【解説委員が読み解く】日銀総裁候補・植田和男氏「所信聴取」

【解説委員が読み解く】日銀総裁候補・植田和男氏「所信聴取」

【解説委員が読み解く】日銀総裁候補・植田和男氏「所信聴取」

政府が提示した日本銀行の次の正副総裁候補に対して、国会で所信聴取が行われました。総裁候補・植田和男氏の国会での発言について、経済部の宮島解説委員に聞きます。

――次の日銀総裁候補は、共立女子大学教授で日銀の元審議委員の植田和男氏です。国会でのやりとりはどうだったでしょうか?

植田さんは午前中に3時間近く国会議員の質問をうけたわけですが、非常に落ち着いて、安定した答弁をしていたという印象でした。基本的に、今の金融緩和路線を継承すると姿勢を示していまして、これは投資家や関係者も予想していた内容でした。きちんとひとつひとつの質問に答え、海外の評価もよかったようだと聞いています。

――次の総裁は黒田総裁の10年の異次元の緩和策に副作用もでている中、今後、どうしていくのかという大きな課題を背負います。これについてどう話していましたか?

まず、「物価目標の表現」について。これは、目標の2%に安定的に達するにはまだ時間がかかるとして「当面変える必要はない」と言いました。

また、このところ話題になっている、政府と日銀が政策の方向性を共有している共同声明についても、「直ちに見直す必要があるとは思わない」と述べました。

ただ、今はまだ黒田総裁の日銀であり、来月もそのもとで金融政策決定会合もありますので、今の政策を支持する方向で配慮した面もあるかもしれません。企業にとっても3月は期末ですし、企業の業績や政権運営にも影響しないよう、配慮した発言をしていたと思います。

――市場の反応はどうだったでしょうか? 私たちの生活にはどんな影響があるでしょうか?

まず、植田さんの発言で、市場が急に変動するということはなかったです。今の政策の継続ということで、発言をうけた時間では、為替は円安に、長期金利は下がる方向になり、24日の株価は上がっています。この状況ですと、すぐに私たちの生活が大きく変わる、ということはないと思います。

ただ、植田さんは、物価がしっかり安定的に2%目標に行くと見込まれれば、タイミングをみながら金融政策の正常化に踏み出す、行かないなら副作用に手をうちながら金融緩和を続ける、というように話しました。

先行きは正常化にむけて住宅ローン金利は上がっていくでしょうし、物価は、急激な円安がおさまれば輸入物価の上昇による値上がりの分は少しおさまっていく、とみられます。ただ、物価への影響は為替だけではないですし、日銀としても慎重にみていくと思います。

――黒田総裁のこの10年の政策で問題となっている点について、議員からはいろいろな質問がでていました。これに対してはどうでしたか?

今回、投資家は、今の金融政策の長短金利操作(=イールドカーブコントロール)をどうするかの発言も注目していましたが、これは「発言すると影響が大きい」ということで、この先の選択肢についても発言を避けました。

議員が「金融緩和が財政規律を損なっているのではないか、日銀が国の借金を引き受ける財政ファイナンスになっているのではないか」という質問に対しては、植田さんは国のお金の調達支援が目標ではないことをはっきりと言いました。

それから、以前、黒田総裁が「国民の感覚をわかっていないのではないか」などと批判される局面があったのですが、植田さんは答弁の最後の方で「毎日、コンビニの弁当を食べているが、450円だったものが500円を超えるようになった」といったような、生活実感をにじませる発言もありました。

――新総裁は、コミュニケーション能力が大事とされています。これはどうでしたか?

植田さん自身が「わかりやすく発信することが重要」と話していて、24日は政府から見ても、市場から見ても、海外から見ても、誠実にわかりやすく説明しようとしているとみられたと思います。

黒田総裁の時はサプライズも結構あったのですが、植田さんは、政策運営は時と場合によってはサプライズを避けられないが、平時から説明することでサプライズはできるだけ避けたい、ということでした。「政策の背後の考え方を丁寧に発信したい」と言っています。

――国会で承認されれば4月から総裁として金融政策をリードします。課題はどんなところでしょうか?

24日は経済学者らしくきっちりと説明した植田さんですが、実際の政策は政権や国際情勢などいろいろな要素で動くので、そこでの調整が必要になってきます。これを、2人の副総裁が支えていくことになります。

投資家の中には、この4月にも金融政策の正常化に向かって動くのではないかという想定もありましたが、24日の発言を聞く限りでは、それよりは慎重かなという印象です。

午後は副総裁候補の聴取が行われていて、この後、来週以降も正副総裁の国会承認のプロセスがあり、承認されれば3人は、近く日銀の新体制をスタートさせることになります。
(2023年2月24日放送)

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