JA共済めぐり…農協職員「ノルマで“自爆契約”」給料削り 借金も【調査報道】
JA共済という農協が販売する保険のようなもののノルマに農協職員が悲鳴を上げている。ノルマを達成するために自分や家族に必要のない共済をかける、いわゆる「自爆契約」を結ぶ職員たち。さらには各地でノルマを原因とした不祥事も。
■「完全なるノルマのための“自爆契約”」給料削り借金も
九州地方の農協に勤めるAさんは、この日ある共済への加入手続きを進めていた。
書類には「特定重度疾病共済契約」とある。がんや脳卒中など重い病気にかかった時に保障を受けられる保険のようなものだ。
しかし、保障対象は1歳と5歳の娘だという。あまり、必要のない契約のように思えるが…
――全く必要はない?ご自身の家族の将来設計を考えても?
九州地方の農協に勤めるAさん
「全く必要ありません」
掛け金は1年で約3万5000円だ。なぜ必要のない共済に加入するのだろうか…
Aさん
「一言で言うと、ノルマの達成のためです」
Aさんは勤務先の農協から、共済の販売ノルマを課せられている。共済の販売とは関係のない仕事をしているAさんにとって、そう簡単にはノルマを達成できないという。
そこで、自分や自分の家族を使って必要のない共済契約をしているのだ。ノルマ達成のための、いわゆる“自爆契約”だ。
Aさん
「私の場合だと…13の共済に加入しております。完全なるノルマのための自爆契約になります」
共済の営業マンをしている同僚のBさんは、さらに重いノルマを課せられている。
共済営業マンBさん
「ぶっちゃけた話でいうと、貯金は本当にないですね。むしろ(金を)借りたりをしていることもあります。カードローンとか」
通常の営業ではノルマを達成することができず、自爆契約に手を染めた。今やその掛け金は給料のおよそ約3割、年間120万円に上る。
Bさん
「自爆をしないと(農協に)いられなくなると思うんです。(ノルマを達成できないと上司から)給料泥棒みたいな言い方もされますし、そうした時は自分でかぶってお金を失うぐらいの方がまだいいなっていう、一種の洗脳じゃないんですけど、そんな感覚に陥っちゃってですね」
さらに、上司からは“自爆契約”を促されることもあるという…
Aさん
「役席者(上司)がですね、職員の契約書を作成して、職員を呼び出して加入を促すというようなやり方も実際あります」
過大なノルマの問題は、他の地域の農協職員からも聞こえてくる。CさんはJA兵庫西の共済営業マンだ。
JA兵庫西の共済営業マンCさん
「『職員の給料が払えない』『ボーナスが払えなくなるぞ』と、(上司から)言われています。なので、結局は職員のためというか、農協のためにノルマをなくせないというか」
これはCさんが勤めているJA兵庫西の“ノルマ表”だ。
職員全員にポイントが割り振られている。保障金額が高い契約ほど高いポイントが得られる仕組みだ。
共済に関係の無い仕事に就いている新人でも2000ポイントが課せられ、役職が高くなるほどノルマも高くなっている。
最もノルマが多い職員は共済専門の営業マンで約26万ポイントだ。3000万円の死亡保障契約の場合だと、年間で90件獲得しなければならない。
こうしたノルマがある中で、不可解な契約が結ばれているという証言もある。
■勝手に署名代筆…「誰かが装って書いている」 農協「お手を煩わせないように…」
都内在住の女性(39)
「怖かったんですよね。誰かが装って書いているということなので」
この女性は、JA南アルプス市と父親が結んだ共済契約の保障対象になっている。しかし、手続きは彼女の知らぬ間に行われていて、書類にはなぜか、女性の“署名”とされるものが書かれている。
自分の名前を書いてもらうと…ひらがなの【ぞ】の形が違う。後に、これは農協職員が勝手に代筆していたと判明した。
身長、体重、勤務先など、農協側に告知する項目もでたらめだ。父親は、この契約を結ぶことを了承していたが、それでも代筆は許されない。
農協職員に代筆された都内在住の女性(39)
「こんな署名が正式なものとして通用してしまったら、全然違う契約に変えられてしまっても、まかり通ってしまうと思うので、信用問題というか」
なぜ職員は、こうした不正な代筆契約を行ったのか?
JA南アルプス市に質問状を送ると…
JA南アルプス市の回答
「お手を煩わせないようにとの過度な配慮が起因となり、代筆が行われたものとなります」
と、女性に署名する手間を取らせないためだったと回答。
そして「過大なノルマが代筆契約に繋がっているのではないか」と問うと、「ご質問いただいたような事実はありません」と否定した。
■全国で続々と発覚 ノルマと“自爆契約”農水省が監督強化
だが、全国各地の農協ではノルマを原因とする様々な不祥事が起きている。
「JAおおいた」では、職員の横領などが発覚。調査した第三者委員会が「過大なノルマは不祥事の元凶である」と指摘した。
埼玉県の農協では、契約者の署名の代筆が発覚。第三者委員会が「自身の実績を上げたい」などの思いがあったことが原因だとしている。
こうした事態を受け国が動いた。
2022年12月7日、農林水産省は共済事業に関する監督指針の改正案を公表。
農林水産省経営局協同組織課 姫野崇範課長
「今回はもちろん問題意識がある」
指針に「不必要な共済契約」つまり“自爆契約”や“ノルマ”について初めて盛り込んだ。
姫野崇範課長
「過大なノルマというものがあって、それが不祥事の原因になっているという指摘があるので、そこに対していわゆる“自爆”と言われる自分自身にかける不必要な契約が発生しないようにすることを目的としている」
改正指針は1月中には施行される見込みだ。
では、共済事業の全国組織・JA共済連は職員へのノルマや自爆契約についてどう考えているのか…
JA共済連の回答
「上席者が職員に対して過度なプレッシャーを与えて不必要な共済加入を強いることは極めて不適切であり、監督指針の改定を待つまでもなく改善すべきと受け止めています」
■共済頼りの収益構造か ノルマの背景は?
山本恵里伽キャスター:
なぜ「自爆契約」までしなければいけないほどの「ノルマ」が課されているのか?
職員に話を聞くと、背景には、「農業に従事している農協の正組合員数」が減っていることが関係しているとの指摘があります。実際に、この20年間で100万人以上減少しています。こうしたこともあってか、農協の本業である農業関連の収益は赤字に陥っています。
一方で、黒字なのは「信用事業」、JAバンクと先ほどの共済事業です。ただし、JAバンクは近年の低金利で今後成長は見込めないということで“共済頼り”の状況になっていて、職員の方に多くのプレッシャーがかかっているのでは?ということなんです。
こうした状況がある中、2022年12月、農協出身の野村農水大臣は会見で「目標を達成できない職員ほど、そういうことを言い出すんですよ」と述べ、“自爆契約の原因が職員にある”ともとれる発言をしました。
こうした発言について職員に話を聞くと、「現場の実態を分かっていない」と憤っていました。
小川彩佳キャスター:
大臣の発言は追い詰められている職員をさらに追い込みかねないものですし、こうした発言がありますと、改善にはまだまだ時間がかかるのではと感じますね。
JA共済連や各農協には指針の改正案や、現場の声を真摯に受け止め、健全な働き方ができる環境を作っていただきたいと感じます。
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