土砂災害を防げ!祖父の背中追う…新人“空師”の挑戦に密着「故郷の森林を守りたい」(2023年9月19日)
豊かな森林を守るだけではなく、気候変動によって増加する土砂災害の防災にも大きな役割を果たしている木の上での作業の専門家・空師の世界に飛び込んだ女性を取材した。彼女が見つめる日本の林業の未来とは。
■社長「ウチの娘は出さん」西條さんに期待
およそ10メートルの木に登り、枝や幹を伐採するのは西條綾奈さん(36)。今年3月にデビューした空師だ。
西條さん:「(Q.今は何をされている?)電線周りの支障木を伐採します」
空師とは、狭くて高所作業車などが入れない場所の木に特殊な技術で登って、枝や幹を伐採する樹上作業の専門家。空に一番近い場所で作業することから、江戸時代から呼ばれてきたという。
西條さん:「(Q.なぜ根もとから倒せない?)電線のほうに倒れるかもしれないので、ちょっと危ないですね」
近くにある電線に触れる恐れのある枝を伐採すること5時間、体力も集中力も必要な過酷な仕事だ。
西條さんが働く「林業WADA」がある徳島県三好市は、四国の中央部に位置し、面積のおよそ9割を森林が占めている。
自らも空師である和田一郎社長(61)は「全国にかけて仕事ができるような形に育てていってあげたいし、全協力して西條を一人前にさせてあげたい」と話し、西條さんに期待を寄せている。
西條さん:「(Q.西條さんにとって、社長はどんな人ですか?)とても頼りがいあるし、年齢的にお父さんみたいな感じですね」
林業従事者は高齢化が進んでいて、西條さんのように若くやる気のある人は、貴重な存在だという。実際、西條さんが働く会社でも林業作業員4人のうち、30代は西條さんのみで、他の作業員は全員60代だ。
和田社長:「他の業者と一緒に提携して仕事する時、『西條さんウチにもらいたいな』というのも話に出るけど、『いや、ウチの娘は出さん』『まだまだ、嫁に出すわけにはいかん』と」
■危険な仕事を志した女性空師・西條さん
森林が多い三好市では、年々、空師の役割の重要度が増しているという。
徳島・三好市 高井美穂市長(51):「短時間に集中的に降る、日による降水量の多さというのは、明らかに近年増しています。線状降水帯とか集中豪雨は土砂災害にも直結しますので、林業事業体の皆さんと連携しながら、山の手入れをすること、維持管理をできるだけ欠かさずするということにも取り組んでいます」
この日、西條さんたちが向かったのはある家屋の裏手にある山で、高齢となった所有者から山の整備を依頼されたという。
しかし、待ち受けていたのは、高さおよそ15メートルの木だった。
西條さん:「この木に登って、枝を落としていきます。15、16(メートル)くらいはありますね」
根元から切り倒すと、周りの木に影響が及ぶ恐れがあるため、上から伐採していくという。
西條さん:「(Q.これは何の準備?)木に登るために昇柱器・クライミングスパーというやつを付けてます」
西條さんが用意したのは、鋭い爪が付いた器具と1本のロープ。この装備だけで木に登るという。
和田社長:「気を付けてよ」
西條さん:「はーい」
およそ6分で高さ8メートル付近に到達。体を固定し、伐採作業に取り掛かる。
西條さん:「チェーンソー取ってもらっていいですか」
危険も伴う過酷な仕事である空師を志した西條さん。そこには、ある人物への憧れがあった。
■「故郷の森林を守りたい」西條さんの思い
高所作業車などが入れない場所で、自ら木に登り、伐採をしていく空師。なぜ、西條さんはこの世界に飛び込んだのか。
高校卒業後、大阪で就職をした西條さん。しかし、都会の生活を続けるなかで、ある思いが湧いてきたという。
西條さん:「やっぱり都会は便利でいいんですけど、田舎の方が自分に合っているなと思って恋しくなりましたね。冬は雪なので白色なんですけど、春になったら花・桜も咲いて、夏になったら深緑色の葉、秋になったらもみじが紅葉して、とてもきれいですね」
「故郷の森林を守りたい」という思いが、西條さんの背中を押した。
西條さん:「じいちゃんが自分の山の杉林の枝を切ったり、木を切ったり、手入れしていたから、じいちゃんの存在があったから林業をやってみようかなって思えたところもあると思うので、感謝しています」
西條さんは祖父の背中を思い出し、林業の世界に飛び込んだ。資格はいらないものの、経験を積まなければならず、2年の修行を経てこの春「空師」となった。
現在、土砂災害から避難所を守るために建設中の砂防ダムの現場でも、空師の西條さんたちが活躍していた。
西條さん:「邪魔になっている木がたくさんあったので、伐採するために登って作業しました。自分たちの仕事がみんなを守ることにつながっているので、とても誇らしく思います」
■西條さんの絵で表現される「森林の循環」
女性の空師として活躍する西條さんが思い描く「未来図」をうかがった。
西條さんが書いた画は「森林の循環」を表しているという。「苗を植え、木を育てて、木を切り、使い、そして新しい苗を植える」という循環だ。
西條さんは「林業に携わる人が増え、森林の循環を活発化させていくことで、より多くの森を守りたい」と話した。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2023年9月19日放送分より)
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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