【解説】本当は怖い「レジオネラ症」 “ヌメヌメ”に注意

【解説】本当は怖い「レジオネラ症」 “ヌメヌメ”に注意

【解説】本当は怖い「レジオネラ症」 “ヌメヌメ”に注意

福岡県の老舗温泉旅館で、基準値の3700倍もの「レジオネラ属菌」が検出され、社長が謝罪会見を行いました。この菌による「レジオネラ症」は毎年、死亡例も出ている“本当は怖い病気”です。

●社長の「甘い認識」
●家の加湿器にも潜む
●死亡も…防ぐには?

以上のポイントを中心に詳しく解説します。

■基準値3700倍 老舗旅館社長の“甘い認識”
基準値の実に3700倍に上る「レジオネラ属菌」が検出されたのは、創業150年以上の歴史がある福岡・筑紫野市の「大丸別荘」です。

レジオネラ属菌がこれほど増殖してしまった大きな原因として、社長があげたのが「お湯の交換」と「塩素の濃度」です。福岡県では温泉のお湯を「週1回以上、入れ替える」ことが義務づけられていましたが、大丸別荘では、年に2回しか交換していませんでした。また「塩素の濃度」も一定以上に保つことが義務づけられていますが、これも怠っていたのです。

その理由について、大丸別荘の社長が先月28日の会見で述べました。

大丸別荘 山田真社長
「このような事態に至ったのは、代表者としての私自身の法律に対する認識が甘く、大浴場は温泉掛け流しなので、『かなりお湯が入れ替わっているから大丈夫』と考えておりました。また、塩素を注入しなかったのは、塩素のにおいが自分の体質に合わず、嫌いだったという身勝手な理由でございました。皆様の健康を全く顧みない悪行であったということをつくづく知らされ、かつ反省させられました。レジオネラは、たいした菌じゃないというような先入観がありましたので、その辺の池でも、水たまりでも、その辺にいくらでもいるというふうに私の知識ではなっていた」

■「たいした菌じゃない」は誤り 毎年50~80人以上が死亡
こうした指示が社長自身によって行われていたというのは許されないことですが、社長の会見からはレジオネラ属菌に関する“教訓”も読み取ることができます。

例えば、レジオネラ属菌は「その辺の池でも、水たまりでも、その辺にいくらでもいる」との発言自体は間違っていません。厚生労働省によると、レジオネラ属菌は土の中や河川など自然界に広く生息している細菌です。

ただし、続く「レジオネラは、たいした菌じゃない」という発言は、大きな間違いです。レジオネラ属菌に感染したことで発症する「レジオネラ症」は最悪の場合、死亡することもある怖い病気です。

例えば、2002年に宮崎県の温泉施設で295人の利用者が発症した集団感染の事例があります。この時は、お湯から基準値の15万倍のレジオネラ属菌が検出され、最終的に62歳から82歳の7人の男女が亡くなりました。

また、国の統計では毎年、50人から80人以上がこのレジオネラ症で亡くなっていて、決して侮ることのできない病気です。

【レジオネラ症の死者(人口動態調査より) 2017年:53人 2018年:52人 2019年:70人 2020年:75人 2021年:82人】

■増殖した菌を肺に吸い込み感染 “大酒飲み”・喫煙者などは「高リスク」
レジオネラ属菌への感染は、増殖した菌を肺に吸い込んでしまうことで起こります。菌を含んだ水蒸気や湯煙など「エアロゾル」と呼ばれる細かい霧やしぶきから感染してしまうこともあります。

感染すると、軽症の場合は熱や悪寒、筋肉痛などの症状がみられ、数日で治ることが多いということです。ただ、重症の「レジオネラ肺炎」を発症してしまうと、高熱や呼吸困難、意識レベルの低下も見られ、これが急激に悪化すると死に至ることもあるといいます。

リスクが高いとされているのは、高齢者や新生児、入院患者などに加え、飲酒量が多い人、喫煙者です。

■“ヌメヌメ”に注意 家庭で特に気をつけたい「2か所」
レジオネラ属菌は、どこに潜んでいるのでしょうか。

ここでまた、大丸別荘社長の発言の誤りを確認したいです。「温泉掛け流しなので、『かなりお湯が入れ替わっているから大丈夫』と考えていた」という認識は、間違いです。

レジオネラ属菌が潜んでいるのは、“ヌメヌメ”です。生物膜「バイオフィルム」と言い、温かいお湯、お風呂をしばらく洗っていないなどすると発生します。レジオネラ属菌は、これが大好きです。

20~45℃の浴槽や、ろ過装置、温泉を通す配管などの“ヌメヌメ”で増殖しやすいので、お湯をただ入れ替えるだけではダメで、きちんと洗浄・消毒をする必要があります。

レジオネラ属菌対策を専門に清掃などを手がける「レジオテック」に取材したところ、家庭で特に気をつけてほしい場所が「2か所」あるということです。

(1)お風呂

特に最近、節電や節ガスで残ったお湯を何度か「追い炊き」している人は要注意です。人間のアカなどが浴槽にたまり、それが菌のエサになるといいます。最大の予防は「毎日、お湯を入れ替える」ことで、最低でも「数日に1度は入れ替え」て洗浄することが重要です。

また配管も、半年に1回程度を目安に消毒剤や除菌剤でキレイにすることがおすすめです。

(2)加湿器

「加湿器」もこの季節もまだまだ活躍しており、もう1つの要注意ポイントです。特に、菌が発生しやすいのは「超音波式」と呼ばれるタイプで、水を加熱しないために“ヌメヌメ”が生じやすい構造になっています。そこから水蒸気が出るので、不衛生にしていると危険です。

特にタンクや受け皿など水の通り道が“ヌメヌメ”し始めたら、「黄色信号」だといいます。家庭用の洗剤などで1度洗ってから乾燥させることが、レジオネラ属菌の増殖を防ぐということです。

    ◇

今回、大丸別荘は社長の“甘い認識”でレジオネラ属菌を増殖させてしまいましたが、毎年、死亡者も出る怖い細菌だと知って、私たちも予防に努めたいところです。
(2023年3月1日放送「news every.」より)

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