参院選自民山形 異例の“不戦敗”か? 開かれる「パンドラの箱」【後藤部長のリアルポリティクス】

参院選自民山形 異例の“不戦敗”か? 開かれる「パンドラの箱」【後藤部長のリアルポリティクス】

参院選自民山形 異例の“不戦敗”か? 開かれる「パンドラの箱」【後藤部長のリアルポリティクス】

後藤部長の「リアルポリティクス」です。この夏に行われる参議院選挙で異変が起きています。岸田政権を支える与党自民党が、山形選挙区で独自候補の擁立を見送る動きをみせています。なぜ政権与党が候補者を立てないのか?TBS報道局の後藤俊広政治部長が解説します。(聞き手:皆川玲奈キャスター)

■与党の“異変”“異例中の異例” 擁立見送りの動きなぜ?

後藤政治部長
次の参院選挙について7月10日という日程が濃厚になっていますが、ある“異変”が起きています。どこで起きているかというと、山形県です。自民党の全国に32ある「1人区」と呼ばれる選挙区のうち、山形選挙区で候補者を立てないのではないかという見方が強まっています。

ーー1人区というのは与野党が激突する選挙区で、特に自民党はものすごく力を入れるところですが、そこで候補者を立てないということは異例ですよね。

異例中の異例です。私も20年ほど政治記者をやっていますが、記憶にありません。自民党執行部としてまだ正式決定はしていませんが、自民党では12日に「総務会」と呼ばれる幹事長や総務会長などの執行部や総務と呼ばれる幹部が集まる、会社組織で言えば取締役会のような会が開かれました。ここの場でも、やはり山形県に候補者を立てないということに異論が集中したのですが、会を取り仕切った福田総務会長は、会議の中で「山形県を含めて全ての選挙区において候補者を立てるべきではないか」などという意見が上がったことを会見で認めています。そこにはやはり、候補者を立てられない事情というものもあるのだろうと思います。

ーー候補者を立てられない事情とは?

実は山形選挙区はこのところ2回続けて自民党が負けています。2019年と2016年はそれぞれ野党が勝っています。また、去年行われた山形県知事選でも野党が応援していた現職候補が勝ち、自民公明の推した候補が破れるなど、山形は自民党から見れば“鬼門”と言える、勝てない選挙区なんです。

ーーだから今回は、選挙区から退いてしまおうということですか?

そういう意見が強くなっています。また、山形県の選挙の構図を見ると有力なのが国民民主党の現職で、立候補する予定です。国民民主党というのが共産党や立憲民主党などとは少し毛色が違う野党といえると思います。

ーー国民民主党といえば、今年度の予算に賛成したりと、自民党寄りとも言えますか。

自民党寄りと言ってもいい対応が目立ちます。予算というのは政府与党が今年度、こういった政策をやりますということの数字的な裏付けなんです。財政的な裏付けとも言えます。今年1年こういった政策を行いますよと言う象徴なので、そういったものに野党が無条件で賛成するということはこれまでありませんでした。しかし、それを国民民主党がしたということは、立憲民主党などとは違う、是々非々でやっていくんだという姿勢があります。山形県の候補についても、例えば立憲民主が立てる候補とは少し違うのではないかという見方が、自民党の中にはあるのではないかと思います。また、選挙対策委員長の遠藤利明さんも山形出身の政治家ですが、独自候補擁立には慎重な姿勢ですよね。

ーーということは、自民党からすると今年度の予算に賛成してくれたから、「参院選ではどうぞ」ということなのでしょうか?

そこまでストレートな表現が適切かは分かりませんが、自民党が当然、駆け引きとして考えているのは参院戦後にどういうことをしていくかということです。国民民主党はガソリン税の一部を一時的に下げる“トリガー条項”についても、自・公と国民で実務者協議を行うなど、個別の政策によって歩み寄るような考えを示しています。また、参院選が終わると暫く国政選挙はないだろうという見方があります。その後、何があるかというと、やはり憲法の改正論議が出てくると思います。そこまで見据えて、自民党からすれば、国民民主はあまり全面的に対決する関係ではない、つまり“親自民党”的な野党を手なずけるという考えもあるのではないかと思います。

ーーその一方で、山形の有権者が置いてきぼりになるのではないか?

今回の報道を見て違和感を抱いた理由に、自民党がこれまで国政政党を掲げてきたという点があります。北は北海道から南は沖縄まで全国、全ての国民に奉仕する政党だと標榜してきたわけですから、山形県民からすれば少なからず自民党支持者がいるわけですから、その人たちがどこに投票するのかと。

ーー投票先をどうすれば良いのかと思う方もいますよね。

そうなんです。比例代表で意思表示は出来ますが、やはり選挙の醍醐味であり重要なのは各党を代表する人たちが候補者として「自分たちの政党はこういったことを争点にしています」、「今年1年の政治はこういったことをやるんです」と訴えることで、その時その時の政策、issueが語るということです。それが本来の望ましい選挙のあり方ではないかと思います。

ーー自分たちの声を代弁してくれる人がいないとなると、政治への関心も低くなりますよね。

ですから、この最終的な結論がどうなるか分かりませんが、一線を超えてしまうと危険なのではないかと思います。要はギリシャ神話などで言われる「パンドラの箱」だと思っています。これを開けてはいけませんよというのを開けてしまった、手にしてしまった、そういうことにもなりかねない危うさを感じています。有権者からすれば自分が投じた一票で候補者が決まったり、大きなテーマに対し自分の一票が反映されて世論が形作られたり、そういった達成感や実感があって、選挙や政治に対して関心を持つことがあると思うんです。それが例えば、自分の県で、こういう審判を下したいけどその対象がいないとか、野党を支持しているけど与党と野党が部分的に連合する、何らかタイアップするとなると、有権者が投票で政治的なアクションやプレッシャーをかけられるという思惑が働かなくなってしまう。そういう意味でも危うさを感じますね。

ーー選挙の勝ち負けも大切だと思いますが、それ以上に自民党の人たちには有権者のことを大事にしてもらいたいなという気がしますが。

予定されている投票日、7月まで3か月をきるなかで、まだ候補者を立てていないということは現実問題、厳しくなっていると思います。今回の参院選挙を乗り切るということだけではなくて、中長期的に日本の政治はどうなっていくのか、構造的にも深刻な問題になっています。投票率もずっと下がっています、上がっていません。そういうことに対して、もっと大きく構えてもらいたいなと感じています。

ーーちなみに1人区32あるうち、ほかにも候補者を立てないような選挙区は出てきそうか?

一応、他のところは全て揃いました。可能性が全くゼロということはありませんが、個別にみていくと今回は自民党、宮城の候補が正式に決まりましたが、元々は野党の候補として議員になって勝ってきた人を自民党で登用するということなんです。プロ野球でいうと、相手方の主力選手がこちらに来て活躍するという、FAのようなものです。私、野球が好きなので、そういった状況をみていると若干、複雑な気持ちを感じます。ですから自民党は今回、現実的に勝ちに行く、あるいは大負けしないという戦略なのかなと感じます。
(13日18:02)

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