【解説】牛乳高騰も“大量廃棄” 打開のカギは「国産チーズ」?

【解説】牛乳高騰も“大量廃棄” 打開のカギは「国産チーズ」?

【解説】牛乳高騰も“大量廃棄” 打開のカギは「国産チーズ」?

私たちの食卓に欠かせない牛乳。今、酪農家は大量に廃棄する事態に陥っています。

●値上がりの背景に“苦境”
●子牛が“1000円”
●カギは国産チーズ

以上のポイントを中心に詳しく解説します。

■牛乳“値上げ”背景に酪農家の苦境 「生産抑制」大量廃棄の現実
様々なものの値上げが続く中、牛乳の値上がりも実感するようになってきました。

総務省による小売物価統計調査で、この4年間の東京23区での牛乳1リットルあたりの価格を見ると、コロナ禍前の2019年1月には「207円」で、去年中ごろまでは横ばい状態でした。その後、えさ代の高騰などが続き、今年1月には「235円」と急激な値上がりをしました。

牛乳だけではなく、一時不足したバターも含め、乳製品が値上がりしています。

◆乳製品価格(総務省・小売物価統計調査 東京23区) 2019年1月→ 今年1月
チーズ(国産100g)   192円 → 237円
ヨーグルト(1個400g) 159円 → 170円
バター(1個200g)   436円 → 438円

このような値上がりの背景には、日本の酪農家が苦境に立たされている現状があります。乳牛約900頭を飼育する北海道新得町の大規模農場「友夢牧場」を取材しました。友夢牧場では、搾りたての生乳を廃棄せざるを得ない状況が続いています。

友夢牧場 植田昌仁さん
「せっかく搾って、本来なら出荷したらお金になるものを、(生産)抑制に合わせて廃棄するのは、なんとも言い表せない。悔しい(思い)」

友夢牧場では、新型コロナウイルス感染拡大の影響などで牛乳の需要が伴わないことから、農協から生産を抑制するよう求められていて、今では毎日2~3トンを廃棄しているといいます。

友夢牧場 植田昌仁さん
「えさ代とかいろんな資材が高騰している中で、収入源である牛乳が生産抑制で思うだけ搾れない。経営が非常に危機的な状況です」

牛は搾乳を始めると毎日続けないと病気にかかる場合もあり、簡単には生産を減らせないといいます。

■牛乳“減産”の上「子牛も売れない」 “1頭1000円”に…
さらに牛乳以外の収入源にも問題が出ているといいます。

友夢牧場の経営は、収入の9割が牛乳、残りの1割が子牛を売ることで成り立っているそうです。植田さんは「牛乳の生産量を減らさないといけない上に、子牛も売れない。そのため、収入を増やすことがどうしてもできない」と話し、八方ふさがりの状況だということです。

乳牛は出産したら乳が出るようになるため、子牛を産まないといけません。メスが生まれたら乳牛用に育てて、オスだと肉牛用に売ることになります。

そのオスの子牛の価格は、全国的に見ても下落しています。去年夏までは10万円前後で取引されていましたが、それ以降はえさ代の高騰などで農家が買い控えするようになりました。友夢牧場でもオスの子牛が売れなくなり、去年9月には1頭1000円まで価格が下がったということです。

■9年前の「バター不足」で乳牛増やす対策も コロナ禍で需要が減り…
なぜ牛乳の「生産抑制」を呼びかけているのか、JA北海道に聞きました。そもそも牛乳の需要が減っていることがある上、さらに新型コロナ感染拡大の影響で外食や給食での需要が減少したことがあるといいます。現在も、バターなどの加工品は、期待したほど需要が戻らなかったということです。

“生乳余り”については、9年前の「バター不足」にまでさかのぼります。

2014年には、猛暑や酪農家の減少で生乳の生産量が減り、バターも品薄になりました。そこで農林水産省は、搾乳の機械への設備投資に補助金を出すなど「乳牛の頭数を増やす対策」をとってきました。その結果、生乳の生産量が大幅に増えたのです。

ところがその後、コロナ禍で需要が減ったため、余った生乳を捨てないといけない状況も出てきてしまいました。

国も現在、生乳の生産を減らすことを後押ししています。具体的には、来月から9月までの間、酪農家が乳牛を食肉用として出荷して、年間の生産量を一定量減らした場合には、1頭あたり15万円を助成するということです。例えば、年をとって乳の出が悪くなった、品質が下がったというような乳牛が念頭に置かれています。ただ、本来ならもっと乳を出せる牛が早めに死んでしまうことになるので、酪農家の心中は複雑です。

■打開のカギは「チーズ」? 輸入品の1割でも「国産」になれば…
余った生乳の活路はないのか、専門家に聞ききました。

農業経済が専門で、生乳の流通に詳しい北海道大学大学院の清水池義治准教授は「今、消費が伸びているのは『チーズ』。ただ、その約9割は輸入されたものなので、例えば、そのうちの1割ほどでも国産にすれば、“生乳余り”に対応できるのではないか」と指摘しています。

ただ、輸入品の方が安いというハードルがあります。それについて、清水池准教授は「政府から補助金などを出して、差額を埋める政策をすればいいのではないか」としています。具体的には「70億~80億円で、その差は埋まるのでは」といい、現実離れした金額ではないのではないかということです。

一方で、仮にこのような対策をとらず、日本の酪農を守れなくなると、どうなるのでしょうか。

清水池准教授によると、夏場を中心に牛乳が品薄になる恐れがあるといいます。牛乳は作りだめできないので、輸入は困難です。生産量は北海道が全国1位なので、夏場に台風や水害が発生すると供給に影響します。特に最近は九州での生産が縮小しているので、北海道から遠い西日本での影響が大きくなることを、清水池准教授は心配していました。

    ◇

酪農離れが進めば、長期的には牛乳価格がさらに上がることや、生クリームなど日持ちしない乳製品の価格上昇も懸念されるということです。いち早い機動的な対策が求められます。
(2023年2月16日放送「news every.」より)

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