「前代未聞で馬鹿げた話」NATO加入めぐりゼレンスキー氏“怒り”理由は?専門家に聞く(2023年7月12日)
NATO首脳サミットに合わせてリトアニアを訪問した、ウクライナのゼレンスキー大統領。各国と会談する前には、NATO加盟の時期が示されないことをめぐり「前代未聞で、馬鹿げた話だ」と強い不満を示していましたが、終わってみると満足げな様子も見せました。何があったのでしょうか。
NATOの会合は、いつもの会議と同じようで、実は違います。これまで、NATOがウクライナを交えて議論する場が“委員会”だったのが“理事会”に格上げされました。ウクライナは、NATO加盟国と対等の立場で発言できるようになり、理事会を招集する権限も付与されました。今回、いかにNATOがウクライナを重要視しているかを表す象徴的な出来事です。
複数年単位での軍事支援計画や、ウクライナの加盟申請手続きを簡素化するという“特例措置”も決まり、NATOとウクライナの足並みをメッセージとして打ち出せたはずでした。
ゼレンスキー大統領(11日):「ウクライナの招待にも加盟にも期限を設けないとは、前代未聞であり、馬鹿げた話だ。NATOにはウクライナを招待する用意も、加盟させる用意もないようだ」
首脳会議の開幕直前に不満をぶちまけた、ゼレンスキー大統領。今回、NATO加盟への具体的な時期は明示されることはないとの動きを察知し、先制攻撃を仕掛けたのです。リトアニア到着後も、NATOの姿勢をなじるような発言が。
ゼレンスキー大統領:「ためらわず、時間を無駄にせず、侵略国の顔色をうかがわない、NATOを信じています」
それだけ、この首脳会議への期待が大きかったのかもしれませんが、NATOの大前提は覆りませんでした。NATOの言い分はこうです。
NATO、ストルテンベルグ事務総長:「加盟国の合意と条件が整えば、ウクライナにNATO加盟招待を出すことを明示しました。これがウクライナにとって強力な包括案であり、加盟に向けた明確な道筋です」
ウクライナの加盟手続きへの条件。1つは「まず戦争を終わらせるのが先」というものです。ロシアと戦争状態にあるウクライナがNATOに加盟すれば、その瞬間に集団的自衛権が発動され、“NATOとロシアの戦争”に変換されてしまいます。そのことはウクライナも分かっていますが、“加盟時期の見通しすら立たないことが、ロシアを増長させている”との思いが先行しています。2008年に加盟への一歩を進めた時、具体的な時期を定めなかったことが、その後のクリミア侵攻につながったという思いもあるのかもしれません。
ウクライナが求めているのは“終戦し、NATO加盟への道が開かれるまで”耐え抜く手段です。NATOトップとの会談後に行われた共同会見では、こんな発言が出ました。
ゼレンスキー大統領:「ウクライナの人々に大事なのは、NATO加盟までの安全保障です。G7は、その安全保障をきょう認めることができます」
この後に行われる予定のG7首脳会議。終戦するまで、ウクライナの安全をG7が保証するという枠組みが、初めて明文化される見通しです。
ゼレンスキー大統領:「G7が安全保障の宣言に同意すれば、力強いメッセージになります。これは、安全保障の傘に入ることを意味する、最初の法的文書になるかもしれない。他の国々は生活の支援をしてくれていますが、私たちは生活をする前に、生き残らなければなりません」
G7が後ろ盾になるという確約。どんな内容になったのでしょうか。
■ゼレンスキー大統領“不満”の真意は
防衛省防衛研究所・兵頭慎治さんに聞きます。
(Q.ゼレンスキー大統領が不満を表した狙いは何だったのでしょうか)
兵頭さん:「NATOを批判しながら、軍事支援をさらに引き出す思惑だったのではないかと思います。ゼレンスキー大統領は最近、『欧米諸国が、もう少し早く武器を供与してくれれば、反転攻勢が早くできた』と発言しています。ウクライナが今、最も欲しいのがF16戦闘機ですが、どこの国からも提供が決まらず、訓練だけ始める状況です。F16を早く提供してほしいと考えていると思います。また、秋になると、雨で地面がぬかるみ、戦車が進みにくくなるので、早い段階で反転攻勢のめどをつけたい考えもあると思います。そして、NATO加盟に具体的な道筋をつけることで、戦争の出口が見えないなか、ウクライナ国内に対して、安心を伝えたいところもあったと思います。しかし、残念ながら、加盟の具体的な時期や条件については、今回明らかになりませんでした」
NATOとの共同会見では、ゼレンスキー大統領に変化がありました。
ゼレンスキー大統領:「大変、感謝している。特に加盟手続きの簡素化は、重要な結果だった。(ウクライナの安全保障について)G7が“安全の保障”について表明する」
イギリス政府の発表によると、G7が長期的な安全の保障を約束する新たな枠組みで、署名による共同宣言が行われるということです。内容は、ウクライナに対し、防衛装備の提供や機密情報の共有、訓練や軍事演習を拡大していくなどするということです。
(Q.ゼレンスキー氏が態度を変えた理由は何だと思いますか)
兵頭さん:「これ以上、NATOを批判しても、加盟できるわけではありません。むしろ、やり過ぎると軍事支援に逆効果になると考えたのではないでしょうか。今回、G7から安全保障についての長期的な支援を引き出すことができました。NATO加盟までのつなぎのような意味合いを持つもので、これは大きいと思います。ただ、ゼレンスキー大統領からすると、100%満足しているわけではありませんが、大きな前進にはなると思います。ウクライナは以前“ブタペスト覚書”を、イギリス・アメリカ・ロシアと締結し、核を放棄する代わりに、3カ国から安全保障を受けるという約束がありましたが、破られた経緯があります。そのため、政治的な枠組みよりも、軍事的なNATO加盟が、ウクライナにとって一番安心できるということに、大きな変化はないと思います」
(Q.NATOとの軍事的同盟の約束は得られませんでしたが、日本を含む政治・経済的なG7で補填した形を、ゼレンスキー大統領は確保したということですか)
兵頭さん:「そうだと思います。NATO加盟の時期などに関して、NATO加盟国の間でも意見がまとまらず、今回、結束が示せませんでした。ある意味、これをG7が拾った形で、G7の首脳が共同宣言に署名する形で、ウクライナへの長期的な支援を引き出した形になります。ゼレンスキー大統領からすると、G7からの長期的な支援の表明を歓迎したのではないでしょうか」 (C) CABLE NEWS NETWORK 2023
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