【報ステ解説】「兵器以外に“労働力”も」プーチン氏自ら歓待“厚遇”の狙い(2023年9月13日)
北朝鮮の金正恩総書記とロシアのプーチン大統領による首脳会談が行われました。
◆東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠さんに聞きます。
(Q.4年半ぶり2回目の首脳会談ですが、前回と比べて印象はどうでしたか)
今回は、プーチン大統領が厚遇しているという印象を受けました。前回、金総書記は、東方経済フォーラムに来たのですが、丸々1日、待たされて、会談の会場に入っていくときに裏口から入れられました。あからさまにプーチン大統領は、格下に扱っていました。今回は、一緒について回り、ロケット基地を見せたりと。今回、北朝鮮側は車を持ってきたそうだが、ロシアの高級国産車に乗り換えさせたり、全体的に厚遇しつつ、同時に工業力を見せつけているという感じがしました。
今回、現場に着いた金総書記をプーチン大統領自らが出迎えました。会談の前に訪れた宇宙基地にも同行し、ロシアの宇宙船『ソユーズ』の発射台、ロシアが開発中の純国産ロケット『アンガラ』などを視察。プーチン大統領は、北朝鮮に人工衛星開発を支援するかと問われると「我々は、そのためにここに来た」と支援を表明しました。さらに、プーチン大統領は、軍事技術面での協力について、「確かに国連安保理決議の制約はある。ロシアはルールを完全に順守するが、我々が議論・検討できることはある。そこには展望が開けている」とコメントしました。
(Q.ロシアの北朝に対する厚遇。どういう理由があるのでしょうか)
ウクライナとの戦争がうまくいってないからだと思います。特にロシア側が困っているのは、武器が足りなくなってきていること。そこで北朝鮮に供給源として期待しているという気がします。
(Q.北朝鮮が持っている武器というのは、旧ソ連製ですが、これが役に立つのでしょうか)
古いから役に立たないということは決してないと思います。いま、ロシア軍は、『T55』という50年代の古い戦車を倉庫から引っ張り出してきて、前線に投入しています。『レオパルト』とは殴り合えないかもしれませんが、火力支援などには使えると。それに比べると、北朝鮮の戦車は、ソ連製を元に国産化していますので、もう少し新しいものを持っている。それでもいいから、欲しいのかもしれません。また、武器供与は、アメリカが去年9月から言っている話ですが、このときは“弾”だと言いました。大砲の弾であったり、ロケット砲の弾。これであれば、口径は、旧ソ連規格で合いますので、そういうものを期待しているという部分があるのではないかと思います。元々、北朝鮮は、韓国との全面戦争に備えていますので、正確にはわかりませんが、弾の在庫は、相当、持っていると思います。それを出してもらえるのではないかという話だと思います。
(Q.武器以外にも求める支援はありますか)
すでに観測があがっているが“労働力”ではないかと思います。戦争が始まってから、ロシア側は相当数を戦場に送っています。「あんまり軍需産業から動員しないでくれ」と言ったり、徴兵を恐れて優秀な労働者が逃げてしまったりしていますので、ある程度、北朝鮮労働者で補いたいという思惑があるのではないかと思います。国連の決議で、北朝鮮労働者は受け入れてはいけないのですが、労働力は足りないし、北朝鮮労働者は勤勉で優秀という評判ですので、それが議題になる可能性があります。
(Q.安保理決議違反になりますよね。常任理事国であるロシアが、なりふり構わずやることはどうなのでしょうか)
言語道断だと思います。2006年と2009年に北朝鮮に対して武器禁輸決議が出ています。これをロシアは2007年と2010年に国内法で定めています。2009年の国連決議のほうは、基本的にあらゆる武器の取引をしてはいけない、経済取引もダメだし、アドバイスもダメと全面的に禁止しています。プーチン大統領はいろいろなことを言いましたが、どう考えても言い逃れる余地はないのですが、何とか言い訳を考えて、出せる軍事技術とか武器を出して、どうにか弾を手に入れるということを考えているでしょうが、実際にどこまでできるのか。どういうことができるのかが注目だと思います。
一方、北朝鮮が求めるものとして挙げているのが「衛星技術」で、13日、宇宙基地も視察しています。なぜ、北朝鮮は宇宙・衛星技術なのか?カギとなるのが、北朝鮮が掲げる『5カ年計画』です。
その中には、
●核兵器の小型・軽量化
●戦術核兵器
●超大型核弾頭
●極超音速滑空飛行弾頭
●固体燃料推進式ICBM
●無人偵察機の開発
●原子力潜水艦・軍事偵察衛星の保有
などが含まれています。
(Q.今回、北朝鮮が求めたものは“5カ年計画”に関連してきているということでしょうか)
事前の韓国側の報道によると、原子力潜水艦・軍事偵察衛星の技術といわれています。プーチン大統領は「衛星の協力はする」と言っていますので、軍事偵察衛星関連の、何らかの技術は供与するでしょう。今回、北朝鮮側は海軍司令官を帯同しています。これからハバロフスク州の第二の都市を訪れるといわれている。ここには、ソ連時代、原子力潜水艦をつくっていた造船所がありました。今は、原子力は作っていないが、幅広い技術を見せるだけで見せて、どれを出すのかという話をこれからするのだと思います。
(Q.北朝鮮は“核の小型化”も進めようとしていますが、技術が供与されるという心配がありますが、そこはどうでしょうか)
それをどこまで出すかというのは、プーチン大統領の政治判断でわかりませんが、北朝鮮にしてみれば、核の技術、原子力潜水艦の技術は欲しいはずです。ロシアの戦争によって、結果的に、ロシアから先端的な技術が流れてしまって、回りまわって、日本の安全保障とか朝鮮半島の安全保障にも及んできてしまう可能性が、戦争から1年半、とうとう現実化してきてしまったと思います。
(Q.ロシアにとっても重要な技術・情報を北朝鮮に渡すと考えますか)
ソ連時代は出していませんでした。核の技術も弾道ミサイル技術も出していなかった。「何でも出しますよ」とは言いませんが、「数百万発の弾、労働者をください」と言ったら、当然、北朝鮮も条件を出してくるでしょう。今回、16日ぐらいまで金総書記がいるという話なので、首脳レベルでも実務レベルでも、激しい駆け引きをするのではないかと予想しています。
(Q.中国はロシアと北朝鮮との親密な関係を警戒しますか)
中国の専門家ではないのですが、いまのところ、中露間でしこりになるという感じはしていません。そもそもロシアは、北朝鮮以上に中国を怒らせたくないと思いますし、ロシアが中国に期待しているものは、お金と先端技術。北朝鮮に対してはローテク兵器と労働力。期待しているものがバッティングしないので、この2つの関係は恐らく共存できると、少なくともロシアは考えていると思います。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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