「安全と安心は全く違う」いのち繋いだ男性が語る避難の重要性 “犠牲者ゼロ”アプリ目指す研究者の奮闘【つなぐ、つながる】 |TBS NEWS DIG

「安全と安心は全く違う」いのち繋いだ男性が語る避難の重要性 “犠牲者ゼロ”アプリ目指す研究者の奮闘【つなぐ、つながる】 |TBS NEWS DIG

「安全と安心は全く違う」いのち繋いだ男性が語る避難の重要性 “犠牲者ゼロ”アプリ目指す研究者の奮闘【つなぐ、つながる】 |TBS NEWS DIG

■16mの津波から・・・いのちを繋いだ男性の経験したこと

宮城県石巻市・雄勝町。阿部晃成さん。家族7人全員で津波に流されながらも、いのちを繋いだ。

雄勝町には、高さ16mもの津波が押し寄せたのだ。

阿部晃成さん
「まさにあの白い塔みたいなのが建っているところに家がありました」

当時、阿部さんの住んでいた地域には2つの避難場所があった。1つは自宅から200メートルの高台にある公園。

震災後に、この辺りの土地全体をかさ上げしたためそれほど高い場所には見えないが、当時は階段を100段以上上った先にあった。

もう1つは自宅から400メートル離れた幼稚園の跡地。海からより離れているうえ、家族7人が車で避難できるため、阿部さん達はそちらに向かい、さらに内陸にある知人の家に逃げ込んだ。

井上貴博キャスター
「心理的にはここまで来れば大丈夫だろうということですか?」

阿部晃成さん
「安全だとされていた場所なので、『ここまで来れば大丈夫なはず』という感覚でした」

知人宅に到着すると、家族全員で海の方を眺めて“安心”したという。

井上キャスター
「確かに実際ここに立ってみて、海が全く見えないので『越えてくることないな』って思ってしまうのがわかる」

しかし、実際には…

津波の音に気付き、すぐに住宅の2階に避難したが、その時には津波がすぐそこまで迫っていた。阿部さんと兄は屋根の上に避難したが…

阿部晃成さん
「ふっと下にいた家族の声が聞こえなくなって。兄も私の方を見ていて、人生の中で1回も見たことのないような顔をしていて、本当に『兄弟2人だけになっちゃう』ってその時思いました」

その後、水位が下がった際に残る家族5人をなんとか屋根の上に引きあげた。そのまま家ごと流され数時間後、近くに流れてきた漁船に飛び乗り、一晩漂流。

がれきをオールにしてこぎ続け、17時間後、岸にたどり着くことができた。
結局、阿部さんが選ばなかったもう一つの避難場所・高台の公園には、津波は来なかった。

当時の選択について、阿部さんは・・・

井上キャスター
「『ここまで来たら大丈夫』っていうのはダメですか?」

阿部さん
「それで安心しちゃうのはダメだと思います。本当に安全と安心は全く違うものなので」
「誤った安全で安心してしまうと、本当に死に直結することになる」

■「いままでの対策でよかったのか…」

どうすれば、より確実に“いのち”が守れるのか。

“DX避難”を最新のデジタル技術を使って、研究している人がいる。中央大学の有川太郎教授。

もともとは津波から町を守る防潮堤の設計などを研究していた。

しかし東日本大震災では、その防潮堤を津波が超え、いのちが失われた。

中央大学 有川太郎教授
「『防波堤・防潮堤があったから逃げなかったという人がいましたよ』と言われたことが一番きつかったですね。本当にいままでの対策でよかったのか…」

それから有川教授は、避難についての研究をはじめた。

地震の強さや震源の位置によって変化する津波の動きをシミュレーション。最適な避難経路を導き出そうというのだ。

有川教授
「こっちに逃げた方がよかったんじゃないかというような後悔みたいな判断の間違いをなくしていくことができれば、全員災害から逃れられる」

■“どう逃げれば助かるか” シミュレーションで見えたこと

2月、有川教授は房総半島にある千葉県勝浦市を訪れた。

同じ房総半島にある館山市については、大正時代の文献にこんな記述がある。

『海嘯ノ為メ数多家屋流失セリ』

今年、発生から100年を迎える関東大震災では、関東の沿岸を大津波が襲った。館山には高さ9メートルに及ぶ津波が押し寄せたとされる。

有川教授は、房総半島の東沖でマグニチュード8.5の地震が発生したと想定。

例えば15分後に勝浦市の沿岸部から避難をはじめた人が、どう逃げれば助かるかをシミュレーションした。

避難開始からまもなくすると…交差点に差し掛かる。

有川教授
「右に行くのがいいのか、それともまっすぐ進んで高台に行くのがいいのか」

右に行けば小学校、まっすぐ行けば高台に駐車場があり、どちらも避難場所に指定されている。

より近い、高台の駐車場を目指しまっすぐ進むと…

有川教授
「この辺のところでアウト(津波に遭う)」

有川教授のシミュレーション画面では、途中で津波に飲まれてしまった。

上から見ると、駐車場の一歩手前で後ろから迫ってきた津波に追いつかれることが分かる。

一方、同じ交差点を右折し小学校への道を選んだ場合、高台の駐車場に比べ距離はあるものの、津波にあわずに避難することができた。

有川教授
「坂道になっている所や、海から離れる方向にあるとかなどの要因で、こちらを選んだ方がいいんだろうと思いますね」

■「犠牲者ゼロが夢」大災害の前に…アプリの実用化へ

今後30年のうちに、70~80%の確率で起きるとされる南海トラフ巨大地震。

三重県には、高さ20メートル以上の津波が到達すると想定されている。

紀宝町では、人口の約1割が命を落とす可能性がある。

防災無線
「大津波警報が発表されました。避難してください」

おととし行なわれた町の防災訓練。町が定めた避難ルートで有川教授が
シミュレーションを行ったところ…住民が、津波に飲まれてしまった。町の避難計画ではいのちを落とす住民がいることが分かった。

有川教授は、あるアプリの開発を始めた。試作版を、海から200メートルの場所で飲食店を営む坪田さんに使ってみてもらうことに。

有川教授
「このボタンを押していただくと、高台があるんですけど、そこに逃げてくださいということになっていて…」

坪田さん
「ほー、すごいですね」

アプリでは地震発生後、最寄りの避難場所までの最短経路と津波に遭わずに避難できる最適な経路が表示される。
最適な経路で、その避難場所に向かってみると…歩いて3分で高台に到着した。

坪田さん
「来てみて(こんな避難場所が)意外とあるもんやなと思いました。こんなところ僕上れるのは知らなかったので、なかなかすごいですね」

デジタル技術でいのちを守る。有川教授は大災害が再び起きる前に、アプリの実用化を目指している。

有川教授
「地震津波避難は時間が勝負。アプリがあって適切に逃げて(犠牲者が)ゼロになりましたというのが夢ですね」

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