【報ステ解説】「来年2月キーウ再侵攻を警戒」ゼレンスキー大統領“電撃訪米”のワケ(2022年12月22日)
アメリカを電撃訪問したウクライナのゼレンスキー大統領。今なお、ロシアの侵攻が続くなかで、何を語ったのでしょうか。
ゼレンスキー大統領は、アメリカの政府専用機に乗り、F15に護衛されながら来訪しました。
バイデン大統領:300日…信じがたいことだが、侵攻から300日にもなるのか。
ゼレンスキー大統領:私たちの“感謝する”という言葉の重みを分かっていただくのは難しいでしょうが、本当に感謝しかありません。
今回の訪米は、バイデン大統領に会うこともさることながら、一番の目的はアメリカ議会での演説です。
ゼレンスキー大統領:ありがとうございます。私には身に余るほどの栄誉です。私の感謝と敬意の言葉が、この国の一人ひとりの心に届くことを願います。ほぼ勝ち目のない悲観的な予想に反し、ウクライナは陥落どころか今も健在です。おかげでこうして皆様と手にした、初めての勝利を分かち合えます。我々は“世界の心をつかむ戦い”でロシアを破ったのです。
戦時下の首脳がアメリカ議会で演説をした例は1941年、イギリスのチャーチル首相がいます。
ゼレンスキー大統領は、支援に感謝を述べつつ、決意を新たにしました。
ゼレンスキー大統領:今後の戦いにおいても、倒すべき敵はクレムリンです。この戦いにかかっているのは、ヨーロッパの領土や、ロシアが征服をもくろむウクライナ人の生命・自由・安全だけではありません。この戦いで、我々の子孫や、その次の世代が住む世界が決まります。ウクライナやアメリカの民主主義の存亡も決まります。
ロシア軍が通った場所は、どこも悲惨な状態に置かれています。例え、そこを奪還してもです。
先月、奪還した南部のヘルソン。住む家は破壊され、電気・ガス・水道といったインフラも何もないままです。
こんな状態では住民も戻ってこれません。全てにおいて先の長い戦いです。
ヘルソン在住、ゲンナンジーさん:私みたいな愛国者は皆同じ気持ちです。私たちが勝利するまで、アメリカは支援してくれると思います。
ゼレンスキー大統領は、こうした窮状も議会で訴えていきます。
ゼレンスキー大統領:皆さん、アメリカ市民の皆さん、もうすぐクリスマスです。私たちもキャンドルをともします。ロマンチックだからではなく、電気がないからです。暖房も水道も使えなくなる人々が何百万人もいます。ロシアのミサイルとドローンによるインフラへの攻撃があるからです。
アメリカによるウクライナ支援は今、岐路に立たされています。
年明けから、アメリカ議会の下院は、共和党が過半数を占めることになります。
その共和党の中には、ウクライナ支援に否定的な議員が少なくありません。
共和党下院、マッカーシー院内総務(先月29日):先手を打っていれば、ロシアを止められたかもしれませんが、白地の小切手を切るつもりはない。国民の血税です。
今回の演説中も、スタンディングオベーションをしない議員がいました。
アメリカ国民の中にも支援疲れの声が広がりつつあります。
ゼレンスキー大統領は、懐疑的な人たちに対し「支援は投資だ」と訴えました。
ゼレンスキー大統領:アメリカ兵士に「代わりに戦え」とは言っていません。ウクライナ兵は、アメリカ製の戦車や航空機を完璧に操縦できます。資金援助も極めて重要です。これまでと、これからの潜在的な資金援助に深く感謝します。皆さんのお金は慈善ではない。世界の安全と民主主義のための投資であり、責任をもって活用します。
訪米の直前、ゼレンスキー大統領は激戦地バフムトを訪れ、国旗を託されていました。
ゼレンスキー大統領:旗は、この戦争の勝利のシンボルです。そして、私たちは団結によって勝利します。ウクライナ、アメリカ、すべての自由世界は勝利します。最後に一つだけ言わせてください。勇敢な戦士と市民に神のご加護を。アメリカに永遠の祝福があらんことを。メリークリスマス。幸福と勝利の新たな年を。ウクライナに栄光あれ。
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バイデン大統領は、新たな軍事支援を表明しました。大砲や戦車、弾薬など2400億円規模の支援です。
そのなかでも注目されているのが、高性能迎撃ミサイル『パトリオット』です。
ウクライナはこれまでもアメリカに、パトリオットの提供を求めてきました。
しかし、プーチン大統領を刺激する恐れがあるなどとして、実現しませんでしたが、今回初めて「1基」供与されます。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は、ゼレンスキー大統領の訪米と軍事支援について「アメリカは、ウクライナ人が最後の1人になるまで、ロシアとの間接的な戦争を続けるということを示した」と批判しています。
ゼレンスキー大統領のアメリカ電撃訪問は、長期化する戦争にどのような影響をもたらすのでしょうか。
◆防衛省防衛研究所・兵頭慎治さん
(Q.今回の訪米の着目点はどこですか?)
ゼレンスキー大統領の演説の中で気になったのは「ウクライナ兵はアメリカ製の戦車や航空機を完璧に操縦できる」という発言です。
アメリカが供与を決めた『パトリオット』が注目されていますがが、これはあくまでも、ロシアからのミサイル攻撃に対処するための防御用兵器です。
ゼレンスキー大統領の言葉の中には、攻撃用の兵器をもっと提供してほしいという、不満のようなものが込められていたと思います。
(Q.どのような不満ですか?)
現在、ロシアの攻撃はインフラを破壊しながら、ウクライナ側の戦意を喪失させる狙いがあります。
アメリカの最新式の防空システム『パトリオット』を供与する意味はありますが、今回1基だけの提供で、効果が限られています。
さらに、ウクライナが本来求めているのは、東部・南部の奪還のために必要な攻撃用の兵器になります。
バイデン政権もまだ、そこには踏み切っていないという不満の現れと受け取れます。
(Q.今回の訪米と軍事支援は、ロシアにどんな影響がありますか?)
表面的には反発を強めているように見えますが、パトリオットは防御用の防空システムで1基にとどまっています。
ロシアが懸念していたのは、戦車や戦闘機、射程の長いミサイルの供与ですので、表面的には反発を強めていますが、本音では安堵している部分もあると思います。
ロシアは今、ウクライナ全土を攻撃していますが、これには、欧米諸国の兵器供与の重点を、攻撃用の兵器ではなく、防空用の兵器に振り向ける狙いもあるとみられています。
その観点では、ロシアの思惑通りに、アメリカなども防空用の防御兵器に重点を起き始めているとも言えます。
(Q.東部・南部4州では、激しい戦闘を続けながら、こう着状態となっています。今後、ロシア軍はどう動くと考えられますか?)
ウクライナは「来年2月にも、ロシア軍がベラルーシから南下して、首都キーウに再侵攻するのではないか」という警戒を強めています。
実際に、ロシアは10月にベラルーシとの合同軍を設置したうえで、9000人のロシア兵をすでに展開しています。
ベラルーシとの合同軍事演習を行ったうえで、プーチン大統領は3年半ぶりにベラルーシを訪れ、ルカシェンコ大統領と、さらなる軍事協力について合意をしています。
なぜ、来年2月かというと、プーチン大統領が踏み切った部分動員30万人のうち、最初の15万人はすでに戦場に投入されていますが、残りの15万人の訓練が完了するのが来年2月だとみられています。
来年2月にロシアが何らかの大規模攻勢を仕掛けてくるのではないか。それを危惧して、ゼレンスキー大統領は、自ら軍事支援を求めるために、訪米したとみられます。
(Q.首都キーウは、開戦当初に侵攻して失敗しています。なぜ、プーチンは再びキーウを狙うのでしょうか?)
キーウを狙う素振りを見せながら、ウクライナの兵力を分散させて、東部・南部の戦闘に集中できないようにする狙いがあるのではないかとみられます。
プーチン大統領は、国内の強硬派から突き上げをくらっていて“次の一手”が求められています。
それが、来年2月の大規模なキーウ再侵攻ではないかという見方が強まっています。
ただ、ロシアは一度失敗をしていて、ロシア国内でも「今のロシア軍に可能なのか」という見方もあります。
素振りのみならず、実際に国境を越えてキーウ侵攻に踏み切ることができるのかどうか。
このあたりは、部分動員の戦力化がどの程度完成するのか。プーチン大統領が国内からの批判を受けながら、どういう政治決断をしていくのか。このあたりも含めて、年明けのロシア軍の動きは注目していく必要があると思います。 (C) CABLE NEWS NETWORK 2022
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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