担うべきとの声が上がっていました。
富士通のヨーロッパ地域を統括する最高経営責任者・パターソン氏。議会の委員会で、こう述べました。
富士通欧州地域共同CEOのポール・パターソン氏:「(Q.富士通には補償する道義的責任がありますか)弊社には、道義的責任はありますが、その責任が明確になった時点で、判断すべきだと思います。この悲劇には、多数の当事者が関与しています」
議会の委員会では、ドラマの主人公のモデルとなった元郵便局長もリモートで証言しています。
アラン・ベイツ元郵便局長:「控えめに言って、失望しています。本来なら、今ごろ、全額救済されてもいいはずなのに、時間がかかりすぎです。みんな苦しんでいて、亡くなった人もいます。往々にして企業の重役は、責任を問われませんが、この件に関しては、責任を問われることを願っています」
富士通のコメントです。
富士通:「英国子会社が法定調査に全面的に協力しています。法定調査の手続きを考慮して、現時点でこれ以上のコメントは控えさせていただきます」
■イギリス取材をしている佐藤裕樹記者に聞きます。
Q.多くの冤罪を生んだ事件、イギリス国民はどう受け止めているのでしょうか。
年初めに放送されたドラマは、私を含めて、多くの人が心を打たれました。最終回だけで、アプリなども含めて、1000万人以上が観たとされています。ただ、残念ながら、ドラマが放送されるまでは、ほとんどの国民は、この問題を全く知らなかった、もしくは、ほとんど知らなかったです。
イギリスでは、商店や文房具店などの一角に郵便局の窓口があります。個人事業主である郵便局長が、窓口を経営しています。その郵便局長を描いたドラマでは、無実の罪で家族とともに生活が崩壊していく様子がわかりやすく表現されていました。ドラマが放送されて以降、メディアでは、連日トップニュース級の扱いでこの問題を報じていて、一気に事態が動きました。
Q.イギリス国民の怒りの矛先はどこに向けられているのでしょうか。
一番は、郵便事業会社に対してです。郵便局長の中には、当初から会計システムの不具合を指摘していた人もいます。さらに、郵便局長700人が有罪となる事態に、郵便事業会社側がもっと早く何かがおかしいと気付くことができたのではないかという疑問、怒りの声も上がっています。一方、会計システムを提供した富士通のイギリスの子会社に対しても、ドラマを通じて責任を求める声が上がりました。16日、富士通の幹部が補償に「道義的責任がある」と発言したことには、被害者から一定の評価をする声も上がっています。
Q.今後の見通しは、どうでしょうか。
調査の焦点となるのは、会計システムの欠陥について、富士通の子会社側と郵便事業会社側が、いつ気付いたかということです。そのうえで、誰が何をしたのか、逆に何をしなかったのかという調査も進められます。イギリス政府は、ドラマが放送される前から、今年8月までに被害者への補償を行うとしていましたが、表面化していない被害者が多いのも事実です。全容解明には時間がかかる可能性もあります。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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