【解説】4630万円誤振込 “出金記録”から分かることは…「使い切っていない可能性」指摘も

【解説】4630万円誤振込 “出金記録”から分かることは…「使い切っていない可能性」指摘も

【解説】4630万円誤振込 “出金記録”から分かることは…「使い切っていない可能性」指摘も

山口・阿武町が誤って4630万円を振り込んだ問題で、逮捕された24歳の男は、「賭け事に使った」と話しているといいます。振り込まれたお金はどのようにオンラインカジノにつぎ込まれたのか、少しずつ明らかになってきました。「男(24)の動機は?」、「11日間で“34回出金”」、「金の使い道は?」、の3つのポイントについて詳しく解説します。

■4630万円“誤振込”急展開…振込先の男逮捕
男の逮捕を受けて、19日朝、阿武町の町長が取材に応じました。

山口・阿武町 花田憲彦町長
「(お金は)残っている可能性はあるんじゃないかなと思いますから、『お金を見つけ出して全額を回収していきたい』という気持ちには変わりはありません」

18日夜、この事件は急展開し、山口県警は返金を拒んでいた阿武町の田口翔容疑者(24)を、電子計算機使用詐欺の疑いで逮捕しました。逮捕前に任意同行を求められた時には、暴れるなどの様子はなかったといいます。警察の調べに対しては、「振り込まれた金はネットカジノに使った」と話すなど、容疑を認めているということです。

この事件については、田口容疑者がすでに「金は使った」としていることも問題ですが、阿武町が送金のミスをし、対応に時間がかかり出金を許してしまったことなど、様々な問題があります。

これまでの経緯を振り返ります。

阿武町は人口約3100人で、町はコロナの影響で生活に困窮する世帯を対象に、臨時特別給付金を463世帯に対して10万円ずつ振り込みました。その上で、事務のミスで田口容疑者1人の口座に、4630万円を誤って振り込んでしまったということです。

町の職員はミスがあったその日のうちに、田口容疑者の自宅を訪れて説明したところ、いったんは返金に同意して手続きをするため銀行に行きましたが、直前で態度が変わり「きょうは手続きしない」と述べたということです。そして2週間ほどたったころ、「お金はすでに動かした。もう戻せない。罪は償う」と話して、返金を拒否したといいます。

今回、逮捕された田口容疑者は、1年半ほど前、町の空き家を活用して定住促進を図る制度を利用し、阿武町に移住してきたということです。

■11日間で“34回”出金…記録から分かることは
4630万円全額を約2週間で「使い切った」というのは信じがたいですが、いったい何が起きたのでしょうか。

田口容疑者の弁護士によると、本人は、「海外のカジノサイトで全部使った」と話しているということです。そして、田口容疑者の入出金記録が明らかになりました。

当初、残高665円だった口座に、4月8日、コロナ給付金10万円が入金され、その同じ日に4630万円が振り込まれています。

出金については、その日のうちに67万円あまりが出金されていることがわかります。さらに、4月11日だけで、「デビット決済」や「A社」に8回送金されています。その翌日の12日には、「L社」に300万円、「M社」に400万円との額が送金されています。

その後も、残高はどんどん減っていき、わずか11日間で合計34回出金され、最終的な残高は約6万8000円になったといいます。結局、使われた金額は、誤って振り込まれた4630万円よりも3万円以上多かったということになります。

この記録からは、「デビット決済」、「A社」、「L社」、「M社」の少なくとも4か所に送金していることが確認できます。情報セキュリティーに詳しい神戸大学大学院・森井昌克教授によると、「田口容疑者はこの4か所でオンラインカジノを利用していた可能性がある」といいます。

記録を細かく確認すると、最初はほとんど「デビット決済」で出金しています。デビット決済は支払いと同時に銀行から引き落とされるシステムなので、まずは身近なデビット決済で引き落として、試しに何度かオンラインカジノをやってみた可能性があるといいます。

「L社」と「M社」に対してはそれぞれ「300万」、「400万」と金額がきっちりしていますが、これについては、円で購入できてネット上でやりとりできるビットコインなどの暗号資産を購入した可能性があげられています。

一方で、ほとんどの出金を占めるのが「A社」です。この「A社」については、例えば「133万5897円」などと、毎回1円単位の端数が記録されています。なぜ端数なのか、森井教授によると、「海外のカジノはドル建て決済のものが多く、『A社』もドル建てで決済しているのではないか」といいます。

例えば、先月14日に振り込んだ「132万8912円」を当時のレート(1ドル=約125円)でドルに換算すると、約1万631ドルになるといいます。森井教授は「毎回同じような金額を、日々変わるレートで円をドルに換算したために、こうした端数になっているのではないか」と指摘しています。

■専門家「使い切っていない可能性」指摘…お金は返ってくる?
田口容疑者は「全部使った」と話しているということですが、本当に全額使い切ってしまったのでしょうか。森井教授は、「お金はまだ、どこかにあって、使い切っていない可能性」を指摘しています。

オンラインカジノにお金を振り込んだものの、「一部は使ってまだ残っている可能性」や、「そもそも賭け自体をせずに、全額残している可能性」があるといいます。もう1つの可能性としては、「オンラインカジノ経由で、海外などの別の口座にお金を移した可能性が考えられる」ということです。

残っているとしたら、そのお金はそのまま返ってくるのでしょうか。

森井教授によると、「なかなか難しいのではないか」といいます。お金が残っているかどうかを調べるには、カジノ会社からの情報公開が必要ですが、「すぐに情報を開示する」という評判が立つのをカジノ会社は嫌がるので、「なかなか協力は得られない可能性がある」と指摘しています。

    ◇

男によるお金の流れを細かく確認してきましたが、そもそも、日本からオンラインカジノに参加すること自体、「賭博罪に問われる可能性もある」という弁護士の指摘もあります。

今回の事件は、そもそも誤って振り込んでしまった阿武町側の対応や、事実上、オンラインでカジノができてしまう法の抜け穴など、容疑者本人の行いだけでなく、様々な課題も浮き彫りにさせました。これをきっかけに対策が進むことを期待します。
(2022年5月19日放送「news every.」より)

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