『ロシア提案“3つのルート”非現実的』輸出停滞で食糧危機の懸念 専門家解説(2022年6月6日)
世界4億人分の食料を賄ってきたと試算されているウクライナの農作物。ロシア軍が事実上の海上封鎖をしているため、黒海の港からは輸出が全くできていません。ロシアのラブロフ外相は8日にトルコを訪問しますが、主な議題は『ウクライナの穀物問題』です。これに関しては、プーチン大統領もコメントしています。
プーチン大統領は「我々はウクライナの穀物輸出を妨害しない」として、“3つのルート”を提案しています。1つ目は、オデーサ周辺の港から輸出。ただし、ウクライナが仕掛けた機雷除去が必要だと主張しています。2つ目は、ロシア支配下のマリウポリなどのアゾフ海の港から輸出。そして、3つめはベラルーシを経由して輸出。ただし、ベラルーシの経済制裁の解除が必要だと提案しています。
◆防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。
(Q.これらは、プーチン大統領の身勝手な言い分のような気がしますが、どうでしょうか)
そう思います。この“3つの提案”は、ロシアにとって都合がいい、有利な内容になっていて、これをウクライナ側が受け入れるのは難しいと思います。ウクライナ側が、この提案を拒絶したら「穀物の問題、将来的な食糧問題を引き起こしたのは、ウクライナを含めた欧米諸国だ」と責任転嫁できる。これをプーチン大統領は狙っていると思います。
(Q.欧米には揺さぶりをかけ、一方、食料価格上昇で貧しい国が危機に瀕するという側面もありますが、どうでしょうか)
ロシアに経済制裁しているのは欧米中心に40カ国ほどです。それ以外、制裁に加わっていない大多数は発展途上国で、食糧問題は、その国にとって大きなダメージとなり、政情不安を巻き起こす可能性があります。欧米諸国以外の国に対して、食糧問題が深刻化しないように「ウクライナは早く停戦すべき」という国際社会の世論を拡大していくというプーチン大統領の狙いも透けてみえるのではないでしょうか。
(Q.ロシアにとって、トルコがカギを握るのでしょうか)
今回のラブロフ外相のトルコ訪問ですが、これは予定されているとみられる首脳会談の地ならしだとみられています。仮にプーチン大統領とエルドアン大統領の首脳会談が実現すれば、ロシアとしては、トルコを引き込んでいきたい。トルコは停戦協議の仲介役を果たしていますので、今後、戦争の出口をめぐって、仲介をしていく際に、なるべくロシア側の立場をトルコに求めていく。ロシアに有利に持っていきたいという狙いがあるとみられます。ただ、一筋縄ではいきません。トルコはNATO加盟国ですので、ロシアとの間で天秤にかけながら、したたかな外交をやっていくのではないでしょうか。
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