【母乳バンク】赤ちゃんの命救う“ドナーミルク” 進まない周知と普及

【母乳バンク】赤ちゃんの命救う“ドナーミルク” 進まない周知と普及

【母乳バンク】赤ちゃんの命救う“ドナーミルク” 進まない周知と普及

■体重1200gあまりの赤ちゃん“ドナーミルク”が救った命

都内に住む松藤みずきさん(36)は夫の久さん(34)と1歳になる蒼波くんとの3人家族。実は蒼波くん、出産予定日の2か月以上も前に生まれ、命の危機に直面していました。生まれた時の体重は1224g。両手のひらに収まるほどのちいさな体。肺ができあがっておらず、自発呼吸も難しい状態で、医師からは「3日間が山だ」と告げられたといいます。気持ちが混乱し、すぐに母乳を与えられる状況ではなかったみずきさん。そんな時、医師から提案されたのが“ドナーミルク”の使用でした。

“ドナーミルク”とは、ほかの母親から寄付された母乳のこと。早産などで1500g未満の体重で生まれた赤ちゃんは、腸が未熟なため、粉ミルクをうまく消化できず、腸が壊死してしまうなどの危険性があるといいます。母親が病気や、体調が整わないなどの理由で母乳を与えられない場合、ドナーミルクは小さく生まれた赤ちゃんの腸を成熟させる働きがあるのです。蒼波くんには、みずきさんの母乳が必要な量出るまでの4日間ほどドナーミルクが提供され、命をつなぐことができました。

■国内1か所のみ“ドナーミルク”提供する「母乳バンク」

東京・日本橋にある育児用品メーカー「ピジョン」の一角を借りて運営されているのが、ドナーミルクを提供する「母乳バンク」です。国内では、現在この1か所にしかありません。ここに届いた母乳はその日のうちに、袋の破損や異物の混入がないか入念な確認が行われ、解凍されたあと低温殺菌されるなどして安全なドナーミルクになります。

この「母乳バンク」を運営するのは昭和大学小児科主任教授の水野克己医師です。かつて出会った赤ちゃんが忘れられないといいます。「24、5週ですかね。超早産で赤ちゃんを出産してお母さんが亡くなった。その後、粉ミルクで育てられたんですけど、壊死性腸炎を起こして、退院した時には視力障害、聴覚障害いろんな問題を抱えて退院した」。水野医師はオーストラリアへの留学中「母乳バンク」の立ち上げを目にしたこともあり、母乳にはかなわないものの、セカンドベストとしてのドナーミルクを提供できる体制は日本にも絶対に必要だと、ドナーミルクを広めることを決意。2013年に日本で初めての「母乳バンク」を立ち上げ、これまで700人を超える赤ちゃんにドナーミルクを提供してきました。

■ギリギリの運営続ける「母乳バンク」と支える母親たちの存在

しかし、その運営は綱渡りです。「去年10月11月ぐらいには、これは母乳バンクの口座残高がゼロになるなと思っていました」こう話す水野医師。海外よりも厳しい安全基準でドナーミルクを提供しているため、検査費用などがかさみ、年間の運営費は4000万円近くにのぼるといいます。運営はドナーミルクを提供した病院からの利用料のほか、寄付金などで維持しているのです。

さらに、この「母乳バンク」を支えるのは、母乳を提供する母親たちです。ドナー登録している古谷智子さん(38)。実は、自身も妊娠高血圧症にかかるなどし、去年2月、緊急帝王切開で二女の南歩ちゃんを出産しました。古谷さんは母乳が出たため、ドナーミルクを利用しませんでしたが、24週で生まれた南歩ちゃんの体重は282g。小さな体が必要とする母乳の量は少なく、逆に母乳が余ってしまったといいます。「搾乳して破棄しなきゃいけないのは、なんか切ないなって」都内にある病院の新生児科の医師でもある古谷さんは医療の最前線に立てない今“少しでも多くの赤ちゃんが笑顔になれるように”と、ドナーになることを決めたといいます。

■“ドナーミルク”の課題 国内でまだ普及しない現状

現在ドナーミルクを利用している病院は、全国でわずか50ほどしかありません。「母乳バンク」と提携している病院のひとつ、東京都立小児総合医療センター(東京・府中市)では、年間60人ほどの赤ちゃんがドナーミルクを利用。導入以来、壊死性腸炎で亡くなる赤ちゃんはいなくなったといいます。しかし、現場を知る新生児科の新藤潤医長は「ドナーミルクについて初めて聞きましたと戸惑われる方も多いですし、やっぱり他のお母さんの母乳ということで抵抗があるという方も中にはいらっしゃいます」こう話し、ドナーミルクの周知が進むことで、突然、我が子の命に関わる選択を迫られる親たちの心の負担を減らせるといいます。

■新たな「母乳バンク」4月から始動

こうした中、新たな動きも。3月16日、都内にもう1つの「母乳バンク(日本財団母乳バンク)」が設立され、4月から本格始動することに。水野医師も理事長に迎えられ、年間5000人の赤ちゃんにドナーミルクを届けられる態勢へと前進しました。水野医師は「小さな赤ちゃんたちをみんなで守る。そして母乳バンクを運用する医師もぜひ増えてきてほしい」と話します。

体重1224gで生まれた蒼波くんの母、みずきさんは…「ドナーミルクをこの子がもらって生きられたというのは絶対に忘れちゃいけないなって思います。元気になった子がちゃんといるよっていうことを知ってもらいたいなと思います」。ドナーミルクという命のバトンが赤ちゃんたちの命をつないでいます。
(3月23日放送 news every.より)

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