「次を作らないための裁判を」被告を治療した元主治医の願い“京アニ放火殺人”初公判(2023年9月5日)

「次を作らないための裁判を」被告を治療した元主治医の願い“京アニ放火殺人”初公判(2023年9月5日)

「次を作らないための裁判を」被告を治療した元主治医の願い“京アニ放火殺人”初公判(2023年9月5日)

36人が亡くなった京都アニメーションの放火殺人事件から4年余りを経て、今月5日に初公判が開かれました。

事件発生後、全身に重度のやけどを負っていた青葉真司被告(45)を病院に受け入れて治療を行ったのが、鳥取大学医学部附属病院高度救命救急センター教授・上田敬博医師です。青葉被告への生々しい治療の様子、そして、その時の上田医師のつづっていた記録をもとに話を聞きました。

上田医師の記録:「7月20日土曜日 朝から近大病院救命救急センターがざわついているように感じた。それよりも驚いたのは同僚たちの一体感である。誰一人として『なんでそんな人を受け入れたの?』という否定的な発言をするものは1人もいなかった」

主治医を務めた上田医師。やけど治療のスペシャリストとして、青葉被告の治療にあたりました。

上田医師:「基本的には助かる可能性の方がほぼない。そういう重傷度でした。助かるという不安よりも、何がなんでも助けないといけない。そっちの思いの方が強かった」

青葉被告は全身の約93%に重度のやけどを負っていました。まさに瀕死の状態だったといいます。

上田医師の記録:「手術が終わったのは前日深夜0時前でICUに帰室したのは0時過ぎていたかもしれない。28度設定のope室に5時間いた我々はなんとか集中力を切らさずに終了することができた。しかし多量の発汗と手術による疲労感は半端ないものとなった」

上田医師:「目を開けて、うなずくのができたのは8月中旬だと思います。(Q.事件から1カ月経ったくらい)そうですね」

わずかに残った正常な皮膚組織を培養し、やけどした部分に移植する手術は11回。そのなかで青葉被告が感謝の気持ちを表したといいます。

上田医師の記録:「『おもうんですけど、傷だけでなくリハビリや食事のことも考えてくれているので総合的にというかすごいと思います。時々胸が熱くなります』と発言」

上田医師:「内心、自分の中では、それだけのことが言えるなら、あんな犯罪は犯してほしくないと思いましたし、他人を傷つけたり、他人の命を奪うことは絶対やったらあかんと、何回もきつく言いました」

そして、治療が進み、11月に転院する際、青葉被告はこう話したといいます。

上田医師:「『僕なんか底辺の中の底辺の人間で、生きる価値がない。死んでも誰も悲しまないし、どうなってもいいやって思いだった』と。意識が戻って自分たちと対峙して、気持ちに変化があったかをやっぱり聞きたかった。『それは当たり前』と返事をしていましたし『変わらざるを得ない』と言っていました」

青葉被告に顔を会わせたのは今年1月、大阪拘置所での治療が最後となりました。そして今月5日、初公判を迎えました。

上田医師:「完全黙秘するのではという話もありましたので“向き合え”という言葉が伝わっていたのであれば、僕らも必死に全力で向かい合って、ぶち当たったわけなので、それがある程度伝わっていると理解しています。何でこんな事件を起こしたのか。何が根底にあったのか。しっかり裁判で明らかにして、次の犯罪、次の彼のような人間を作らないことにつなげるための裁判を望みます」

■判決まで“異例”の143日間

(Q.今後の流れは)

来年1月25日の判決まで、最大32回の公判が開かれ、裁判員裁判としては異例の143日間という長期間にわたります。

今月5日の初公判で、青葉被告は「起訴内容については、私がしたことに間違いありません。こんなにたくさんの人が亡くなるとは思っておらず、現在ではやりすぎたと思っています」と起訴内容を認めました。

ただ、弁護側は「妄想に囚われていて、心神喪失で無罪、または心神耗弱(しんしんこうじゃく)のため減刑されるべき」と主張しました。

これに対し、検察側は「小説のアイデアを盗まれたなどの妄想があったのは事実だが、今回の犯行は妄想に支配されたものではなく、被告人のパーソナリティー(自尊心が高い・他人のせいにしやすいなど)が表れた犯行」として、完全責任能力があると主張しました。

裁判の一番の争点は“被告の刑事責任能力の有無や程度”になってきます。

(Q.通常の裁判員裁判と異なるポイントは)

今月7日から被告人質問などが始まっていきます。12月上旬には、検察側の論告・求刑、弁護側の弁論があります。検察側と弁護側が意見を述べ、その後に裁判員と裁判官が非公開で『評議』を行い、結論を出します。そして、来年1月25日に判決という流れになっています。

ただ、異例ですが、通常の裁判では1回で終わる論告・弁論の前、11月上旬に検察側の中間論告、弁護側の中間弁論が行われます。ここでは、一番の争点となっている、青葉被告の刑事責任能力などにしぼって意見が述べられます。これを受けて『中間評議』が行われ、裁判員と裁判官が責任能力について結論を出します。中間評議の結果は、判決まで明らかにされません。

今回は審理が143日間と長期に及ぶことから、裁判員が論点をきちんと把握して、順を追って公正な判断ができるようにとの配慮で中間評議が設けられたということです。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>

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