「止められるのはロシア人だけ」ウクライナの国民的ロックバンドのボーカルが語る 自ら前線を慰問、その思い【報道特集】
ウクライナの国民的ロックバンド「オケアン・エリズィー」のボーカル、バカルチューク氏は、ロシアによるウクライナへの侵攻の最前線で、その惨状を目の当たりにしました。「邪悪そのもの」「ばかげている」。ロシアの侵攻についてこう断じる一方で、「止められるのはロシア人だけ」だと呼びかけています。バカルチューク氏の“平和”を希求する真摯な訴えを、TBSテレビ「報道特集」・金平キャスターが聞きました。(取材日時:2022年3月2日)
ーー今はどちらに?
ウクライナの東部にいます。安全のことがあるので正確な場所はお伝え出来ませんが、最近ハリコフから来ました。あそこにいましたが、今は違います。今朝までいて、ハリコフの中心部に行き、方々で破壊された建物を見ました。
ロシアによる爆撃の影響を目にしました。ハリコフへの爆撃はひどいものです。信じられませんよ。4か月前はとても美しいところでしたが、今はその中心部がめちゃくちゃに破壊されています。
ーーハリコフで何が起きました?ロシア軍はどうしようもなくなり、一般市民まで攻撃し、たくさんの市民が犠牲になったと聞いています。
その通りです。あそこはロシアの侵攻に対する抵抗の中心地なんです。ロシア軍は初日にウクライナの大都市を爆撃しました。彼らが言っているように、戦略的に大事な軍事施設ばかりではありません。都市にとっての重要インフラも、何でもない他の場所も爆撃しました。それで女性や子どもも含め大勢の死傷者が出ています。15人から20人ほどの子ども達が被害に遭いました。
ひどい状況で、理性的に話をすることさえできません。心と頭脳がずたずたにされる思いです。こうした人々を殺すのを、誰がどういう思いで命じたのか、私には理解できません。こんなことができるなんて、本当にくるっているし、邪悪そのものです。比較されるのを嫌がる人もいるのは分かっていますが、まさに第二次世界大戦と比較できます。それ以外に比較仕様がありません。全世界がウクライナを支持し、いろいろと非難していますが、戦闘は止められないまま、どんどん進行している。全世界はウクライナのために団結すべきだと思いますが、それはウクライナが世界で一番重要な国だからではなく、我々が長年の間で最もひどい状況にあるからです。
ーーハリコフでは病院にも行きましたか?
訪問するどの町でも病院には行くので行きたかったですが、以前の東部での戦争の際に何度も訪れて、よく知っている病院は破壊されていました。彼らは病院も破壊しました。そして今朝、我々がハリコフを出た直後にロシア軍が発射した2発のミサイルが、ハリコフのメインの警察署と市役所を破壊しました。
しかし、最悪なのは彼らが人々の心に恐怖を植え付けていることです。近くにある信号の明かりが消えるだけで、人々は恐怖をおぼえるのです。つまり、これは人道上の犯罪です。人道に対する罪です。しかし、兵士はもちろん、人々が自信に満ちているのが見られてよかったです。彼らは待ちを守れるし、抵抗を続けられる自覚と勇気とモチベーションにあふれていました。自分たちの領土を防衛するというのが目的なので、我々は勝ちます。我々の側が他国に対して何か間違ったことをした、というわけではないのです。つまり、この国土は我々のもの。彼らがここの国民や子どもたちを殺しにやってきたことについては絶対に許さないし、最後まで戦います。最後のロシア兵が出ていくまでです。
ーー国際機関からロシア軍がクラスター爆弾などの大量破壊兵器を使用したという情報を得ました。ロシア軍は本当にそういう兵器を使用したと思いますか?
私自身は軍人ではないので、その情報が正しいと断言することはできません。分かりません。しかし、もしそれが事実だったとしても驚きません。それを使用しているとすれば、彼らにはもはやレッドラインはなくなったということだからです。彼らが最初にレッドラインを踏み越えてしまったのは、我々を標的に爆撃し始めた初日だったと思います。それには何の理由もありません。何の理由も、です。
我々がロシアに脅威を及ぼしたことなど、全くありません。ロシア外務省が、ウクライナを抑止するため「軍事作戦」を開始したと言っていたのは、全くばかげています。おかしいんじゃないの?こんな皮肉は聞いたことがありません。我々よりも10倍大きく、多数の核兵器も保有している国が、10倍小さく、核兵器も持たない国を抑止したいというのです。我々は何年も前に、領土の安全性の保証と引き換えに、それ(核兵器)を自発的にロシアに明け渡したのです。今では世界の誰もが、どこの国も、ロシアの補償には大変な金額となっているストックと同額の費用がかかることを知っています。
ーーあなたはミュージシャンで、そのことには本当に敬意を表するし、あなたのCDもこうして持っている。
ロシアではまだ音楽がよく聴かれています。我々もロシアにはよくツアーで行っていたし、次回の開催も行く予定でした。だから、どうしてこうした人たちがなぜ街頭や広場に出るのではなく、我々の町や建物などを爆撃できるのかが分からない。彼らには街頭に出ることが求められます、止めなければいけません。プーチンは自分の人生ばかりか、彼らの人生を悲惨なものにしているからです。今、これを止められるのは、こうした友人たち。ロシア人だけです。
ーー2014年のクリミア併合以降、あなたのバンドはロシアでの演奏を中止している。ロシアやベラルーシにはコンサートツアーで何度も行ったとのことですが。
ロシアには3,400回行きました。
ーーモスクワにもベラルーシにも数多くのファンがいるのでしょう?
ベラルーシには2020年までツアーで行っていました。最後のコンサートは2019年で、大勢の人たちがコンサートに来てくれました。こうした人々が、自国の政府に反対できないのが不思議です。ウクライナには悪い政府、ヤヌコビッチという悪い大統領がいましたが、我々は常に抵抗してきました。人間の尊厳と自由はとても大事だと思っているからです。しかし、(ベラルーシの)こうした人々は常に怖がっています。しかし、いつも怖がっているようでは政治的には1000年も遅れてしまいますよ。
ーーあなたの音楽は大好きですが、こんな中でのアーティストの役割は何ですか?音楽で世界が変えられると思いますか?
音楽は世界を変えてきました。覚えておられるでしょうが、ソ連が崩壊したときもテレビ局やロックなどが一役買っています。60年代、70年代にローリング・ストーンズなどのバンドがいなければ、ソ連の崩壊はずっと遅れていたと思うからです。しかし、音楽や精神的なものは、人々の心に浸透します。人々の意識を遥かに、急激に変えていきます。音楽がとても大事なのは確かだと思うし、だからこそ今、世界中のセレブやミュージシャンらがウクライナを支持してくれることが本当に大事なんです。
しかし、ツイッターやフェイスブックに投稿するだけではだめです。各国政府に対してウクライナへの軍事・経済支援をさらに強め、ロシアに対する制裁を強めるよう圧力をかけることです。これが非常に重要です。特に制裁措置が波紋を呼んだドイツなどの国で、です。
ーー私自身、1991年にソ連が崩壊したときにはモスクワ特派員として取材しました。友人にはモスクワのミュージシャンたちもたくさんいた。当時抵抗していたのは彼らだった。彼らが保守的なクーデターに対して抵抗した。
しかし、そうなってはいない。
ーーそうなっていないのは分かっていますが、ロシアやベラルーシで何かが起きてほしいと思っています。近い将来、そういうことが起きるという期待はありますか?
まず何よりも、ロシアとベラルーシの人々に大勢で街頭に出てきてほしいと思います。心ある人がいるはずだ、という希望がなおもあるし、“いつか警察に殴られるかもしれない恐怖”が、“悪い人間になることへの恐怖”に変わっていくと思うからです。そして、彼らがこの事態を止める。
実は、我々には何もできないんですよ。僕は兵士ではないし、銃を撃ってはいないということができるかもしれないが、彼らにはできる。この痛みに加担していることになってしまう。神道や仏教など、日本の文化や宗教にこんな考え方があるのかどうか知りませんが、キリスト教やユダヤ教では、何かをするよりも大きな罪は冷淡でいること、中途半端でいることだという考え方があります。だからロシアの人々には、ウクライナの軍やレジスタンス、欧米の支援よりも、「自分たちの未来を変えるのは自分たちにかかっているんだ」ということを分かってもらいたい。
ーーロシアの侵攻が始まった直後に、あなたが通りを走り回って人々に「侵略に抗議しよう」と訴えたことに衝撃を受けました。あの時、どんな思いでしたか?
我々はみんなが何らかの危惧を抱いていました。死ぬかもしれない、けがをするかもしれない。人生が台無しにされるかもしれないので、戦争が怖いのは当然です。
しかし、ここは我々の国土です。我々の国土なので、強い意志を持っている限り公算はしない。失うものは何もありません。国土を失ってしまえば何もなくなります。つまり、「All or Noting」です。そして、我々の望みは「全て」です。
ーー私は世界中の人々が連帯することを信じています。
日本の皆さんにひとこと言わせてください。まず第一に、僕は日本文化の大ファンです。皆さんの心、皆さんの人柄、皆さんの習慣、全てです。大きな都市に行ったこともあるし、できるだけ早期にまた訪問するつもりです。
そして第二に、我々は戦争に勝ったら、その後どうするのかという話をよくします。いろんなものが破壊された後ですね。日本は戦後、完全に破壊されていたが、日本人の気概は高く、一世代で国を再建したといいます。我々にはいい模範があるんです。
(21日15:00)
コメントを書く