再犯防止に秘策“塀の中のリスキリング”(2023年3月9日)
日本経済の成長に不可欠だとして、政府も力を入れているリスキリング。デジタル技術などを学ぶリスキリングが、今、意外な場所で行われていて、ある人たちの生き方を変えようとしています。
講師:「最初の3枚は作り込んだ方が良いかもしれないですよ」
山本受刑者(仮名):「最初だけ作り込んで…」
講師からネットストアの商品ページの作成方法を学ぶ男たち。罪を犯し、服役中の受刑者です。
栃木県さくら市にある刑務所、喜連川社会復帰促進センター。主に初犯で犯罪傾向の進んでいない受刑者が入るこの施設で、国はヤフーなどの民間事業者と連携し、全国で2例目となる新たな職業訓練「ネット販売実務科」を始めました。
喜連川社会復帰促進センター総務部・青柳宏調査官:「これまでの刑務所の職業訓練は、木工製品を作るとか、革製品を作るとか、職人気質的なところを目指すものが多かった。ストアサイトの運用の仕方を学ぶとかができるようになれば職業選択の幅が広がる。罪を犯さずに生きていくことが少しでも可能性が広がってくれれば良いと思う」
およそ50%と高止まりする再犯率。なかでも無職の人が再び犯罪に及ぶケースは仕事がある人の3倍とのデータもあり、出所後の就職が社会的な課題となっています。
受刑者たちが作っているのは、地元の道の駅の商品を販売するページで、採用されればヤフーのECサイトに掲載されます。しかし、服役中の身。塀の外には出られず、自分が売る商品を試食する自由もありません。そんな彼らのために、この日は道の駅から担当者が来ていました。
道の駅の担当者:「おにぎりとかに使ってもらう場合も、『冷たくなってもおいしい』というのをPRしたい」
山本受刑者(仮名):「分かりました」
道の駅でも人気の地元の米を担当する山本受刑者。こうしたサイトの作成は未経験だといいます。
山本受刑者(仮名):「どう作ったらお客さんの目をひけるかを考えて画像とか作っているが、いかんせん経験がないので、どう工夫すればいいかってこと自体悩んでいる」
刑務所に入ることになったのは、違法薬物の所持。2年3カ月の刑期を言い渡されました。
山本受刑者(仮名):「仲介金を得られるというので取引に自分も加わったが、そこで見つかってしまって。お金が欲しくてやってしまった。仕事をちゃんとしていてお金があればそういったことには手を出していなかったと思うので、仕事はとても大事なこと」
山本受刑者(仮名):「研究で(他の出店者のページを)見てると、画像に文字とかが載っていたりしたけど、どっちのが良い?」
講師:「1・2・3枚目が結構ユーザーさんって見るんですけど、文字を入れてあげた方が伝わりやすい。余りの画像はイメージ図とかで」
山本受刑者(仮名):「なるほど。最初だけ作り込んで…」
訓練期間は3カ月ですが、インターネットの閲覧やページの作成作業ができるのは週に1度の訓練の時間のみ。しかも、閲覧できるのはヤフーのショッピングサイトに限られます。そこで重要となるのが、通常は許されていない他の受刑者たちとの話し合いです。
山本受刑者(仮名):「見てて思うんだけど、(自分の商品ページは)画像が少ない。どうやって増やしていくか…」
別の受刑者:「アップにしちゃえば?」
山本受刑者(仮名):「同じ画像を使い回しになるんですよ。それもどうなんだろう…」
2週間後の発表会まで、残された時間はわずかです。
訓練最終日。ヤフーや道の駅の担当者に完成したページをプレゼンして実際に採用されるかが決まります。
アップルパイ担当の受刑者:「6年間も人気ナンバー1。この絶対的な事実だけでいかにアップルパイがおいしいか分かると思ったので、トップ写真で大々的に『人気ナンバー1』と」
アユの甘露煮担当の受刑者:「ターゲット層を40代、50代にしました。健康を意識してくる年齢だと思っているので、栄養満点なアユの甘露煮は良いと思って、画像を落ち着いたシンプルな感じに仕上げました」
塀の中ゆえの制限はありましたが、それぞれが趣向を凝らした商品ページを発表していきます。そして…。
山本受刑者(仮名):「皆さん、お米毎日食べてると思いますが、私も毎日食べてます。と言っても食べさせていただいているという表現のが正しいかもしれないんですけど。そんなお米のなかから今回『ゆうだい21』を紹介します。『冷めてもおいしい』ということなので、おにぎりにピッタリの商品になっています。私自身(他の商品ページを)見ていて、いろんなこういう画像があるんだなとか、お米の意味も捉えていただけるかなと思って(画像を)たくさん用意させていただきました」
緊張感の伝わる発表に、プロの評価は。
ヤフーの担当者:「米ってビジュアルをいっぱい作るのが難しい品物なんですけど、よくぞここまで。升に入っている絵と、日本っぽいデザインがマッチしているし、おいしそうに見える。これをファーストビジュアル(1枚目の画像)に選んだのは大正解!」
道の駅の支配人:「十分、合格点。ぜひ採用させて下さい」
山本受刑者(仮名):「(Q.ページの出来は?)時間制限があるなかで精一杯させてもらったので100%。仕事をちゃんとしていなくてお金に困っていた。(知識や経験が)何もないなかからでは始められない部分が多いと思うので、今後も勉強し続けて、ちゃんとした仕事に就けるよう頑張っていきたい」
出所後は、webデザイナーやシステムエンジニアに挑戦してみたいといいます。
塀の中でのリスキリング。受刑者たちが様々な人たちの力を借りて完成させたネットストアは来月にも販売が始まる予定です。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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