【解説】法人税”増税”で「賃上げ」「雇用」にブレーキ? 防衛費”増額”

【解説】法人税”増税”で「賃上げ」「雇用」にブレーキ? 防衛費”増額”

【解説】法人税”増税”で「賃上げ」「雇用」にブレーキ? 防衛費”増額”

防衛費を増やすため、岸田首相はその財源の一部を増税で確保する方針を示しました。反対の声も多いこの増税の背景に何があるのか考えます。

「毎年4兆円」
「賃上げにブレーキ」
「身内から異論も」

以上の3点について詳しくお伝えします。

■防衛費なぜ増額? 背景に日本をとりまく安全保障環境の“悪化”

まずは、国は何をしようとしているのか。岸田首相の8日、「防衛力を安定的に維持するためには、毎年度、約4兆円の追加財源の確保が必要」と発言しています。

日本の防衛費をみますと、今年度の当初予算で約5兆4000億円です。最近5年間ほどはだいたいこれぐらいの額で推移しています。国がまず目指しているのは、来年度から5年間、防衛費をぐんと増やして、途中どういう経過をたどるかわかりませんが、2027年度にはGDP(=国内総生産)の2%、約11兆円の水準にすることです。ここまでの5年間の総額として、約43兆円を確保するということです。今の5兆4000億円という水準からみますと当然、不足分が出てきます。さらに、防衛費を大きく増やした後もこの水準を維持していくとなると、2027年度以降、毎年度約4兆円、お金を手当てしないといけないということです。岸田首相の発言の「4兆円」というのは、この「毎年度、手当しないといけない4兆円」という意味です。
そもそも、なぜ今、防衛費を増やさなければならないのか。それは、日本をとりまいている安全保障環境が悪化しているからです。

例えば、ロシアによるウクライナ侵攻。ロシアは日本の隣の国でもあります。また、軍事力を強める中国、ミサイル・核などさまざまな挑発を繰り返している北朝鮮。――こうした強まる脅威・懸念に対応するために、5年以内に防衛力を抜本的に強化したいといいます。

■法人税やタバコ税が増税の検討対象に さらに“あの税”の一部も防衛費に?

問題となっている「4兆円」を毎年、どこから出すのか。実はこの4兆円の足りないうちの4分の3、約3兆円は「歳出の削減などでまかないます」と。つまり、「節約しますよ」ということをすでに言っています。

全部が歳出削減だけでまかなえるわけではなく、剰余金の活用や“税ではない収入”も多少あったりはします。そして、残る「1兆円強」を増税でまかなう案が今、示されているわけです。

では、どの税を増税するのか。複数の政府与党の関係者によると、政府与党は必要とされる「1兆円強」の財源のうち7000から8000億円は法人税、そして、2000から3000億円についてはタバコ税でまかなうという案を今、検討しているということです。

さらに今、所得税の税額に2.1%上乗せする形で徴収している「復興特別税」というのがあります。これの一部を防衛費の財源に付け替える方向で検討をしているといいます。ただ、この復興特別税は、被災地のためのお金という位置づけです。秋葉復興担当相は11日、この案について、「震災の復興に使う財源を減らすべきではない」とくぎを刺しました。

秋葉復興担当相
「復興庁といたしましては、復興財源が防衛費に使われるということは断じてないと、このように理解をしております」

■家計への影響は… 「賃上げ」やめる可能性も?

法人税と聞くと、「家計じゃなくて、主に企業・会社のことでしょ」と考える方が多いかもしれませんが、家計にも響くかもしれません。

法人税は、法人が商品やサービスを販売して得た利益に対して発生する税金です。対象となっているのは、一般的な企業や、さまざまな協同組合などあわせると約300万にのぼります。増税によって日本各地の法人の負担が増えるとどうなるかというと、まず考えられるのは、その企業で働く人に大きな影響が出ると思われます。具体的には、「従業員の賃上げをやめる」、「賃上げの上げ幅を小さくする」といった可能性があります。
実は、政府が企業に賃上げを要請している一方で法人税の増税を検討していることには、政府与党内にも反対の声があがっています。

西村経産相(9日)
「投資の意欲を示し、また、賃上げについても多くの企業がかなりの意欲的な取り組みの方向性も示しています。このタイミングで増税については慎重になるべき」

他にも、高市経済安保担当相は、「賃上げマインドを冷やす発言をこのタイミングで発信された首相の真意が理解できません」とツイッターに投稿していて、岸田首相の姿勢に疑問を投げかけています。

企業としても、仮に負担が増えれば、当然、どこかでやりくりしなければいけないと考えます。他にも、企業が設備投資などの投資を抑えれば、当然、成長が阻害されるかもしれない。巡り巡って、その企業の雇用が減るかもしれない。“人的な投資”を減らすという意味でも、そもそも雇用の数を減らそうということが起きるかもしれない。全体として経済にブレーキがかかるおそれも出てきます。反対する人たちからは、「いろいろと悪い影響も考えられるので、当然、慎重に進めるべきだ」という意見が出ています。

では、増税はいつから行うのか。急に増税となるとショックが大きいので、来年度は増税せずに、再来年の2024年度から段階的に増税をしていく方針です。ただ、反対の声も大変多く、野党だけでなく与党の中にも反対の声があるため、調整は難航が予想されています。

   ◇

今回の大幅増額というのは結局、何にどう使うか詳しく詰めていないままに、先に金額、全体像だけが先行しているという実態は否めません。もし増税を伴うのであれば、特に丁寧な説明を尽くして、これから国民の理解を得ていくことが不可欠になります。
(2022年12月12日放送「news every.」より)

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