【解説】ゼレンスキー大統領の広島「電撃訪問」成果は?『知りたいッ!』
ウクライナのゼレンスキー大統領が、広島への電撃訪問を果たしました。30時間の滞在で、どのような成果を得たのでしょうか。
●電撃訪問に手応え
●広島で平和の訴え
●注目はインド・モディ首相
以上のポイントを中心に詳しく解説します。
■「世界の多数派と理解をともに」 ゼレンスキー大統領の広島“約30時間”で何をした?
日本時間22日未明、ゼレンスキー大統領がビデオメッセージをSNSに投稿し、その中で「非常に重要な週を終えようとしている。ウクライナにとって大切な点ひとつひとつについて、世界の多数派と理解をともにしている」と述べました。21日夜、広島を発ったその機内でこのビデオメッセージを投稿したそうです。
「世界の多数派と理解をともにしている」といった言葉で、今回のサミット出席の手応えがあったということを発信したわけです。
ゼレンスキー大統領が広島でどのように過ごしたのか、振り返ります。20日午後3時半ごろに広島空港に到着し、帰国の途についたのは21日午後9時半ごろということなので、滞在時間は約30時間です。
到着してすぐサミット会場のホテルでイタリア、イギリス、フランス、ドイツ、インドの首脳と会談しました。翌日には、カナダの首相、インドネシアの大統領と会談。その後、G7のセッションに参加し、午後には韓国の尹大統領、アメリカのバイデン大統領と会談しました。
平和記念資料館の視察や慰霊碑への献花を行いました。岸田首相との会談を終えると記者会見を行い、21日夜には帰国の途につきました。
■来日の目的は果たせた? インドとの会談は「ゼロからの重要な一歩」
ゼレンスキー大統領が日本に来た一番の目的とは、何でしょうか。
21日夜の記者会見では、その点について「我々の街は原爆資料館で見た廃虚にそっくりだ。私が広島にいるのは、ウクライナから世界へ団結を呼びかけるためだ」と語りました。
そして、平和記念資料館で記帳した内容が「世界中のどの国も、このような苦痛と破壊を経験することがあってはいけない。現代の世界に核による脅しの居場所はない」というものです。ロシアから核の脅しを受ける中、被爆地の広島から国際社会に向けて平和の実現を訴えたわけです。
今回の来日は、ゼレンスキー大統領の強い希望があって実現したということでしたが、「成果はあった」と言えます。
ゼレンスキー大統領のスケジュールの中で注目されたのが、インドのモディ首相との会談と、アメリカのバイデン大統領との会談です。
インドは新興・途上国「グローバルサウス」と言われる国々の代表格で、ロシアに対しては中立の立場を維持しています。ウクライナ情勢に詳しい慶応義塾大学の廣瀬陽子教授によると、インドはロシアがウクライナに侵攻した後も、ロシアとの貿易を活発化させていて、いわばロシア経済を支えているといいます。ひいては戦闘を継続できる「継戦能力を高めている」と分析しています。
ゼレンスキー大統領としては、“ロシア寄り”ともとれるインドの態度をできるだけウクライナ寄りに変えて、ロシアを孤立させたいという狙いがあったわけです。
今回の会談では、ゼレンスキー大統領はモディ首相に対して、地雷の除去などウクライナへの支援の必要性について説明しました。一方のインドメディアによると、モディ首相は「ウクライナ問題は全世界に影響を与える大きな問題だ」と指摘したほか、「ウクライナの市民が感じている痛みを理解している」と語ったということです。
ウクライナに寄り添った発言もありましたが、どのようにみたらいいのでしょうか。
廣瀬教授は「『この戦争は人道上の問題であって、政治や経済の問題ではない、インドがロシアとの取引を止めても意味はない』と暗に言っているようにも思える」と分析しています。そして、残念ながら「今回の会談で、インドが態度を変える可能性は極めて低い」とみています。
ただ、一方で直接会談をした意味が全く無かったということではありません。廣瀬教授は「ゼロからの重要な一歩という評価はできる」と指摘しました。外交的には前進し、一定のインパクトを残すことはできたというわけです。
■ブラジル・ルラ大統領との会談は実現せず…
ロシア寄りの国というのは、インドだけではありません。サミットの拡大会合に参加していたブラジルも、そうした国の1つです。
ゼレンスキー大統領は今回、ルラ大統領とも会談を行う予定でしたが、実現しなかったということです。その理由について22日、広島でルラ大統領が会見を行い「ゼレンスキー大統領と約束をしていたが、予定時間に現れなかった」とした上で、ウクライナ問題については「G7ではなく国連で話し合うべき」と述べました。
実際、両国の間でどのような事情があったのかはわかっていませんが、少なくともG7各国とブラジルは立場が違う、足並みの乱れを感じさせる発言といえます。
■大きな成果「戦闘機F16の供与認める」 戦況に大きく影響与える可能性
もう1つの注目ポイントは、アメリカのバイデン大統領との会談です。
アメリカ製の戦闘機F16について、同盟国からウクライナが供与を受けることを認めてもらったということです。そして、バイデン大統領からは、ウクライナ軍のパイロットへの訓練を支援するという考えが示されました。
これはゼレンスキー大統領にとって大きな成果です。
F16の供与はゼレンスキー大統領がかねて強く求めていましたが、これまでアメリカは慎重な姿勢でした。ところが今回、一転して容認する姿勢に転じたわけです。F16が投入されれば、今後の戦況に大きく影響を与える可能性があります。
(2023年5月22日放送「news every.」より)
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