「幻想にすぎない」ロシア産原油に“価格上限”案 G7だけの制裁に限界?専門家解説(2022年6月27日)

「幻想にすぎない」ロシア産原油に“価格上限”案 G7だけの制裁に限界?専門家解説(2022年6月27日)

「幻想にすぎない」ロシア産原油に“価格上限”案 G7だけの制裁に限界?専門家解説(2022年6月27日)

ウクライナ軍がセベロドネツクから撤退して数日、近隣の町も次々とロシア軍に占領されています。

東部のほとんどを手中におさめたロシア軍ですが、攻撃の手を緩める様子はありません。

首都キーウではまたも、市民が暮らす集合住宅がミサイル攻撃の標的にされました。

救助隊員:「心配しないで。ここに私がいるよ。ママも助けるから心配しないで。すぐにママに会えるよ」

ガレキから助けだされたのは7歳の少女。この攻撃で、彼女の父親が命を落としたとみられています。

キーウ地区に撃ち込まれたミサイルの数は、この日だけで14発に上ります。

住民:「目が覚めたのは2回の攻撃の後で、すぐに3回目がありました」

ロシア側は「ミサイル工場を攻撃した」と主張していますが、ウクライナ側は別の意図があったとみています。

ウクライナ、ポドリャク大統領府顧問:「これはG7に対するプーチン一味のメッセージだ」

キーウ攻撃の数時間後に、ドイツで始まったのがG7サミットでした。

アメリカ、バイデン大統領:「(Q.ロシアのキーウ攻撃について受け止めを)お得意の野蛮な行為だ」

今回のG7サミットの主要議題の1つは“対ロシアでどう一致団結していくか”。それを象徴するかのような場面がありました。

イギリス、ジョンソン首相:「上着は着たまま?脱ぎます?脱いでいい?」

カナダ、トルドー首相:「撮影まで待ちましょう」

イギリス、ジョンソン首相:「プーチンよりタフなところを見せないと」

カナダ、トルドー首相:「裸で馬にでも乗りますか」

EU、フォンデアライエン委員長:「馬を走らせるともっといいかも」

イギリス、ジョンソン首相:「胸筋を連中に見せつけてやりましょう」

その後、本当に全員ジャケットを脱ぎました。足並みならぬ“服並みをそろえた”形です。

2日目、安全保障問題が議題となったセッションでは、ゼレンスキー大統領もオンラインで加わりました。

ロイター通信によりますと、ゼレンスキー大統領から“冬までに戦争を終わらせたい”という発言があったといいます。

イギリス、ジョンソン首相:「今回のG7では“ウクライナ疲れ”の話を誰もが聞かされる。世界が抱える不安、終わらない戦争、食料とエネルギー価格もそうです。しかし、この数日で驚かされたのは、私たちの一貫した決意と、G7の結束が保たれていることです。(Q.裏では分断が起きているのでは)この数日間の対話で、私たちの立場と結束が如実に表れています」

今回のサミットには、インドや南アフリカなど5カ国が招待されていて、ロシア側の戦略を切り崩そうという狙いもあります。

◆ドイツで取材にあたっている小島祐樹記者に聞きます。

(Q.5カ国を会議に呼んだ意味は何ですか?)

G7としては、ロシアと関係が近い国のなかでも、民主主義という同じ価値観を持つ国を招待して、最終的にはG7側に引き込む狙いがあります。

もう一つ、今回招待された5カ国には、これまでロシアへの制裁に加わっていないという共通点があります。

G7側からすると、すべての制裁にとまでは言わないまでも、折り合えるところでは協力してほしいという思惑も伺えます。

裏を返せば、G7だけでは限界だと感じる場面が出始めているとも言えます。

特に今回、最大の焦点とも言える「ロシアへの圧力強化」という点では、G7の限界を強く感じます。

例えば、ロシア産の石油の取引価格に上限を設ける案が検討されていますが、この制裁は、G7以外のもっと多くの国も一緒になってやることで初めて、ロシアへの圧力という意味でも、石油価格を抑え込むるという意味でも効果を発揮する内容です。G7だけでは、効果が限定的だと言わざるを得ません。

2日目は、5カ国の招待国も交えて気候変動やエネルギー、さらには食糧危機について意見が交わされました。G7と連携することで、こんなメリットがあるんだとアピールする一方で、G7にとしては、目の前に広がっている数多くの課題に対して、具体的な道筋を示す場面は少ない印象です。結果として、単に結束を高める機会にとどまる可能性もあります。

岸田総理も表明しましたが、G7では「ロシア産の金の輸入禁止」を打ち出す方針です。ロシアにとって金はエネルギーに次ぐ輸出品で、世界シェアの約1割を占めています。

◆防衛省防衛研究所・兵頭慎治さんに聞きます。

(Q.金の輸入禁止は、ロシアにどのくらい影響しますか?)

エネルギーに次ぐ輸出品なので、エネルギーほどのダメージはありませんが、G7側も新たな制裁メニューが限られるなか、結束して引き続きロシアに制裁を加える意志が表明できたと思います。ロシアにとっても一定の政治的なインパクトがあったと思います。

プーチン大統領の側近や新興財閥は自らの資産を価格変動が少ない金に交換していると言われています。禁輸となると、資産の売買が難しくなっていくことが予想され、一定の制裁効果はあるのではないかと思います。

***

アメリカメディアよりますと、G7が検討しているのは「上限価格に抑えた石油タンカーのみ、ヨーロッパの船舶保険を適用する」というものです。

ヨーロッパには、ロイズ保険組合という世界最大の保険市場があり、上限価格に従わない場合は市場から締め出す方針。海運業者は保険に入れず大きなリスクを抱えることになります。

(Q.この措置の効果をどう評価しますか?)

これまでEUなどは、年末までにロシアからの原油の9割を禁輸する合意に達していますが、インド・中国などがロシアから原油を高値で購入し、制裁の“抜け道”になっていました。

ロシアによる軍事侵攻後、ロシアの石油輸出量が増えているという事実もあります。今回のような措置を取ることで、第三国への原油輸出の値段を抑える狙いがあると思います。

イギリスとEUは、ロシア産石油を運ぶ船には保険を提供しないとしてきましたが、今回はアメリカの提案で「上限価格以下であれば保険を認める」という方向で合意が進みつつあるんだと思います。

背景としては、アメリカも原油高で国内問題になりつつあります。一定の価格以下であれば取引できるようにしたあたり、原油制裁に対するアメリカの態度の変化もあるように思います。

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アメリカメディアに掲載された論評によりますと「ロシアは代替となる保険の提供を始めていて、中国やインドはそれで十分となるかもしれない。この計画は“ピュア・ファンタジー”だ」としています。

(Q.“単なる幻想にすぎない”との評価もありますが、どう見ますか?)

今までは保険会社は基本的にヨーロッパに集中していました。その代替としてロシア自身が保険の提供を始めていると報じられています。

ただ、ロシアの保険会社の信頼性も含めて、果たして保険会社を乗り換える動きが本格化するかどうか。この動きを注視していく必要があります。

上限価格設定の効果が、ロシア側の措置によって薄れていくかもしれません。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>

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