「ハッピーエンドでも美談でもない」初の内密出産 その内実と重い課題【現場から、】

「ハッピーエンドでも美談でもない」初の内密出産 その内実と重い課題【現場から、】

「ハッピーエンドでも美談でもない」初の内密出産 その内実と重い課題【現場から、】

シリーズ「現場から、」です。熊本市の病院が独自に導入している「内密出産」制度。今年1月には国内初の事例が起きました。その場に立ち会った人たちの言葉から、その姿と課題がみえてきました。

慈恵病院 看護師 黒木晴夏さん
「ここにお母さんが座って面会をしていました。ずっと『かわいい、かわいい』と赤ちゃんに触れていました」

それは、去年の秋でした。

慈恵病院 新生児相談室 民永里織さん
「メールでの問い合わせだったんですよね。『妊娠に気づくのも遅くなって、病院にも行っていない』『どうしたらいいですか』と相談があって」

女性は西日本に住む10代でした。「赤ちゃんの父親に妊娠を告げると関係を絶たれた」「家族も頼れない」と病院に訴えました。女性は新幹線で熊本へ。移動中に陣痛が始まり、病院に着いた翌日に赤ちゃんは産まれました。

慈恵病院 看護師 黒木晴夏さん
「お母さんは笑顔でにっこりされてました」

保育器に入れられた赤ちゃん。女性は入院中に何度も会いに来ましたが、身元を病院に明かすことは拒み続けました。このままでは母と子のつながりが一切なくなってしまう。退院の日、病院は女性に小さなメダイを渡しました。

慈恵病院 新生児相談室 民永里織さん
「『(母子で)同じものを持っていてほしい』と渡した」

ひとつは母親に、もうひとつは赤ちゃんに。女性は涙を流し、そして、最後の最後で身元を明かし、病院を去ったといいます。

これまで仮定や想定でしか語られなかった内密出産。手探りの対応が始まりました。まずは赤ちゃんの戸籍です。戸籍をつくるには出生届が必要ですが、女性の希望により、母親の名前は記せません。判断は熊本市長に委ねられました。

大西一史熊本市長
「非常にかわいらしい赤ちゃんでした。今も感触があるんです」

「赤ちゃんを抱いてみてほしい」、病院からの提案でした。

大西一史熊本市長
「市長の職権とはいえ、戸籍をどうするかとか責任が重いどころじゃないですよ」

大西一史熊本市長(会見)
「子どもの幸せのためにどうあるべきかを最優先に考える」

熊本市と病院は戸籍の作成に向けて動いていますが、課題は残ります。女性は「子どもが18歳程度になるまでは自身の身元を明かしてほしくない」と病院に告げています。しかし、「子どもがその前に、母親の情報を求めたら?」母親との約束と子どもの願い。答えは出ていません。

慈恵病院 蓮田健院長
「赤ちゃんも重いものを抱えながらその後の人生を歩んでいく。美談じゃないんですよ。ハッピーエンドでも美談でもなくて」

(12日06:00)

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