【解説】狙いは?ウクライナEU加盟申請 強まるロシア包囲網

【解説】狙いは?ウクライナEU加盟申請 強まるロシア包囲網

【解説】狙いは?ウクライナEU加盟申請 強まるロシア包囲網

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、国際社会や経済界でも「ロシア包囲網」とも言える動きが強まっています。こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は“秘策”といえるEUへの加盟を正式に申請しました。その狙いなどについて詳しく解説します。

■「母さん、とてもつらいよ」ロシア兵と母親の“やり取り” 国連の会合で…

国連では、2月28日から「ロシアを非難する決議案」の採択を目指して、緊急特別会合が開かれていますが、その冒頭で、「あるメッセージのやり取り」が読み上げられました。

最初の演説者として登壇したウクライナ国連大使が読み上げたのは、ロシア兵のスマートフォンに残された「母親とのやり取り」だとするメッセージです。

母親
「本当に訓練中なの?」

兵士
「母さん、僕はもうクリミアにはいないんだ。訓練じゃない」

母親
「何を言っているの? 何が起きたの」

兵士
「母さん、僕はウクライナにいるんだ。本当の戦争なんだ。怖いよ。『人々は僕らを歓迎してくれる』と聞かされていたんだ。でも、彼らは僕らの装甲車の下に身を投げて、先に行かせないようにしている。母さん、とてもつらいよ」

この後、この兵士は「亡くなった」ということです。しかし、どのような状況で死亡したのか、どうやってメッセージを入手したのかなどは、明らかにされていません。

ただ、ウクライナ大使は「ロシア国民にも聞いてほしい」と、あえてロシア語でこのメッセージを読み上げたということです。

■「新たな冷戦をあおっても何も得られない」ロシアと“親密”な中国からも…

この緊急特別会合が安全保障理事会の要請で開かれるのは、40年ぶりのことです。

国連加盟国193か国のうち、110か国以上が演説をしますが、初日は次々と各国が「ロシア非難」を6時間以上に渡り展開しました。次の演説はその一部です。

デンマーク
「ロシアが戦いをやめれば、戦争はなくなる。ウクライナが戦いをやめれば、ウクライナがなくなる」

イギリス
「私たちが今立ち上がらなければ、全ての国の国境と独立が危険にさらされる」

フランス
「ロシアのウクライナからの撤退を求める。全ての大陸の市民の声を伝えなければならない」

中国
「状況は、中国が望まないところまで発展している。主権と領土保全は尊重されるべき。冷戦はとっくに終わっている」

ロシアと親密な関係にあるとされる中国からも、「新たな冷戦をあおっても、何も得られない」とロシアに冷静な対応を求めました。

■国連“ロシア非難”「国連憲章に違反」 NNNが決議案入手

日本時間3日にも採択される見通しの決議案の内容をNNNが入手しました。

その中では、ロシアによるウクライナ侵攻について、「最も強い言葉で遺憾の意を表する」とした上で、「国連憲章に違反する」ということが明記される見通しです。

この決議には法的拘束力はありませんが、1か国でも多くの国が賛成することで、ロシアへの強い非難が「国際社会の総意」であることを示し、「ロシアの孤立」を強調するという意味合いがあります。

こうした中、国連人権委員会で1日、ロシアのラブロフ外相がオンライン形式で演説を始めたところ、人々が次々と立ち上がり議場を去るという場面も見られました。アメリカや欧州連合(EU)の代表団が相次いで退席して、抗議の意志を示したのです。

■ゼレンスキー大統領“秘策” EU加盟申請…狙いは?

ロシア包囲網が強まり、「ウクライナを支援しよう」という国際的なムードが高まる中、ウクライナのゼレンスキー大統領がEUへの加盟を正式に申請しました。

1日には、EUの加盟国によるヨーロッパ議会が開かれ、ウクライナに「加盟候補国」の地位を与えるよう求める決議が大多数の賛成で採択されました。

この採択に先だって、ゼレンスキー大統領が1日夜、議会で演説を行いました。ゼレンスキー大統領が登場すると、大きな拍手がわき起こり、歓迎ムードに包まれました。

ウクライナ ゼレンスキー大統領
「EUのメンバーになるために奮闘しています。 私にとって(現状は)悲劇であり、ウクライナ国民・世界の皆さんにとっても悲劇です」

実はゼレンスキー大統領にとっては、以前から温めていたカードをここで切りました。ある意味“秘策”のようなものです。ウクライナはこれまで北大西洋条約機構(NATO)への加盟を目指していましたが、今回申請したのはEUへの加盟です。

NATOは、アメリカやヨーロッパなど30か国が結ぶ集団防衛、つまり軍事同盟です。一方のEUは、2020年にイギリスが離脱しましたが、現在27か国が加盟する経済・政治の同盟です。

軍事同盟のNATOを目の敵にしているプーチン大統領は、「ウクライナの加盟は認めない」としています。

今回、ゼレンスキー大統領は、「ならば、軍事でなく、経済・政治の同盟でヨーロッパの仲間入りをしよう」ということです。

「それであれば、EUにもむげにはされないだろう。もし加盟できれば、ウクライナのバックには『EUがついているぞ』ということを見せつけられる」と思っているわけです。

「ロシアに支配などされない」というプーチン大統領に向けた明確なメッセージとなるということです。

■ クロアチアは10年…“長い道のり”時間がかかるEU加盟 

しかし、EU加盟は簡単なことではなく、長い道のりになりそうです。ヨーロッパ議会で求められたのは、ウクライナが「加盟候補国」の地位になることで、あくまで「候補」です。

今後は、正式な加盟に向けた交渉が行われる流れとなりますが、この交渉をスタートさせるだけでも加盟国の全会一致が必要になります。

その後、「民主主義」や「人権」、「法の支配」など、EUにふさわしいかどうかのチェックが行われます。さらに正式加盟にも再び、全会一致が必要となります。2013年に加盟したクロアチアは、申請から10年かかりました。

     ◇

停戦協議の最中にも攻撃の手を緩めないプーチン大統領に対し、国際社会はプーチン氏が想像した以上に強く結束し、暴挙を止めさせようと行動を起こしています。

「焦り始めている」と言われるプーチン氏が、“理性”を取り戻せるのか、あるいはさらなる“暴挙”に打って出るのか。2回目の協議の行方を、世界は固唾をのんで見守っています。
(2022年3月2日放送『news every.』より)

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