“老老避難”の深刻実態…大地震に備え 訓練で“逃げ遅れ”続出 「互近助」解決も【Jの追跡】(2023年3月10日)
今後30年以内に、70%以上の確率での発生が予想される「南海トラフ地震」。
10メートル以上の津波が想定される静岡県浜松市の避難訓練に密着。15分以内に避難を完了させる目標が設定されていますが、避難所の階段を上がれないなど、“逃げ遅れる”高齢者が続出しました。
また、住人の7割近くが高齢者だという都内の団地を取材すると、避難をする側もサポートする側も高齢者という“老老避難”の実態が浮き彫りに…。“最年少”79歳の女性が、さらに高齢の住民をサポートすることに大きな不安を抱えていました。
この“老老避難”の解決に取り組む団地もありました。
防災のキーワードは「互近助(ごきんじょ)」。この言葉が意味するものとは…?高齢者避難の実態を追跡しました。
■高い場所少ない弁天島地区 高台や津波タワー設置
東日本大震災の発生から12年。
夫:「救急用品は見たことがない」
妻:「(Q.何がないですか?)救急用品、ばんそうこうとか」
毎年この時期に行われるのは、津波を想定した避難訓練です。
第一弁天島自治会・山本正一会長:「恐怖ですね。やっぱり、海がすぐ隣にあるというのは…。(東日本大震災の時)ダダーッと海水が上がってくるのが分かった」
静岡県の西部・浜名湖に浮かぶ島から成る弁天島地区。
今、最も懸念されているのが、今後30年以内に、70%以上の確率での発生が予想される「南海トラフ地震」です。
住民(78):「不安ですよ。避難場所まで自分で行けるかどうか…」
住民(83):「歩けない、私は足が悪いので。逃げられないのが困るんだよね」
「南海トラフ地震」で想定される津波の高さは10メートル以上。ここ弁天島も、津波による浸水が起きるとみられています。
浜松市 危機管理課・小林正人課長:「まず『逃げる対策』が一番大切。防潮堤を越えてくるとなると、(津波到達まで)約20分。揺れが約5分続いて、15分ぐらいの避難時間」
高い場所が少ない弁天島地区。市では800人が避難可能な高台のほか、海抜12メートルの津波タワーなどを設置し、避難場所に指定しました。
■避難完了の“目標15分” 避難場所たどり着ける?
浜松市の防災警報(午前10時):「訓練。大規模な地震が発生しました」
警報を聞き、飛び出してくる住民。その多くが、高齢者です。
住民:「腰が痛い、背中が痛い、やっとですよ…」
果たして、15分以内に避難場所にたどり着けるのでしょうか。
訓練の前日、島の中心から端にあるタワーまでの所要時間をスタッフが計ってみると、4分12秒かかりました。
これなら、ゆっくり階段を上っても、15分以内に収まる計算です。ところが、自力で避難ができず、人の支えが必要な高齢者もいます。
目標時間の15分が迫っても、タワーの下には、まだ多くの高齢者の姿がありました。
住民:「警報が鳴って支度していたから(避難に)16分かかった」
■高齢者施設 スタッフ抱え…階段上へ運ぶ訓練も
逃げ遅れが心配される高齢者は、隣の地区にもいます。
妻(86):「(夫は)歩くだけで精一杯。『私がついて行く』と言ってもね…」
妻に支えられながら、近所の高齢者と共に避難所を目指すのは、歩行が困難になった87歳の男性です。
向かった先は、5階建てのマンション。エレベーターはなく、外階段で4階まで避難しなくてはなりません。支えがなければ、階段を上がることができません。
一足先に上に上がるのは、一緒に来た車椅子の男性です。
同行してきた高齢者施設の女性スタッフが男性を支えて上へと向かいますが…。避難を始めて13分。いよいよ87歳男性の番ですが、なんと、上に上がるのを諦めてしまいました。
歩行が困難な男性:「ダメ、この階段じゃ。つかまる手すりがないとダメ。高い(津波)が来たら、しょうがないと思って覚悟はしています」
少しでも多くの人命を救うため、島の高齢者施設では、有事の際を想定し、支援が必用な高齢者を女性スタッフ2人で抱え上げ、階段の上へ運ぶ訓練を行っているといいます。しかし…。
高齢者施設の管理者:「津波が来た時に、どのくらいの命を守れるか。そういうのが常日頃感じているところ」
こうした実態について、浜松市は…。
小林課長:「地域の自治会や自主防災隊には、協力して上のほうに運んでいただけるようお願いしている。高齢者が前にいると、(別の人が)上れないケースもありましたので、早く上りたい人と分けながら上っていく工夫が必要」
■“老老避難”の深刻実態 “最年少”が79歳女性
一方、都内の団地でも高齢者避難に関する別の大きな問題がありました。
住民(82):「築50年が経ち、最初は皆若かったけれど、もうみんな年寄りになっちゃって…」
団地の住民(82):「高齢者が高齢者を手助けするのは、キツイかも分からない」
避難の際、高齢者が高齢者を手助けしなければならない、深刻な実態です。
東京・大田区にある、この団地では高齢者の割合が7割を超えています。
もし、地震によって住めない状況になった場合には、近くの避難所へ移動することになるのですが…。
東糀谷六丁目都営住宅 自治会・今野奏平会長(85):「(Q.東日本大震災の時、エレベーターは?)エレベーターは2週間止まりましたよ」
エレベーターが止まれば、自力で長い階段を下りなければなりません。
11階で一人暮らしをする、79歳の須山小夜子さん。病気で左半身が思うように動かせないといいます。
須山さん:「やっぱり(階段は)不安ですよね。状況によって、杖を使うか歩行器を使うか。やってみないと分からないけれど」
さらに、避難する際、1人で逃げるわけにもいかない事情がありました。
須山さん:「(近隣は)皆、80歳を超えている。私たちが主になって誘導しなくてはいけない。手足がちょっと不自由なの。誘導できるかどうか…」
実は、須山さんはこのフロアで一番の若手。しかし、住民の安否確認や避難のサポートを率先して行えるか、不安を感じていました。
こうした事態は、このアパートだけが特別というわけではありません。
京都大学 防災研究所・矢守克也教授:「“老老避難”という実態がある。高齢化が進んだ地域では、避難を支援する側も、される側も高齢者。助ける若手、助けられる高齢者というペアすら成立しなくなりつつある。こうなると、できる対策は限られている」
■テーマ「互近助」 “ステッカー”で速やかに…
非常事態であっても、高齢者同士で助け合いをしなければならない“老老避難”。
解決のヒントを求め向かったのは、東京・昭島市にある、この団地。およそ1400世帯の半数が高齢者というこの団地で今、最も力を入れている防災のテーマが…。
昭島つつじが丘ハイツ北住宅 団地管理組合・宮田次朗理事長(69):「いざという時に、死者ゼロを目指す。近くで助ける、そういう意味で『互近助』を我々は大事にしている」
「互い」の「近く」を「助ける」と書いて「互近助」とは、一体?
10階に住む住民を訪ねてみると、ドアに見慣れないモノが貼られています。
佐藤満起子さん(73):「いざという時に『大丈夫のステッカー』をドアの外に貼ります」
安否確認用だというステッカー、その使い方は?
佐藤さん:「川崎さん大丈夫ですか?」
川崎さん(81):「はい」
佐藤さん:「ステッカーを貼って下まで下りましょう」
ドアの外にステッカーを貼り、急いで外へ向かいます。
川崎さん:「急いだほうがいい?」
佐藤さん:「ゆっくりでいいよ」
実はこれ、団地に住む他の住民に、自分の無事を知らせるためのものです。
住民の安否確認がスムーズになり、結果、速やかな避難ができるようになるのです。さらに、年に一度、地元の中学校と合同で避難訓練を実施。高齢者を支える若手の育成にもつながっています。
しかし、それでも年々、団地内で高齢化が進む現状に不安はつきません。
宮田理事長:「以前(避難訓練に)参加していた人が、少しずつ顔が見えなくなっているのが現実。『お互いに助け、助けられる』思いで、防災活動を皆で頑張りたい」
■スマホを“無償配布” 高齢者の置き去り防ぐ
また、東京・渋谷区では、こんな対策も行っています。
渋谷区高齢者福祉課・平澤憲之課長:「高齢者にスマートフォンを活用していただくため、スマートフォンを貸し出して、2年間の実証事業として開始しています」
渋谷区に住むスマホを所持していない65歳以上を対象に、「渋谷区防災アプリ」がインストールされているスマホを2年間無償で配布しています。
情報の伝達スピードを上げることで、高齢者が置き去りになるのを防ぐ効果が期待されています。
(「スーパーJチャンネル」2023年3月9日放送分より)
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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