「長期化で連携難しく・・・」欧米の足並みに乱れ?“戦争終結”にも温度差 専門家解説(2022年5月31日)
ウクライナ東部では、ロシア軍の激しい砲撃で状況が厳しくなっています。
ロシア軍の砲撃に対抗するため、ウクライナが提供を求めていたのが、長距離ロケット砲です。多連装ロケットシステム『MLRS』は最大射程が300キロと長く、ロケット弾の連射が可能です。
しかし、アメリカのバイデン大統領は30日「ロシア国内を攻撃できるロケットシステムをウクライナに提供する気はない」と明言しました。
◆防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。
(Q.バイデン大統領がこうした武器を提供しないのはなぜですか?)
兵頭慎治さん:「戦闘が激化している東部2州で、射程300キロのロケットシステムを使うと、ロシア領内に着弾してしまう危険があります。ロシア領内に着弾した場合、直ちに戦争宣言を行ったり、国家総動員で戦力を大幅に増強する口実を、ロシア側に与えてしまう恐れがあります。アメリカは、戦争が一気にエスカレートする危険を感じ取っていて、バイデン大統領も供与に慎重な姿勢を示しているんだと思います。ウクライナは長距離砲に対抗する術がなく、戦闘が長期化する原因の一つになると思います」
ロシアに制裁を加える国際社会側も、戦争の長期化で連携の難しさが見えてきました。
ロシアへの追加制裁案を協議するEU(ヨーロッパ連合)の首脳会議では、ロシア産石油輸入禁止について、ロシア産石油の依存度が高いハンガリーが難色を示したため、パイプライン経由の輸入を対象から排除し、海上輸送分のみ禁止という妥協案で合意しました。
(Q.EUの結束の度合いをどうみていますか?)
兵頭慎治さん:「ロシアからは“強い結束力が揺らぎつつある”と見え始めていると思います。EUは今後、天然ガスへの追加制裁に踏み切る可能性がありますが、そうなるとより一層、各国のエネルギー事情や制裁疲れも見えるので、なおさら結束力は乱れていくのではないかと、ロシアは受け取りつつあると思います」
ロシアのプーチン大統領はここ1週間、積極的に西側諸国の首脳と会談を行っています。26日はイタリアのドラギ首相、27日はオーストリアのネハンマー首相、28日はフランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相、30日はトルコのエルドアン大統領との電話会談を行いました。
イタリア・フランス・ドイツとの首脳会談では、制裁を解除すればという条件で、ロシア産農作物などの輸出拡大を示唆したということです。
(Q.プーチン大統領が会談した相手の顔ぶれから、どんなことが分かりますか?)
兵頭慎治さん:「プーチン大統領が会談した首脳は“妥協してでも早く停戦をしてほしい”と考えている国ではないかとみられています。ロシアは、追加制裁を何としても止めたいですし、ウクライナに早く停戦に応じて、何らかの妥協を求めるため、欧米諸国から説得・圧力をかける狙いがあると思います。こうした動きをするということは、ロシアへの経済制裁が効いていて、今後のさらなる追加制裁は避けたい思いがあると思います。ロシアの国家財政の半分近くはエネルギー収入です。天然ガスまで完全に禁輸されると、国家の財政が危機的な状況になる恐れがあり、戦闘を続けられなくなる可能性もあります。そのため、プーチン大統領は連日、会談を行っているんだと思います」
(Q.プーチン大統領の狙いはうまくいきますか?)
兵頭慎治さん:「ヨーロッパでは、戦争の出口をどうするかについて意見が割れつつあります。例えば、ウクライナ・アメリカは、ロシア侵攻前に戻したいと主張しています。しかし、ドイツ・フランス・イタリアでは、妥協してでも早く停戦を促したいという意見が出ています。また、ポーランドやイギリスなどでは、一切譲歩・妥協しない、クリミア半島も含めて手放すべきではないという姿勢を示しています。プーチン大統領は温度差を見て取って、食糧危機の問題を出しつつ、欧米の意見を分断しながら、結束を乱していく狙いがあると思います」
(Q.戦闘の長期化を見据え、結束を維持するために大事なことは何ですか?)
兵頭慎治さん:「戦争の出口も含めて、ロシアに隙を見せないように、欧米諸国で意見が割れないようにすることが何よりも重要です。今後、天然ガスの追加制裁に踏み切る時に、日本も含めて足並みが乱れないように、連携を深めていくことが重要だと思います」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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