食堂で「食品ロス」問題に挑む 秘密は“おすそわけ” 24歳店主「地域の輪広げたい」(2023年2月6日)
「未来をここからプロジェクト」。高知県の過疎化が進む町で食堂を開きながら、「食品ロス」の解決を目指す、24歳の女性を取材した。
■食材は…農家からの「おすそわけ」
自然豊かな山あいに位置する、高知県香美市香北町。人口減少や少子高齢化が進み、現在、人口は4000人ほどだ。
そんな町に、おととし4月、1軒の食堂がオープンした。一見、普通の家に見えるが、看板にある「おすそわけ」とは、一体どういうことなのか?
奥で調理をしていたのは、店主の陶山智美さん(24)。空き家を改装し作った16席の食堂を、陶山さん1人で切り盛りしている。
常連客:「おいしいですね」「値段安いですね。これで800円だったら」
一汁七菜の定食は800円。「大根のクリーム煮」や「じゃがいものカレーバター炒め」などの小鉢が並ぶ。日によって変わるという、定食のメニュー。実は“ある秘密”があるという。
陶山さん:「ショウガ・ブンタン・ダイコン・シイタケ。こちらが『おすそわけ』で頂いたものです」
食材に使われている野菜のほとんどが、周辺の農家さんから「おすそわけ」として譲り受けたものだという。実際、取材中にも、近所で農家を営む人がハクサイやトマト、ナスといった、地元野菜を「おすそわけ」に来てくれた。
近所の農家・坂本由美さん(49):「(Q.どういったものをおすそわけに?)雨が降ったら、トマトがこんな感じでひび割れになるんですよ。でも、これは使えないことはないので、『まど』さんで、ダメなところだけ切り取って使ってもらいたい」
こうした野菜は、一部が傷んでいたり、形が不ぞろいだったりと、通常なら廃棄処分されてしまう物。しかし、味には問題がないため、食堂で使ってほしいと持ってきたという。
「おすそわけ」を持ってきてくれた人には、代金ではなくコーヒーや手作りの総菜などでお返している。
■「食品ロス」解決へ…協力農家“10軒以上”
もともと鳥取県出身だった陶山さんが、「おすそわけ」を使った食堂を始めたのには“ある理由”があった。
陶山さん:「中学生の時に農業に関心を持ったんですけど、一つはアフリカとかの飢餓で苦しんでいる人のことを知って」
世界の食糧問題や貧困問題を知り、農業がその両方の解決策になるのではと、農業を勉強するため高知大学に進学。そして、アルバイト先の農家で見た光景に愕然(がくぜん)としたという。
陶山さん:「現場で前の日に一生懸命、袋詰めして出荷したナスが、次の日返ってきていて廃棄みたいな。全部捨てなきゃいけないというのを見た時に、すごい自分事として感じられるようになりました」
世界には食べる物がなく、命を落とす人たちがいるのに、日本では食品ロスが当たり前になっている。そんな現状を変えるために「自分に何かできることはないのか」。そこで思いついたのが、「おすそわけ」をコンセプトとした食堂を開くことだった。
陶山さん:「『おすそわけ』してくれる食材を提供してくれる方とか、(店を)始めるにあたって『協力お願いします』とか。そういうお話をしに行って」
在学中、大学の近くで物件を探し、独学で経営や調理を学んだ。そして、卒業と同時に食堂をオープンさせた。
今では、陶山さんの考えに賛同して協力してくれる農家は10軒を超すという。
■「地域の輪を広げたい」思いを“店名”に
陶山さんがこの食堂を続ける理由は、「食品ロス」を減らすためだけではない。
日曜日、なぜかエプロン姿の子どもたちが集まる。店主の陶山さんは、子どもたちが職業体験をしながら、食べ物の大切さを学ぶ場としても、食堂を活用している。
さらに、店が休みの日には小学校に行き、「食品ロス」の問題などについて講義をすることもある。
食堂を通じて「人」がつながり、「地域の輪を広げたい」。その思いは店名にも込められている。
陶山さん:「地域の皆さんが集まって交流する『窓口』の場所として開いていたいという思いで『まど』」
■“宅配サービス”も「新しい風を吹き込んだ」
食堂には、こんな場所もある。店の一角をキッズスペースとして開放し、地域の母親たちの「交流の場」となっているという。
客:「(子どもが)遊んでくれる間に、(母親同士で)お話とかできますもんね。こういうスペースがあったら、のびのびと(子どもが)一人でも遊べるかもしれませんね」
そして他にも、店に来ることができない人のために、総菜の宅配サービスも行っている。
この日、総菜を届けたのは、一人暮らしの72歳の小松義さん。近くにスーパーもないため、小松さんは週に5日ほど配達を頼んでいるという。
陶山さん:「ユズの皮を『おすそわけ』してくれたのは、小松さんなんです。あとブンタンも『おすそわけ』して下さって。きょう、おかずに入っています」
小松さん:「本当?」
小松さんが「おすそわけ」してくれたユズは、白身魚の揚げ物の「ソース」に。そして、ブンタンは「マリネ」になっていた。
小松さん:「助かっています。今まで、こういうお店をやっていた方はいらっしゃらなかったですよね。新しい風を吹き込んでくれたんじゃないですかね」
総菜を届けることで、地域のお年寄りを見守ることも、陶山さんのやりがいになっている。
陶山さん:「配達にしてくれる人に会って会話をすることで。ちょっとでも一日の中で楽しみとか、人と会話することで元気になれるとか、そういうのがあったらいいなとは。店に来る方って皆、温かくて。皆、『おすそわけの心』を持っている。今後もそういう方々と私もつながっていきたいし、地域の中でそういう輪が広がっていったらなと思います」
■陶山さんの「思い描く未来図」とは?
食堂で地域をつなぐ陶山さんに思い描く未来図を描いてもらった。
陶山さん本人に描いてもらった絵で、食堂の「まど」が生産者と消費者をつなぐ存在になりたいという思いで描かれている。
右側にはお客さんが農家へ農業体験に行ったり、「おすそわけ」してもらう姿が。そして、左側にはお弁当の配達することで地域を見守る様子が描かれている。
大人から子どもまで、誰もが立ち寄れる店づくりをすることで「おすそわけ」の文化が地域で循環し、他の地域へも広まってほしいという想いが込められているそうだ。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2023年2月2日放送分より)
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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