処理水批判の中国で“ブーメラン”魚売れず関係者悲鳴 日本は販路開拓で“脱中国”へ(2023年9月24日)
中国が日本の水産物の全面禁輸を始めて一カ月です。
実は中国国内でも、漁業関係者が悲鳴を上げる事態が起きています。
一方、日本の業者は新たな販路を求めて動きを活発化させています
■「ピンチをチャンスに」脱中国の動き加速
(佐々木一真アナウンサー)「港を出て15分。今、正面に養殖場が見えてきました。かなり大規模に養殖されていますね。多くの生簀が並んでいます」
豊後水道に面した大分県佐伯市。ここでは、ハマチ7万匹の養殖が行われています。天然の稚魚を捕獲し、1年半ほどかけて育てるといいます。ブランド名は「若武者」。弾力ある歯ごたえと、しつこくない上品な脂のりが特徴、塩で食べるのもお勧めのハマチです。養殖を手がけるのは、3代目の浪井さん。
(佐々木一真アナウンサー)「うわ、重たいですね!元気いっぱい!いやこれ一匹持つのでも一苦労という重さです。一匹何kgくらいあるんですか?
(浪井丸天水産浪井大喜代表(36))「これは4kgくらいありますね」
Q.これが若武者?これもう出荷できる状態ということですね?
「はい」
先月、このハマチ2万匹を中国に輸出する予定でしたが、処理水放出を受け、中国政府が日本の水産物の輸入禁止を発表、全てキャンセルになりました。
(浪井丸天水産浪井大喜代表)「処理水を流したら取引が無くなるかもしれないというのは聞いていた。しょうがないというか、もうどうしようもない所かなと思いますね」
この養殖場にとって、初めての中国との契約でした。
(浪井丸天水産浪井大喜代表)「今年初めて取引するので、契約書を結んでいましたね」
Q.いつ本契約?
「取引開始するのは8月でしたね」
Q.損失額としては?
「大体ですけど1億円くらいですね」
ハマチ2万匹のキャンセルで損失は1億円。出荷できない間のエサ代も余計にかかります。
Q.出荷が遅れるとどのくらいコストが上がる?
(浪井丸天水産浪井大喜代表)「うちの規模でいうと1000~2000万円くらいは変わるかなと。そういうカントリーリスクみたいなものはある種の勉強だと思って、逆にこういったピンチはチャンスに変えられるような動きをしていこうと思っています。嘆いている暇はないという感じですかね」
すぐに頭を切り替えた浪井さん。携帯電話を見せてもらうと、分刻みの営業の電話履歴が並びます。
(浪井丸天水産浪井大喜代表)「新しい出荷先と、ぜひ『若武者』を使っていただけませんかというお願いをしていますね」
必死の営業で、キャンセルになったハマチ2万匹の内、4割ほどの出荷先が決まりました。新たな販売ルートへの輸送用として、冷凍冷蔵車も購入。さらに台湾のホテルなど、海外への販路も広げつつあるといいます。
(浪井丸天水産浪井大喜代表)「ちょっとずつでも自分で販路を作って、反対に良かったって言えるように頑張ろうと思いますね」
ハマチの仕入れを決めた福岡にあるこちらの飲食店。来月から「若武者」が新しくメニューに加わります。
Q.試食をして入荷を決めたんですか?
(海進丸矢賀部聖人さん)「そうですね。味が養殖のハマチと思えないような、すごい味と弾力だったので、個人的にすごいびっくりしたので」
Q.即決?
「即決です。国内で作ったものを、国内で消費するのはすごくいいことだと思いますので、すごく味も美味しかったので、どんどん使っていきたいなと思っています」
(イヨスイ荻原達也社長(71))「今、スイスのジュネーブです」
まさに今、ヨーロッパ各地で商談を進める会社もあります。
(イヨスイ荻原達也社長)「次のプロモーションの場所がフランスなんです。魚のPR活動があって、それに参加するために」
愛媛県で、魚の養殖や加工などを行っているこちらの会社。輸出事業が、売り上げのおよそ3割を占めており、中国への輸出も多かったと言います。
(イヨスイ荻原達也社長)「中国が輸入禁止だというタイミングですので、居ても立ってもいられないところがあって、どこか卸し先ないかということもあわせて、ここに参りました」
9日、フランス・トゥールーズで行われたのは、日本の食品をPRする、試食会。社長自らブリの刺身を切って提供。用意した500食は、あっという間になくなったそうです。
(イヨスイ荻原達也社長)「人がたくさんいらっしゃった。次から次へと。『脂がのっていて非常に美味しい』と言われました。大変好評だった。逆に我々の今までのPRが足らなかったかな、PRしていたら、もっと売れていたはずなのになって」
明日はパリで現地のバイヤーとの商談会。さらにイギリス・ドイツ・オランダなど1カ月以上かけてヨーロッパを奔走します。
(イヨスイ荻原達也社長)「まずは日本の食材を見て、食べて感じていただく。わかっていただけると思います。時間かかりますけど。輸出量も大きくなっていく。『災い転じて福となす』というふうになっていったら良いなと考えています」
日本貿易振興機構=ジェトロには、この1カ月、水産業者などからの相談が急増していると言います。
(ジェトロ農林水産食品部井上徹哉課長)「一気に販路をシフトしていかなければならないということで、約180件の問い合わせ、相談を受け付けています。世界各地で起きている戦争や紛争というリスクもある。輸出先の多角化というのは、非常に重要な選択肢になるのだろうなと考えています」
ジェトロは、先月下旬、日本の食材に関心を持つ、海外18カ国のバイヤーを東京に招待。商談会を開催するなど、販路拡大の後押しをしています。
ここには、中国からのバイヤー2社も参加。こんな本音も…
(ジェトロ農林水産食品部井上徹哉課長)「キャンセルも出るのではないかと思っていたんですけど、ふたを開けてみたら、皆様、日本にお越しいただいて、積極的にご商談いただいたというところです。中国の中でもALPS処理水に関する受け止めは様々あるという話もうかがっておりまして、日本がやっているから安全だろうと認識されている方も少なからずいるということもおっしゃっていました。(中国人バイヤーは)非常に残念に思っているような印象は受けました」
■処理水批判の中国では“ブーメラン現象”
一方、中国国内では、中国政府が、処理水の放出を繰り返し批判する中、いわゆる“ブーメラン現象”が起きていました。
(井上桂太朗記者)「青島の港に来ています。ご覧のように多くの中国船が並んでいます。9月から漁が解禁されたということで、あちらでは漁師が漁の準備をしています」
中国有数の港湾都市・青島は、水産業が盛んで、港には中国国旗を掲げた漁船が所狭しと並んでいました。ただ今年は、水揚げされた魚やカニなどが値下がりしていると言います。
(漁師)「去年より30%くらい安くなっている」
漁港で魚を並べて売る人も、こう口を揃えます。
(魚を売っている女性)「今年は安いよ。例えば、この魚。去年23~24元(約467~487円)だったのが今は20元(約406円)です」
なぜ、中国産の海産物が安値になっているのか。海鮮市場の関係者に理由を聞くと―。
(市場関係者)「“核汚染水”を出したからだよ。海鮮は上司や親戚などに贈るけど、“核汚染水”は健康を損なうじゃないか。仕入れにも慎重になっている」
中国政府が、処理水を“核汚染水”と呼んで、日本批判を続けた結果、中国の消費者が中国産も含めた海産物全体を敬遠。回り回って、中国の漁業関係者が苦しむ事態となっていました。
(井上桂太朗記者)「漁港に隣接したこちらの海鮮市場、漁が解禁されると例年観光客で賑わうそうなのですが、今年はご覧のように人の姿はまばらです」
(海鮮料理店の店長)「1日40~50組の客が減った。“核汚染水”の影響が大きいです」
(観光客)「私のような海鮮好きには不安です」
(観光客)「心配ですよ。健康が第一だから」
風評被害の“ブーメラン現象”。漁師や市場関係者は事態の長期化を懸念しています。
(市場関係者)「あまり売れない。来年はどうなるのか分からない」
(漁師)「心配だよ。海で魚を捕るのが仕事だから、魚あっての生活だよ。それが売れなくなったらどうしよう」
9月24『サンデーステーション』より
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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