“観光復活の起爆剤”シャチに期待の一方で漁業被害も 揺れる知床で生態調査に同行(2023年6月12日)
この時期、知床観光の目玉となっているのが「シャチ」です。
今年は白いシャチが姿を見せ、地元の期待も大きく膨らんでいますが、一部ではシャチに頭を悩ませる人もいます。
観光の目玉か、それとも…共生の道を探る調査に密着しました。
■生態調査に密着 シャチの大家族に遭遇
北海道羅臼町。
Q.きょうはどういう調査に?
(京都大学野生動物研究センター三谷曜子教授)「シャチを探して個体識別の写真を撮ります。毎年来ている個体が来ているのかとか、新しい子どもがいるかとか」
北海道でシャチの調査を続けている三谷曜子教授らの研究チーム。シャチの生態については、まだまだ解明されていないことが多く、10年以上調査を続けています。
「はい、それでは調査開始です」
午前7時出港。まず、双眼鏡で四方八方、くまなくシャチの群れを探します。この日の気温は氷点下。甲板から数km先の海域まで目を凝らします。シャチを探すこと5時間、知床半島の先端近くまで来た、その時でした―。
いました、シャチの群れです。時折、海面から顔出し潮を吹き上げるシャチ。かなりの頭数が確認できます。
「ちょっと下にいきます」
船はこのまま、シャチの群れを追いかけます。
Q.結構数いますね?
(三谷曜子教授)「すごいですね。背びれが高いのがオスで、子どもが2頭くらいは」
Q.(大きいシャチの)体調は?
「8メートルくらいかな。背びれで1.8メートルとかあるので」
Q.10頭くらい?
「もっともっといます。もっといます」
上空から確認すると、この群れは20頭近くいるのがわかります。シャチは母親を中心に家族で群れを作り、平均10頭から20頭、多い群れでは30頭近い数で行動するといいます」
Q.個体識別はどこで?
(三谷曜子教授)「背びれの後ろの白斑、サドルパッチと呼ばれるところと、背びれの欠けとか」
この模様が、人間の指紋のように一つ一つ異なるため、個体の識別が可能だといいます。12年前からシャチの調査を続けてきた研究チーム。これまでの調査で、釧路沖で100頭、羅臼沖で300頭の個体の識別が出来ているといいます。
こちらの黄色いコードは水中マイク。
(常磐大学動物行動学中原史生教授)「(シャチは)海域ごとや集団ごとに特徴的な音を出したりとかするので、そういうふうなのを調べてたりする。会話用と、探査用、餌を探したりとか、海底までの距離を測ったりとか」
シャチは非常に知能が高く、この鳴き声を使いコミュニケーションをとっていると考えられています。一方こちらは、シャチが吹き上げる潮・噴気を採取しています。
(東海大学生物学部北夕紀准教授)「噴気が出た瞬間だけこういうふうに開いて(潮を採取する)それからDNAを抽出して彼らの噴気から個体識別ができたり」
今後、この調査結果を元に、シャチの生態解明につなげていきたいといいます。
■高級魚をガブッシャチで1億円超被害
実は今、このシャチによる被害の声も上がっています。
「食ってる、食ってる」
これは漁師が撮影した、網にかかったカレイを食べるシャチです。
(撮影した漁師中井宏幸さん)「やっぱり被害が10年前から酷くて、毎年毎年被害が増えているような状態です。(網を)入れると商売道具を全部やられてしまうので、魚も全部やられるので、商売にならない状態ですね」
中井さんによると、昆布森漁協では、ここ10年で1億円以上の被害が出ているといいますが、行政などからの支援は得られていないそうです。
(中井宏幸さん)「漁師を助けてください。それだけです」
北海道の先住民族アイヌの人々は、シャチをレプンカムイ=「海の神様」として崇め、豊漁を祈願しました。しかし今では、一部で漁業被害を出す事態に。一体、何が起きているのでしょうか?三谷教授らの調査に同行した船長は…
(観光船はまなす浜松貢船長)「(15年前は)シャチなんて宝くじに当たるくらい出会うのが難しいと聞いた。2年、3年やっているうちに毎日のようにシャチにあたるようになって。」
(三谷曜子教授)「シャチ自体はおそらく1960年代まで捕鯨対象になっていたので、そのあと捕獲がなくなったので徐々に増えていっている」
国際的な反捕鯨の高まりで捕獲が禁止され、徐々に個体数を回復させたとみられています。さらに、三谷教授らのこれまでの調査でシャチの“ある特徴”がわかってきました。
(三谷曜子教授)「遺伝子を調べて『哺乳類食性』か『魚食性』かというのがわかり始めています」
実は、シャチにはアザラシなど哺乳類を食べる個体と、イワシやカレイなど魚類を食べる個体に分かれているのだといいます。
(三谷曜子教授)「哺乳食性と魚食性のもので70万年くらい前から遺伝的に分かれているだろうと言われていまして、お母さんが食べているものが代々、子ども達に伝わっていくんですね」
先祖代々、子孫に、狩りの仕方や餌場など、“食の文化”を継承してきため、食べるものが分かれたのだといいます。三谷教授は、食文化の継承があるからこそ、漁業被害には早めの対策が必要だと指摘します。
(三谷曜子教授)「漁網から魚を食べてしまうという文化がほかに伝搬しない間に追い払うとか、採餌のために超音波を出すんですけれども(対策として)シャチが嫌がるような音を出すとか」
■世界的に希少 幻の白いシャチに大歓声
シャチによる漁業被害がある一方、羅臼町では増え始めたシャチを観光の起爆剤にしたいと考えています。
こちらはシャチの観察ツアーを行う会社。
(知床ネイチャークルーズ長谷川正人船長)「シャチはみんなが見たい生き物、(観光資源の)筆頭かも、この辺では。ただ、今回の事故が大きいからね。全体ではダメージ大きいよ」
事故とは去年4月に起きた知床の遊覧船沈没事故。この会社も当時100件近いキャンセルが出るなど、大きな打撃を受けました。
(池田悠樹ディレクター)「いま、白いシャチが見えました。我々の目の前に白いシャチが現れました」
しかし、今年は幻といわれる白いシャチが現れるなど、うれしいニュースも。長谷川社長はこのシャチで観光業を復活させたいと考えているのです。
(知床ネイチャークルーズ長谷川正人船長)「本来で行けば全社が(予約で)いっぱいになってくれれば地域振興になるから、この町として、知床全体としてね」
観光資源となる一方、漁業被害をだすシャチ。我々はどう付き合っていくべきなのでしょうか?
(三谷曜子教授)「私たちがいるずっと前から海に暮らしている動物で、私たち人間が食べるものを海からもらっているという状況の中で独り占めしていいわけではないので、持続的に漁業も人間も観光も色々な活動ができるように、その“恵み”もシェアして、“苦しみ”もシェアしていかないとどうにもならないかなと思います」
6月11日『サンデーステーション』より
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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