「努力だけでは“届かない領域”に」師匠に聞く『歴史的偉業』将棋・藤井“八冠”誕生(2023年10月11日)

「努力だけでは“届かない領域”に」師匠に聞く『歴史的偉業』将棋・藤井“八冠”誕生(2023年10月11日)

「努力だけでは“届かない領域”に」師匠に聞く『歴史的偉業』将棋・藤井“八冠”誕生(2023年10月11日)

将棋の藤井聡太プロ(21)が11日、『王座戦』五番勝負の第4局で永瀬拓也王座(31)に勝利し、史上初の八冠制覇を達成しました。

対局は、藤井七冠が持ち時間を使う、苦しい展開が続きました。

解説:「ここまでは永瀬王座の作戦通りで、持ち時間の方もリードして進んでいますが」

徐々に永瀬王座優勢の見解も増えていきます。

解説:「なんかちょっと苦しそうな感じにも見えますね」

流れが変わったのは、対局開始から11時間ほど経った、午後8時過ぎでした。持ち時間がなくなり、秒読みのなか、極限まで最善手を探す2人。粘り強い差し手を続け、抜け出したのは藤井八冠でした。そして、永瀬王座が投了。藤井七冠が残っていたタイトル『王座』を獲得、八冠を達成しました。

プロ入りからわずか7年、21歳にして将棋界全てのタイトルを手にした藤井八冠。将棋と向き合う姿勢こそ、快挙を達成した秘訣です。5歳で将棋と出会った藤井八冠は、当初から他の子どもとは明らかに違っていたといいます。

師匠 杉本昌隆八段(54):「子どものころは、負けると将棋盤にかじり付いて泣いていた。まさに闘争心の塊のような少年」

そんな負けず嫌いだった少年は、強くなるための努力を惜しみませんでした。当時、書き記していた「将棋ノート」には、終盤の力を磨く詰将棋の解答がびっしりと残っています。史上最年少、14歳2カ月でプロ入りを決めても、そうした姿勢が変わることはありませんでした。当時、報道ステーションの取材にこう語っています。

藤井八冠(当時14):「将棋を始めたころから持ってた、もっと強くなりたいという気持ちは、全く変わらない。まだまだ実力が足りないので、これからも気を引き締めてやっていきたい」

藤井八冠がさらに強くなるために活用したのが、AIです。AIの可能性をいち早く見抜いていました。

藤井八冠(当時14):「コンピューター(AI)将棋が強くなったことによって、人間のなかで相対的に強いということにとどまらず、もっともっと上があるということが分かった」

AIを取り入れた藤井八冠は、学生服姿でデビューすると、将棋界を席巻する強さを見せつけます。デビュー以来、29連勝という新記録を打ち立て、将棋界400年の歴史上、最も才能に恵まれた天才と呼ばれるようになりました。

藤井八冠の快進撃は、将棋界の景色をも大きく変えました。大盤解説会には、将棋を指さない観戦専門のファンが多く集まり『観る将』という言葉が浸透してきたのもこの頃です。『勝負飯』という言葉も一般的になりました。昼食に何を頼むのか、そうしたことすら大きな注目を浴びました。

ただ、関心が高まるなかでも、冷静に自らを分析し、常に上を目指していたのが藤井八冠。

藤井八冠(当時14):「羽生九段が七冠を取られたのも、24~5歳のころだったと思うが、そういう意味で、10代のうちにトップに近いレベルにしておく必要がある」

トップ棋士に力の差を見せつけられる時期もありました。当時、タイトル戦の常連だった強豪、豊島将之九段には6連敗を喫したことも。

藤井八冠(当時15):「(Q.今は力をつける時期だと言っているが)今は特に序盤で、形勢判断が分からないところが多いので、そういったところを、しっかりした判断ができるようにと思って取り組んでいる」

終盤の強さは紛れもなく将棋界トップクラスでしたが、序盤に隙があると考えていました。しかし、天才棋士はその弱点ですら克服し、6連敗を喫した豊島九段相手に、今は大きく勝ち越しています。

藤井八冠:「夕食休憩のあたりは、はっきり苦しいかなと思っていました。難しい将棋だったかなと思っているんですけれど、中盤で差をつけられてしまう将棋が多く、実力不足を感じる部分が多かった。(Q.8冠制覇となりましたが)ここ1~2年は、タイトル戦の結果は良かったんですけれど、見合っている力があるのかなと思ったら、まだまだなので。引き続き、実力をつけていくことが必要かなと思っています」

今年、藤井八冠と2つのタイトル戦を争った佐々木大地七段(28)は、その進化をこう感じとりました。

佐々木七段:「序盤で先行して、リードを守り切るのが、対藤井戦における勝ち方の一つだが、本当に(盤面の)バランスがさらに良くなっていて、昔、弱点と言われていた序盤でも、藤井竜王名人に追い付くのは非常に大変な時代になってきたと思います」

将棋盤を挟み、向かい合う藤井八冠は、以前とは別人のようでした。序盤に、藤井八冠が経験したことがない戦術に誘導することを意識していたといいますが、難なく対応されることが多かったといいます。

藤井八冠:「(Q.皆さんに一言)夜遅くまで多くの方にお越しいただき、ありがとうございます。この五番勝負を振り返ると、中盤で差をつけられてしまうという将棋が多くて、自分の実力不足と、永瀬さんの強さを感じるところが多かったと思っています。とても勉強になったシリーズだと思うので、これを糧にして実力をつけられるように、今後も取り組んでいきたいと思います。本日はありがとうございました」

◆師匠が見た“偉業達成”の瞬間

藤井八冠の凄さを改めて振り返ります。

2007年(5歳):祖母の勧めで将棋を始める
2016年(14歳):史上最年少でプロデビュー。そこから29連勝(歴代最多)の新記録を達成

その後、わずか3年で八冠を獲得しました。

2020年7月(17歳11カ月):『棋聖』獲得。17歳11カ月でのタイトル獲得は史上最年少
2020年8月(18歳1カ月):『王位』獲得
2021年9月(19歳1カ月):『叡王』獲得
2021年11月(19歳3カ月):『竜王』獲得
2022年2月(19歳6カ月):『王将』獲得
2023年3月(20歳8カ月):『棋王』獲得
2023年6月(20歳10カ月):『名人』獲得
2023年10月11日(21歳2カ月):『王座』獲得

藤井八冠の師匠・杉本昌隆八段に聞きます。

(Q.藤井八冠が偉業を達成しました。今、どんな気持ちですか)

杉本八段:「これだけたくさんの方に注目していただいて、そのうえで結果を出しました。本当によくやってくれたなと思います」

(Q.勝利の瞬間、藤井八冠は控えめな態度だったようにも見えました。どのように見えましたか)

杉本八段:「対局の内容は、永瀬九段が非常に良かったです。勝負としては二転三転を超えて、三転四転し、最後は藤井八冠の勝利でしたが、本人としては反省点が多いと思っていると思います」

(Q.最後の最後に勝ち切ったところに、弟子の強さは見えましたか)

杉本八段:「将棋は“逆転の競技”とも言われますが、藤井さんは勝負強すぎますね。あれを勝つとは思いませんでした」

(Q.頂点を極めても、まだ勉強する余地を残しているところに、恐ろしさも感じますね)

杉本八段:「今はAIも強いですし、今日の対局でもミスが出ています。ですから、まだまだ将棋の真理を極めたいという気持ちに変わりがないと思います」

(Q.子どもの頃から藤井八冠を見ていて、ここまで来ると考えていましたか)

杉本八段:「タイトルを2つや3つ取るくらいの才能がある子でしたから、一流棋士になることは確信していました。ただ、全冠制覇というのは流石に予想していなかったです」

(Q.強さの秘訣はどこにありますか)

杉本八段:「まず、負けず嫌いであること。そして、負けを真正面から受け止めて、次の対局に生かす。決して同じ失敗を繰り返さないところかなと思います」

(Q.他の棋士とは違うレベルにあると言えますか)

杉本八段:「持っている能力もあり、他の棋士よりも読む量が多くて速いです。我々棋士がどれだけ努力しても“たどり着かない領域”というものがあるのですが、藤井八冠はそこを間違いなく超えているかなと思います」

(Q.その領域にたどり着くための、ターニングポイントはありましたか)

杉本八段:「見ていると、あまり結果に対して欲を持っていないというか。今回もタイトルはもちろんうれしいでしょうけど、そこを目標にやってきた訳ではないと思います。目の前の一番に全力を尽くすということを、子どもの頃からずっとやってきて、その蓄積があって今があるという気がします」

(Q.将棋を強くなりたい、極めたいという道のりの一歩一歩が、八冠だったという感じでしょうか)

杉本八段:「どうしても、勝たなければいけないと思うと、指し手が縮こまってしまって、普段なら選べていた手が選べないこともあります。藤井八冠を見ていると、ストイックというか。今日の将棋も、序盤で時間を使い過ぎてしまって、リードを奪われました。時間を使うというのは、彼の将棋のスタイルです。目先の勝負を見たら損になるかもしれないけど、その考え方は変えない。ずっと一貫した姿勢が今の結果につながっていると思います」

(Q.藤井八冠は子どもの時からそういう性格でしたか)

杉本八段:「どちらかというと、将棋が好きでたまらない少年でした。時間があれば、詰め将棋を解いていたり、盤面を研究していたり、常に将棋の何かをしている少年でした。はた目にはそれが、研究熱心、努力している、ストイックに見えますが、本人からすると、楽しいからやっていることなのかなと思いました」

(Q.目の前のやるべきことをやる、それそのものが好きだというのは、野球の大谷翔平選手と似ているように感じますが、いかがですか)

杉本八段:「藤井八冠は、今日の対局が終わった後でも、違う将棋の話を振られたら、すごく興味深そうに考え出すタイプです。実は王座戦第3局の後がそうでした。終わって疲れているだろうに、同門の棋士の将棋を聞いて、興味深そうに検討し始めました。将棋に関することだったら、どんなことでも興味をもつタイプで、本当に将棋少年だなと思いました」

(Q.永瀬九段ともつながりがあるということですが、どういう関係ですか)

杉本八段:「直接というよりは、藤井八冠と永瀬九段は研究会仲間で、永瀬九段がよく名古屋まで足を運んでくれて、藤井八冠と研究会を行っていたので、私も横で見ていることが多くありました。一緒に将棋を指して、感想戦で検討、それぞれの本番に役立てるための研究です。これが本当に長く続いていて、藤井八冠が14歳の時から続いているので、7年くらいになります」

(Q.研究会は何時間も行ったりしますか)

杉本八段:「永瀬九段は将棋に対して本当にストイックな方で、その辺りは藤井八冠とも似ていて、気が合うのだろうなと思います。対局では、2人とも公式戦のように集中して、一言も言葉を交わさない真剣勝負を行います。でも、感想戦では1時間でも2時間でも笑顔を絶やさず、ずっと将棋の会話をして、追及している2人です」

(Q.八冠を獲得した後、維持するのはこれまで以上に大変だと思いますが、どうみていますか)

杉本八段:「防衛はやはり大変ですし、将棋のタイトル戦は1年を通じてあるので、どの時期にもタイトル戦がある状態になります。そのため、まず体力的に大変というのがあります。ただ、ここまでタイトルに挑戦すれば必ず取るし、防衛戦も無敗です。
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