“石段1300段上る”87歳名物女将 “天空の茶屋”65年間経営も…引退決意「もう限界」【Jの追跡】(2023年5月14日)
山形県・羽黒山の中腹にポツンとある、江戸時代から続く茶屋がゴールデンウィークから営業を再開しました。およそ1300段の石段を進まないとたどり着けない店を、半世紀以上守り続けてきた87歳の名物女将は「ある決心」をしていました。
■上り続けて65年「自分をほめてやりたい」
山形県鶴岡市に位置する羽黒山。昔から山伏修行の地として知られる霊山です。
営業再開初日。参道に、茶屋へ向かう高城静恵さんと娘の富美さん(59)の姿がありました。
富美さん:「じゃあ、ばば。私は先に行くので頑張って上ってきて。行っている」
娘さんは準備のため一足お先に。
静恵さん:「さぁ出発しましょうか。ゆっくりですよ、私。お昼までに着くか着かないか」
参道の入り口から茶屋までは、1キロほど。およそ1300段の石段が待ち受けます。
静恵さん:「今年で65年」「(Q.ずっと?)ずっと」
23歳で結婚し、夫の茶屋を手伝うため、毎日のように石段を上った静恵さん。
静恵さん:「(夫は)結構体格もよくて、ほとんど休むことはなかった。本当に大変でした。自分をほめてやりたい」
この参道には、静恵さんが元気をもらう建物があります。1372年に建立された国宝の五重塔です。
静恵さん:「いくら雪が多くても、風雪に耐えて頑張っている。見習わなくちゃ」
小さな祠にもお辞儀を欠かさない静恵さん。神が宿る山で、商売を続けられることに感謝する毎日です。
石段が険しくなってきました。苦しいだけかと思いきや、楽しみがあるといいます。
静恵さん:「おはようございます」
女性:「きょうからですか?」
静恵さん:「きょうからです。なんとか」
女性:「上(の店が)開いていたから」
静恵さん:「またよろしく」
男性:「ご苦労さま」
静恵さん:「しばらく、この方も常連さん」
静恵さん:「おぉ、ご苦労さん」
男性:「やぁ、おばあちゃん。お久しぶり」
静恵さん:「若い人とお友達になれていいですよ。このババアが」
とはいえ、弱ってきた足腰に、この急勾配はこたえます。
静恵さん:「もう限界だな。来年は上れるかどうか」
■上り続けて1時間 「二の坂茶屋」到着
出発して実に1時間。
静恵さん:「到着」
苦労した人だけがたどり着ける、「二の坂茶屋」。江戸時代中期にできたといいます。
出羽三山神社 吉住登志喜参事:「江戸時代は(参拝者が)江戸から歩いてくるわけですよ。江戸から1カ月も2カ月も歩いてきて、さらにこの石段を上る。いくら健脚とはいえ疲れる。なくてはならない場所だった」
毎年、雪が消えると営業を再開する茶屋。4月下旬から11月上旬までオープンします。
■調味料も“ほぼ自家製” あんこの隠し味「塩」
家族中心で切り盛り。静恵さんの孫・豪さん(37)が杵でつくのは、創業当時から続く名物「力餅」です。
富美さん:「ばば、これ味見して」
静恵さん:「おっけー、おっけー、おっけー」
調味料に至るまで、ほぼ自家製。味付けは静恵さんの感覚が頼りだとか。
富美さん:「だいたい目分量なので。いい加減な感じなので、それが難しい」
静恵さん:「よく言えば“良い加減”。悪く言えば“いい加減”」
その良い加減な味付けが評判の力餅セット。「あんこ」に「きな粉」、そして「納豆」。3つの味が楽しめます。
実は力餅には、静恵さんがお客さんのために始めた味付けがあります。
10年通う常連:「あんこの塩気がちょうど良い」
静恵さん:「みんな汗を出してくるでしょ。塩分が必要なわけ」
あんこには、隠し味として塩を入れています。疲れた人を癒やしてきた茶屋ならではの心遣いです。
■営業再開で…元従業員と35年ぶりの再会
およそ半年ぶりの営業再開。久しぶりに静恵さんに会おうと、次から次へと常連さんが訪れます。
秋田から来た常連:「やっぱり顔見ると安心します。元気だって」
10年通う常連:「パワーをもらいます」
連休中には思わぬ人も訪れました。聞けば、以前にアルバイトをしていたといいます。35年ぶりの再会です。
元従業員:「また寄ります」
■旬のヨモギを求めて山へ「みなさん喜ぶ」
65年間お店を守り続けてきた静恵さん。実は、ある決心を語ってくれていました。
静恵さん:「あとは若い人に任せて完全に引退。私もそろそろ90歳になるから、やっぱり大変だもの」
それでも、静恵さんが仕事の手を休めることはありません。この季節にしか手に入らない旬の食材を求めて山へ。
静恵さん:「ちょうどいい、このくらいのやわらかくて」
お目当ては、ヨモギです。
静恵さん:「やっぱり旬のモノを食べたほうが、皆さん喜ぶじゃないですの」
富美さん:「ばば、杖を放りっぱなしだよ」「こういうのやり始めると忘れちゃうんでしょうね、足が痛いの」
ヨモギは、重曹を入れて茹でると鮮やかな緑色に。細かく刻んで力餅に練りこみます。この時期しかいただけない草餅です。
千葉から来た家族:「草餅おいしくなさそう。(一口食べ…)おいしい。これ、あそこから採ってきた草?」「そうだよ、そこから採ってきた」「ヤバァ」
茶屋の営業は午後3時まで。帰りは、孫の手を借りないと手すりがない石段を下りられません。
豪さん:「僕が小さいころはおんぶしてくれたろ?」
静恵さん:「あれから何十年経った?」
豪さん:「何十年も経った」
■引退決意…秘伝の味受け継いでもらいたい
雨の日は滑りやすいため、今年から家族は、静恵さんの出勤予定日であっても留守番をお願いしています。でも、静恵さんの不在は大きいようです。
豪さん:「みんな『おばあちゃんいるの?』『きょう来ているの?』って言いながら来る」
富美さん:「なにかと大変。(客に)山菜とかを頂いたりしても、ばばはササッとやってくれる。ばばの知恵はすごい」
引退を決意した静恵さん。家族には自分の味を受け継いでもらいたいと思っています。
富美さん:「ここの味がおいしくて来るリピーターが多いので、(味を)変えて『全然違っている』となるのもね」
とはいえ、レシピもない味を覚えるのは大変です。
富美さん:「ばば、あんこの味見してね。いかがでしょう?」
静恵さん:「もうちょっとだよな」
静恵さん:「(Q.自分たちの味に変えたいと言ったら?)お客さんの反応見て。『ここのあんこはおいしい』ってみんな言ってくれるから、できればこのままで」
やっぱり頑固な静恵さん。もうしばらく石段を上る日々が続きそうです。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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