ウクライナへの戦車提供で反撃も“停戦”遠のくジレンマ 専門家に聞く(2022年4月6日)

ウクライナへの戦車提供で反撃も“停戦”遠のくジレンマ 専門家に聞く(2022年4月6日)

ウクライナへの戦車提供で反撃も“停戦”遠のくジレンマ 専門家に聞く(2022年4月6日)

ウクライナで多数の民間人が殺害されたことに対して、世界がどう対応すべきか問われるなか、これまでロシアへの批判を控えてきた国々の発言にも少し変化が見られるようです。

中国とインドは、ロシアに対する国連総会の非難決議で棄権しました。ただ、多くの民間人の遺体が発見されたことについて、中国の張軍国連大使は「非常に憂慮すべきで、しっかり調査されなければならない」、インドのティルムルティ国連大使は「この殺害行為を明白に非難し、独立した調査を求めることを支持する」と述べました。

◆防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。

(Q.中国とインドの発言で風向きの変化を感じることができますか)

兵頭慎治さん:「変化しつつあるともみえますが、慎重に見極める必要があります。残虐行為自体については、両国とも明確に非難しています。ただ『しっかりと調査』『独立した調査を求める』という表現は、本当にロシアがやったのかどうかを含めて、慎重に調査する必要があると言っています。欧米諸国と同じ立場でロシアを非難するようになったと言い切れるかどうかは、引き続き、両国が国連の場でどういう言動をするか見極めていったほうが良いと思います」

NATO(北大西洋条約機構)の外相会合がベルギーのブリュッセルで始まります。2日間にわたって開かれる予定のNATO外相会合では、ブチャでの虐殺を受け、ウクライナへのさらなる軍事支援などについて協議される予定です。この支援には、対戦車兵器や防空システムのほか、生物化学兵器対策の装備の提供も含まれる見通しです。会合には、日本の外務大臣として初めて、林外務大臣が参加する予定です。

軍事支援強化が見込まれるなかで、すでに具体的な支援策も出ています。アメリカのオースティン国防長官は「武器提供支援リストの中には、スイッチブレード無人航空機が含まれる」と述べ、“攻撃ドローン”の提供を発表しました。さらに、NATO加盟国であるチェコが、十数台の戦車をウクライナに提供したとアメリカのウォール・ストリート・ジャーナルが伝えています。

(Q.NATOはこれまで強力な武器の提供には抑制的でしたが、NATO加盟国のチェコから戦車が提供され、アメリカも攻撃ドローンの提供を発表しました。これらの変化からどんなことが読み取れますか)

兵頭慎治さん:「今回の残虐行為を受けて、NATOをはじめとした欧米諸国からロシアに対する強い非難が広がっていることに加えて、ウクライナのゼレンスキー大統領はさらなる軍事支援を求めてきました。十数台と数は限られていますが、NATO加盟国のチェコが直接、戦車をウクライナに供与することは、かなり踏み込んだ軍事支援だと思います。今までは対戦車ミサイル『ジャベリン』など防衛的な兵器でしたが、戦車の提供はウクライナ軍が反転攻勢を強めることが可能になります。

一部の情報によりますと、この戦車はすでにウクライナに向けて輸送されていて、東部ドンバス地方に配備されるのではないかという見方があります。ロシアは5月9日の勝利宣言で最低限、東部2州を完全に制圧したいと考えていて、NATOはそれを戦車の供与で阻止する狙いがあるのだと思います。戦車の供与をロシアがどう受け止めるのかが気になるところです」

ウクライナ東部を制圧しようとするロシア軍の標的となり、激しい攻撃にさらされているマリウポリの副市長がインタビューに応じ、街の惨状を語りました。

(Q.インタビューで注目した点はありますか)

兵頭慎治さん:「新たな現地の状況が得られたと思います。首都キーウ近郊のみならず、それ以外のロシア軍が侵攻した場所でも残虐行為が行われているのではないかと危ぐしていましたが、それが残念ながら裏書きされました。マリウポリでもジェノサイドが行われている。さらに、ロシア政府の想定以上の行為が行われ、隠ぺいする行為が起きているという発言がありました。非常に深刻に受け止めています」

(Q.副市長は『ロシア軍の狙いは破壊そのものだ』と話していましたが、どうみますか)

兵頭慎治さん:「ロシア軍は今までもシリア、ジョージア、ロシア国内のチェチェンでも都市を廃墟にかすような制圧をしたケースがあります。ただ、ウクライナはロシアの歴史的な起源でもあり、民族的にも近い国なので、そこまでやらないのではないかという私の見方が甘かったことになります。

ここまでやる狙いは、副市長が自ら発言していました。『ロシア軍はこの戦争でウクライナ軍に勝てない。そのため、民間人への破壊行為やジェノサイドでウクライナ軍の降伏を狙っている』。これが正しいとなると、ロシアがこれから南東部で戦闘を激化させていきますが、こうした大規模な破壊を目的とした軍事行動をやり続ける可能性があると受け止めました」

(Q.ロシアが南東部で激しい攻撃を行う一方で、NATOからより強い軍事支援が行われるとなると、停戦の行方はどうなりますか)

兵頭慎治さん:「戦闘と停戦協議は裏表の関係にあります。ロシアは劣勢に追い込まれれば追い込まれるほど、交渉に消極的になるという傾向があります。5月9日の勝利宣言に向けて東部2州を制圧しなければならないロシアからすると、停戦協議に前向きな姿勢を示すのは難しいのではないでしょうか。欧米側は、停戦協議と、ロシアが軍事的に支配している地域の解放、どちらを優先するかという複雑な問題に直面しています。残虐行為を受けたこともあって、戦車の提供など、より一層踏み込んだ軍事支援を行うことで、ロシア軍がさらに軍事支配を拡大しないように防ぐことを優先しているように見えます。結果的に停戦協議は道のりが険しいものになっていくのではないかと思います」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>

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