豪雪地の救世主“女性移動販売人” 「買い物弱者にさせない」信念の裏に…特別な思い【Jの追跡】(2023年2月17日)

豪雪地の救世主“女性移動販売人” 「買い物弱者にさせない」信念の裏に…特別な思い【Jの追跡】(2023年2月17日)

豪雪地の救世主“女性移動販売人” 「買い物弱者にさせない」信念の裏に…特別な思い【Jの追跡】(2023年2月17日)

日本有数の豪雪地・福島県只見町。買い物弱者である住民の暮らしを支えるため、奮闘する女性移動販売人。過酷な冬、移動販売人には様々な障害がありました。それでも、「住民を買い物弱者にはさせない」という強い信念の裏には、特別な思いがありました。

■移動販売を始めて2年「見て買ってもらいたい」

舞台は只見町。4カ月前、全国から注目を集めたローカル鉄道が走る町です。

11年前、豪雨により甚大な被害を受けたJR只見線が去年10月、全線で運転を再開。全国から多くの人が押し寄せ、にぎわいを見せていました。

そんな、只見町はこの時期、一面が雪に覆われた銀世界に…。実は、全国でも有数の豪雪地帯なのです。

町の住民は、4000人足らず、およそ半数を65歳以上の高齢者が占める、過疎の町です。

住民:「(雪で)トタンが弾けちゃって。空き家も結構あって、年寄りばっかりで。特に山間部はすごい高齢化が進んでいる」

そんなこの町には、高齢者たちに愛される“救世主”がいます。 

雪国の買い物弱者を支える移動販売。この町で育った角田玲さん(48)が切り盛りしています。

常連客(76):「こっちにはなくてはならない人。年寄りの所、来てくれるんだもん。ありがたいわ」

生鮮品や日用雑貨など、商品はおよそ300種類。公共交通機関がないエリアを中心に回っています。

玲さんは、移動販売を始めて2年足らずですが…。

客:「あとアレあっかえ?アノなんだっけ…やだ出てこねぇ」
玲さん:「ふりかけ?」
客:「まんま…」
玲さん:「お茶漬け?」
客:「お茶漬け」
玲さん:「はい!出てきた~」

欲しい物はお見通し!お客さんとの距離が近いのです。

玲さん:「卵入っているから気を付けて」
客:「大丈夫だ」
玲さん:「よく結んどくは結んどくけど。気を付けてねっていうか、オレ持ってく」

お客さんを気遣い当たり前のように届ける玲さん。

常連客(92):「よくやってくれる、優しく。楽しみ、週に1回来るの」

玲さん:「年配の人たちが移動手段がだんだん減っているのは分かってた。やっぱり移動販売。見て買ってもらいたい。品物を見て選んで買ってもらいたいっていう、そういう気持ちもあった」

■不便解消だけでなく…“交流の輪”作りも

玲さんの販売エリアには、スーパーが1軒もありません。日常の買い物のほぼすべてを、玲さんに頼らざるを得ない高齢者は少なくないといいます。

飯塚孝子さん(80)。夫の恒夫さん(88)と二人暮らしです。

冬場は買い物に出られないため、食卓に並ぶのは、夏場に自分たちで育てた野菜の漬物など、保存食がメインだといいます。

孝子さん:「まあしょうがねーなーって、我慢するしかなかった。(今は)もう1週間に1回来てもらえると思うと。大体1週間分買うと、また玲ちゃん来てくれるって思うから」

週に一度、玲さんが届けてくれる新鮮な生鮮食品や果物を買うのが、何よりの楽しみだといいます。

孝子さん:「これハッサクか?」
玲さん:「それハッサクと甘夏」
孝子さん:「甘夏1つもらうか」
玲さん:「はーい」

さらに、買い物の不便さを解消しただけではありません。

自宅に閉じこもりがちだった高齢者が、移動販売をきっかけに交流の輪が生まれたのです。

常連客(75):「楽しくなかったら集まらないよな」
常連客(70):「一人でうつうつといるよりも、ギャハハって。ストレス発散だよな」

■「収支はトントン」 雪国の事情で値上げできず

10年に一度と言われた強烈な寒波も相次ぐなか、移動販売人の雪国ならではの過酷さとは…?

玲さん:「ホントおっかなくて(速度を)出せない…。ずーっとこういう状態」

商品を仕入れる市場までは、片道およそ90キロ。路面が凍結する冬場は、倍近い時間がかかるため、出発は早朝です。

移動だけで、往復5時間がかり。安くて新鮮な食材を手に入れるには欠かせないといいます。

仕入れ先:「彼女よく撮ってあげて下さい。頑張っているから」

そして、何をするにも、とにかく雪との闘いです。

玲さん:「しょうがないよ、積もっていれば片付けとかないと」

いくら雪かきしても、1時間も経てば…この通り。瞬く間に降り積もってしまう雪。

常連客(86):「オレ歩くっぺと思う所(雪を)退けといてくれたり、ありがてえやわ」

お客さんの家から移動販売の売り場まで移動する度に、雪かきに追われることも…。さらに、あまりの寒さに、商品の変色や凍ってしまうこともあります。

玲さん:「見て、バナナも色変わっちゃって」「(Q.寒くてってことですよね?)寒くて真っ黒になっちゃった。やばいよね、売れないなコレ」

玲さん:「移動販売をやっていると、ロスが絶対出てくる。それはマイナスだから…」

移動販売の経営は、決して楽だとは言えません。

玲さん:「いろんなモノも高くなっているし…燃料代も上がっているワケだから。もう今は(収支は)トントン」

それでも、常連客たちの雪国ならではの事情を考えると、この時期、商品の値上げに踏み切れないといいます。

孝子さん:「ご飯もあれだよ、電気釜でやっていたけど、電気代高くなったから釜。電気も大事に使わなくちゃって」

地元では、屋根や玄関前の雪を溶かすための装置を動かすため、冬場は電気代が跳ね上がる家庭が多く、年金暮らしの常連客の生活を思うと、値上げはできないといいます。

■家族のような支え合い「皆お母さんみたいな感じ」

玲さんが移動販売を始めたワケ。それは3年前、家族で経営していた、この地域唯一のスーパーを閉じたことにありました。

玲さん:「もう負い目だらけ。必要とされてるって、いつも思っていたから。だから本当に辞める時の決断っていうのは、すごく迷った…」

経営状況の悪化から、やむなく閉店を決断。地元の施設向けに販売を続けていましたが、買い物弱者にしてしまった常連客への申し訳ない思いが、日に日に募っていったといいます。

そこで玲さんは、閉店からおよそ1年半後、移動販売をスタートさせたのです。

只見町に熱意を伝え、高齢者の生活を支援する事業として、車を借りることができたのです。

母・高子さんと二人三脚で、かつての常連客の元を回ることができました。

玲さん(当時46):「閉める時にも言われていたんですけども、『本当になくなると困る』って。だから、やっとちょっと恩返しができたかなと」

一度は買い物弱者にしてしまった住民たちに、二度と不便な思いをさせたくない。そんな玲さんの思いに、住民たちも応えてくれているといいます。

常連客(80):「玲ちゃん持ってくるようなのは、市街地に行っても買わない。玲ちゃん支援したいから」

常連客(75):「無理して体壊さないで、頑張ればいいなーって。娘のような感じ」

去年8月、一緒に移動販売を回っていた、母・たか子さんが、がんで他界。大きなショックから立ち直れたのも常連客の支えがあったからだといいます。

玲さん:「もうお客さんとも泣きながらやっていた。皆、お母さんみたいな感じ。いっぱいお母さんがいる感じ。私にとって欠かせない人ばかり、もうただただ優しいなって、感謝の気持ちでいっぱい」

凍えるような寒さの豪雪地帯に、温かな家族のような支え合い。玲さんの奮闘は、きょうも続きます。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>

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