【中国】最新兵器が続々登場… 映像から見る”台湾進攻”のシナリオ『“新常態”中国』#19
【中国軍の『重要軍事演習』~見えた台湾侵攻シナリオと思惑】
中国軍が今、台湾に侵攻するとしたらどういう手順で進めるか、それが垣間見えたのが中国軍は8月4日から始めたいわゆる「重要軍事演習」だった。中国側は7日間にわたる演習の様子として膨大な映像を公開。これを分析すると中国軍が現在、想定する台湾侵攻シナリオや、中国軍が宣伝したいポイント、そして演習自体がかなり前から周到に準備されていた形跡が浮かび上がった。
8月4日、演習初日とされた日に公開された映像では弾道ミサイルを搭載した車両が次々と移動。演習開始が宣言された1時間後の現地時間午後1時頃、「東風型」の短距離弾道ミサイルを発射一部は台湾上空を通過し台湾の東側の海域に落下した。そして弾道ミサイルの発射から1時間後の現地時間午後2時頃、陸軍の多連装ロケット砲の部隊が射撃を開始、打ち上がる様子は福建省の台湾に近い島でも目撃された。また最新ステルス戦闘機の「殲20」も出撃。国営メディアなどはこの機体が実戦的な演習に投入されるのは今回が初めてだと伝えた。台湾側は中国軍の主力戦闘機の殲16などの接近もあったと発表した。この他、最新の空中給油機「運油20」の姿も。空中給油機があれば武器の搭載量を増やせるほか飛行距離も大幅に伸びるため中国空軍が台湾の東側への攻撃や東からのアメリカ軍の接近を阻止する任務にあたる「遠征型空軍」となり台湾にとっても大きな脅威とされる。また映像には海軍のフリゲート艦が航行する様子も。この日、10隻以上の駆逐艦とフリゲート艦が台湾周辺に展開したという。「東部戦区の演習は複数のゾーンで多様な部隊が参加する統合作戦の訓練だ。」統合参謀部幹部はミサイルの部隊や陸海空軍が一斉に動く統合作戦訓練だと説明した。初日はミサイルなどで台湾本島に先制攻撃を仕掛けると共に航空機や艦船で台湾周辺の制空権や制海権をかけた戦闘に入ることを想定した訓練だったとまとめることができる。
8月5日、演習2日目とされた日に公開された映像は航空機の出撃の場面から始まる。台湾側によるとスホイ30戦闘機など過去最多49機の中国軍機がこの日、台湾海峡の中間線を越えたという。「空中から台湾の海岸線と中央山脈を見下ろすと使命感と名誉を感じた。」映像の中で中国軍のパイロットはこのように語っていて、映像には中国軍機が台湾に肉薄して飛行したことを強調した部分もあった。また、台湾周辺海域では10隻以上のフリゲート艦が展開し封じ込め作戦を行ったとしている。さらに中国沿岸の部隊も集結し洋上にいる艦船などの攻撃する訓練を行ったと説明している。2日目は航空機や艦船を投入し圧倒的な戦力で台湾側の制空権や制海権を奪取することに重点が置かれたとみられる。
8月6日、演習3日目とされた日に公開された映像は艦船が航行する場面から始まる。台湾の北方で活動していた中国軍の駆逐艦が警報と共に攻撃態勢に入り目標をロックオンした後、攻撃命令が下ったと説明されている。また台湾の東側で活動していたフリゲート艦も速度を上げ台湾に接近して戦闘を行う訓練をしたとしている。そして戦闘機が台湾に向けて出撃。早期警戒管制機や爆撃機も映像には含まれている。浙江省東部から出撃した航空機が海軍の部隊と連携して攻撃を行う訓練だったと説明している。また、ミサイルを搭載した車両も出動、対艦ミサイルで洋上の目標を攻撃する訓練を行ったという。このため3日目は台湾本当にごく近い海域まで迫り台湾側の海上戦力を制圧する訓練だったとみられる。
8月7日、4日目公開の映像では空中戦と地上への攻撃を両立する戦闘爆撃機が慌ただしく飛び立っていく場面から始まる。そして爆撃機も出撃。航続距離が長く巡航ミサイルなども搭載できる爆撃機だ。爆撃機や戦闘爆撃機はいくつかの編隊を組んで台湾に向かい、現地時間午前9時には目標の空域に到達。一斉に攻撃態勢に入ったとしている。国営メディアはこの日、台湾側の防空網の制圧やレーダーを妨害して無力化する電子戦を仕掛ける航空機も参加したと説明。つまりこの段階になって台湾本島の地上に対する大規模な攻撃に移行していることがわかる。
当初中国軍が宣言していた「重要軍事演習」の期間はここまで。とりあえずここまでの流れをまとめると、初日はミサイルなどで台湾全土に先制攻撃を仕掛けると共に台湾周辺の空や海での攻撃を開始。2日目は台湾周辺の制空権、制海権奪取を目指す攻撃を続行。3日目には台湾により近い海域に迫り海上戦力を撃滅。4日目には爆撃機が台湾本島の上空に進入し大規模な爆撃に入る、映像からはこのような流れが伺える。
西側の軍事専門家は「非常にオーソドックスな手順に沿った侵攻作戦」と分析している。ただ必ずしも4日間のいう数字には中国軍はこだわっていないとも言う。期間は4日間と決めているわけではなく決められた順番に沿って演習しただけ、つまり4日が8日になっても12日になっても応用できるように練られているという。いずれにしても、4日間に渡る演習で見せたステップで台湾本島をめぐる空と海の戦いで大勢を決し、この後は残る台湾側の戦力を殲滅することに重点が移っているという。
8月8日、演習5日目に公開された映像は中国軍の駆逐艦が台湾軍の潜水艦を発見したという知らせを受け現場海域に急行する様子から始まる。また同じく潜水艦を探し攻撃する能力を持つ対潜哨戒機も出動、艦船に搭載された対潜哨戒ヘリが飛び立つ様子も含まれている。対潜哨戒機からは潜水艦の位置を特定するためのソノブイを投下。対潜哨戒ヘリは海面すれすれに飛んで潜水艦を探す様子が。そしてこの後、空と海から潜水艦を一斉に攻撃する訓練が行われたと伝えている。水中に潜んでいた台湾側の残存戦力である潜水艦を掃討することがこの日の訓練のテーマだったと考えられる。
8月9日、6日目の訓練の映像は警報と共にパイロットたちが航空機に乗り込む映像から始まる。離陸後、編隊を組んでしばらく飛行すると台湾の海岸線らしきものがみえ海上には航行する中国軍の艦船も。この日は敵の妨害電波の影響を受けつつもレーダーで発見した視界の外にある台湾側の航空機にロックオンして撃墜する訓練が行われたと説明している。また、戦闘機が空中給油機から給油を受ける訓練も行われ、2機の戦闘機が空中給油機が空中給油訓練を行ったとしている。国営メディアは航空機が長時間上空に留まり攻撃を続けるためとしていて、この日は空中から長時間にわたって台湾軍の空中・地上戦力を掃討する訓練が続いたとみられます。
7日目の10日、中国軍やメディアは前日までの映像を資料映像的に公開しながら、この日も訓練が続いたと発表しているが詳細はわかっていない。この日をもって中国軍は演習の完了を宣言した。7日間の膨大な映像から見えてきた特徴が3つある。1つ目は非常に多くの種類の兵器、部隊、病院列車まで登場していることだ。国営テレビは今回の演習で画期的だった点として「人民解放軍の全ての兵科が参加したこと」を挙げた。そして西側の軍事の専門家もこの点こそが今回最も注目すべき点だという。「統合作戦能力」という種類が異なる軍や部隊が連携して作戦を行う能力を獲得することは実は非常に高度な技術だといいウクライナでロシア軍が苦戦しているのもこの能力が大きく欠けていたからだと言われる。今回の演習では中国軍がすでにそれをかなり向上させていることが見えた点で大きな脅威だと話す。中国側が大量の映像を公開する中で、すでにロシア軍のレベルは凌駕し西側の軍事先進国なみの統合作戦能力を獲得していると強調する狙いもあったのではと思われる。
2点目はアメリカ軍と戦うことに適した兵器が映像に登場していない点だ。アメリカ軍でも迎撃が難しいとされる極超音速ミサイルやアメリカの空母への攻撃も可能とされる「空母キラー」東風21Dがみられなかった。専門家は台湾本島をめぐり台湾軍と戦うことを想定した訓練ではあっても台湾を支援に来たアメリカ軍と正面から戦うことを想定した訓練にはなっていなかったと見ている。
3点目は今回の演習がその報道も含めてかなり前から準備されていた痕跡が見られる点だ。国営メディアが報じたアニメーションでは初日に発射した弾道ミサイルの台湾東側の海域への落下地点が示されている。ただ、実際に落ちた場所は違っており、日本の防衛省の発表では少なくとも2カ所、着弾地点が食い違っている。演習では当日の天候などにより着弾の場所を変えることもありえるから成功、失敗の区別はできないが、少なくともここからわかることはこのアニメーションが事前に準備されていたという点だ。専門家はこうした演習に関しての報道内容も含めてかなり前から周到に準備されていたものでこれだけ大がかりな演習は最高指導部への決裁も含めて少なくとも数ヶ月を要したと予測する。
つまり、中国軍は台湾侵攻能力を試すためにかなり前から演習を準備していてペロシ下院議長の台湾訪問はむしろこれを実行に移す絶好の機会となったという見方もできる。専門家は今回の演習を境に中国軍が台湾海峡の中間線を突破することや台湾上空を飛び越えてミサイルを撃つことをもはや「タブー視」しないという東アジアの安全保障環境が新常態に入ったとみている。ただ、演習がアメリカ軍との正面決戦を想定していなかった点や中国軍が台湾に肉薄したことが、しきりと強調されていた点などを見ればあくまで台湾に武力を用いずに屈服させたいという基本線は変わっていないと考えられる。ただ、10月の共産党大会を経てさらに強硬姿勢を強める可能性は多いにある。中国軍が今回の演習を経てさらに自信を深める中で今後、台湾侵攻の新たな青写真を見せてくるのか注視する必要がある。
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